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《駅前西口 対決中》
副議長さんの話は長々続きそうやった。
「はい、ありがとうございしたあ」
「お、おい!」
「さて次は大名閣さんに、今回出店された羊羹のご説明をしていただきましょう」
アナンサーさんが、強引に止めたって。
まあこれが、正解やな。
けど……
「はい、私の福井が誇る老舗であり、福井と言えば大名閣、大名閣と言えば福井、そんな我々の羊羹は……」
なんや、尚更回りくどいざ。
似とるって。
……なんやろ、体が熱い
これは、どうしたんや?
「早苗さん、どうしたん?」
女将さんが私を心配しとる。
どうやら顔に、出たようや。
「大丈夫や、それよりも大名閣やって。何を並べたかを聞きましょう」
私は女将さんに言ったんや。
一人のエキストラさんに、こちらを渡しながら。
女将さんも違うエキストラさんに、羊羹渡しながら頷いたざ。
聞き耳たてながら、仕事や。
「大名閣は今回にあたり、まず芋水羊羹、そして大名閣の水羊羹、そして最後はなんと、バレンタインデーのチョコレートに負けじとばかりに、チョコレートの水羊羹をご用意いたしました」
オッサンが言うてる。
やはり、やざ。
大名閣はチョコ羊羹を出してきた。
「やっぱりやの」
「はい、女将さん」
ある程度の手の内は、知っとった。
だから驚きはない。
芋水羊羹も、おそらくは……
「芋はサツマイモ、福井が誇る、とみつ金時を使用致しました。サツマイモの甘さと豆の甘さが合う一品であります」
「なるほど、どれ一口、私いただいてみまーす……なるほどサツマイモの甘さが豆の甘さを引き立てます」
ふうん、なるほどやの。
「スミマセン、こちらもください」
「あっ、ごめんの」
私は違うエキストラさんに、羊羹セットを渡す。
!!!
「あの……」
「あっ、大丈夫です、大丈夫です。気にしないでや」
私は言うたんや。
今、身体に電気みたいなんが、走ったんやって。
なんやろ?
私まさか……身体に異変があるんか?
…………アカンざ
今は頑張らなカアンのや。
私、緊張から身体が可笑しいんやないみたいやって。
体調不良……なんや
今頃わかったって。
けど今頃わかっとも、今は辛抱やざ。
さてと聞き耳を立てたる。
「二つ目は、コレは私らの大名閣の羊羹やざ。言わずとしれた美味しい福井の味です」
「これもいただきますね……うん、福井の味です」
福井の味……なんやろ?
誉めてないような……
ん!
少し足が痛い。
ビリビリと痛みが、お尻に上がっていくんやって。
けど……耐えろ! 桜井 早苗!
自分に喝を入れたるざ!
今は何としても、乗り切らなかあんのや。
「三つ目は、今日を意識した羊羹で、チョコレート羊羹です。バレンタインデーにあやかるつもりはないんやけど、ここは羊羹とチョコレートを合わせてみよう考えましたんやって」
「正直、ありきたりですね」
「ありきたり……とにかく食べてみてや」
「はい……なるほど、チョコレートの甘さに小豆の甘さが陰から応援しています。小豆を引き立て役にして、チョコレートが甘味を増しているみたいです」
アナンサーさんが、言うたざ。
チョコレートが前、小豆が後ろ、これはアカンざ。
羊羹は……ううん小豆の甘さには、チョコレートのほろ苦い甘さは合わんのや。
合わんから、どちらかを弱くしないといけない。
つまりチョコレートの甘さと、小豆の甘さは……
共存できん!
だからチョコレートを多くして、小豆の甘さを控えたんやろう。
けどそれは失敗やと思うざ。
篠原……あんたの苦労が、なんかわかるざ。
ここに来んかったんも、納得してないからや。
納得してないんやけど、あのオッサンが力づくで出したんやろな。
これでええ!
こんな感じてやざ。
「最後に皆様に言いたいことを、アピールしてください」
「はい、私ら大名閣は地元福井を愛し、それでいてチョコレートみたいな洋菓子の良さを取り入れる。羊羹は何でも取り入れて我々にいろいろな姿を見せてくれます。これが、福井の水羊羹であります。大名閣はこれからも、水羊羹と共に福井の皆さんに愛される店を目指していきます」
……オイオイ、文法大丈夫かあ?
それに……
「店の宣伝しとる。変なざ」
女将さんが言うたって。
確かにや。
私と女将さんは、笑いをこらえとる。
「大名閣さん、ありがとうごさいました。それでは反対側の高塚屋さんと さくらいさんに、説明を……っあ、CMですか。わかりました、それではCMが終わり次第に、高塚屋さんと さくらいさんにお聞きします。一旦CMでーす」
アナンサーさんが、言うたざ。
さて、今度は私らか。
よし、がんばるざ!
……身体が熱い、お願いやもっての!
もっての、私の身体!




