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《県立病院 個室 オカンとばあちゃん》
「早苗、がんばってるなあ」
「若いからやざ、お母さん」
「本来は祥子が、高塚屋さんの引き立て役やったんに」
「はいはい、しかし体調が全開ですざ!」
「祥子がいきなり、新型のインフルエンザなんかにかかるで!」
「そんなん、言ってもや。私かてつらかったんやざ」
「毒性は弱い言うてたけど」
「……お母さん、これな相手によっては、死ぬくらい悪化するんやざ」
「知っとるざ、殺人インフルエンザやろ。まあ、確率はおっそろしいくらい低いとも、テレビで言ってたざ」
「私はなんともなかった。だから、隔離病棟から個室に移されたんやで」
「何でこうなったんや?」
「ウーン、確か肩こりがあって、なんか動きづらくなって……鼓動がひどくなったんやって」
「それだけか?」
「それと……あっ! 味がわからんようになったんや。ご飯食べとっていきなり、味が消えた。そしていきなり、治った。それから……おかしくなってきたんや」
「ほうかぁ。大変やなあ」
「お母さん……早苗、付き添ってくれたやろ? 大丈夫か心配なんや」
「祥子、大丈夫や。お前の娘やざ。それに、移ったらすぐおかしくなるやろ。ワテ、そろそろ帰るざ」
「ありがとう」
《個室 オカン一人》
「潜伏期間、あるらしいざ。そしていきなり……らしいざ」