104
放送中断しとる時間で、駅前西口に羊羹が並べとるざ。
亮さんと女将さんと私と、高塚屋のお店スタッフさん達と羊羹を並べているんやの。
結構大きなサイズで、三種類の羊羹を何頭分かに切り分けせいなアカンのやって。
300セットだから、三百人とは違うざ。
一口サイズに切り分けて、千人くらいに食べてもらわなアカンのや。
どんなサイズやったかなあ。
「女将さん、こんなサイズで……」
切り分けは、亮さんと菓子職人さんらの仕事やけど……
「亮、アホ! 和菓子屋の私らがサイズなんて言葉使うな!」
「すみません、この一口大でええですか?」
亮さんと女将さんの会話に、厳しさを感じるざ。
「おい、綺麗な一口サイズにせえなあかんでな」
大名閣のオッサンが、言うとるの。
一口サイズ、これは私もよう使うって。
けどここは一口大で、行こうっと!
「最低1500人分お願いします」
スタッフさんが言うたわ。
「すごい量やな、平日のこの時間にこんな人来るんか? 都会やないんやざ」
小さな声で、私はボヤく。
羊羹切りやすいように、並べている最中やけど……なんやろ? 息苦しいざ。
「早苗さん、どうしたんや?」
女将さんが言うた。
「大丈夫や、帯が強いんやと思う」
私は即答したざ。
今私は女将さんといっしょに、和服を着とるんやって。
ここに到着する前に、高塚屋の奥座敷で着替えしたんや。
少し地味な色使いの着物やけど何百万はいくんやて……
女将さんの嫁入りの品らしいざ。
それを羽織らせて貰ってる。
「着付けに、ガマンしたんか? 着付けの人に言えんかったんか?」
「大丈夫、私はタヌキの娘やし」
少しおどけた。
「そうやな、心配いらんな」
女将さんが笑た。
けど哀れみの瞳になっとるような……
「できました」
亮さんの言葉が聞こえた。
「よし、こちらは用意万全やざ、亮、他の羊羹三組に切り分けた半分を後二つの食べ比べ場所へ持っててや」
「わかりました、みんな行こうの」
「頼んだざ」
女将さんが笑た。
私は大名閣を見る。
やっぱりアイツは、来ていないんや。
大名閣と距離を置く……こんな形で見せてくれたわ
他人の家はこの際関係ない。
今日は勝ちたいんやで!
「そろそろ、カメラ回します」
用意を調えるのが終わると、亮さんらは少し離れた所に場所を変えた。
ワゴンの上には、三種類の羊羹がある。
……ん? たくさんの人がいきなりスタッフさんらに誘導されとるって。
「本番一分前、エキストラさんは羊羹を食べて下さい。好みの羊羹に一票を入れてください。そのシーンから入って行きます」
なるほどやの。
つまりサクラを用意したんやな。
福井はこんなん盛り上がらんからなあ。
サクラ伝いに、駅前の人間を引き入れていくんやな。
「双方のお菓子屋さん、心配はいりません。この方々は善意の人たちです。審査もどっち寄りはありません!」
「さて、始めますよ」
二人のアナンサーが会場に大きな声をあげたざ。
気遣い、ありがとうや。
さて、カメラが回るみたいやざ。




