102
「おい、アンタら、紹介をやるんじゃなかったんか?」
大名閣の社長が、呆れてるざ。
このことに関しては、私と女将さんも同じ気持ちやの。
女将さんと目が合い、私ら笑たって。
「あっ、大丈夫です。紹介時間を間違えました」
「スミマセン」
アナンサー二人が、委縮してるざ。
さっきの掛け合いが、ウソみたいやって。
「……まっ、とにかく、頼むざ。主役は大名閣やでな!」
おい!
向こうのオッサンが、訳わからんこと言ってるざ。
「はい、全ての和菓子屋さんの応援、しますよ」
アナンサーが、ニコニコしとる。
「だから……」
何か言いたがっている大名閣のオッサンやったけど……
「はい、カメラまわりまーす」
スタッフさんの声が入った瞬間、オッサンが直立不動になる。
私は吹きそうになったざ。
まあ、私も直立不……!
なんやろ? 背中に違和感が?
「どうしたん」
女将さんが、小声て言うたんやの。
「大丈夫やざ」
私は笑顔で、お返ししたざ。
思いの外、緊張しとるんやな。
「はい、再び、福井西口からの放送でーす」
「外はそろそろ、日の入り時間、夕方家路に急いでバレンタインのチョコレート、貰う、貰えなかったで、葛藤する時間に何故か羊羹対決がありまーす」
「長い前振りやめやめ」
「アハハハ、さて羊羹対決でしたね。今日は特設会場に、二つのチームに別れて和菓子屋が自慢の羊羹を持ってきていただきました」
アナンサーの一人が、こっち来たって。
なんやろ? 異様に喉が渇くざ。
心臓もバグバグと、体から聞こえてきとる。
たかが、地方の冴えない番組にやざ。
もう一人のアナンサーが、まず大名閣を紹介始めたって。
「まずは、こちらから、紹介をします。福井の和菓子屋を引っ張っていく、福井和菓子の代名詞! 大名閣さんでーす。大名閣、よろしくお願いします。意気込みの程を」
「はい、福井と言ったら、大名閣! 大名閣は福井の和菓子をそして洋菓子を引っ張る、パイオニアでありこれからも、福井にお菓子で元気をモットーに県民の皆様とありつづけることを、お約束致しまして、今日の対決は横綱相撲を見せて勝ちたいと思います、つきましては……」
「大名閣さんありがとうございましたあ」
アナンサーさんが、途中で切ったざ。
「ウザイ」そんな表情を、一瞬したのを私は見逃さなかったんや。
少し笑てもたざ。
大名閣のオッサン、なんか言いたそうやったけど……カメラが替わる雰囲気がする。
もう一人のアナンサーが、女将さんと私に目線を送る。
そろそろですざ
そんな感じや。
さて、気合入れるざ。