好きだと言ってもいいですか?
驚くほどの急展開です。本当にすみません。読んでいただければ幸いです。
あと、最後、甘いです。
※『初めて恋をしました。』という話の主人公の話です。読んでなくても大丈夫です!
「松下さん」
名前を呼ばれ絵実は彼を見た。こちらを笑顔で見ていた彼の顔が作り笑顔だと絵実にはなぜかわかった。だから絵実も精一杯の笑顔を作る。彼が失笑した。
「笑っているつもり?」
どこかバカにしたような声に絵実は顔を繕うのをやめた。
「矢島さんに笑顔向けられるほど、大人じゃないので」
「もう、27歳になったのに?」
「すみません。精神的に子どもなので」
「へぇ。精神的には子どもでも、身体的には大人なのかな?だって、俺とこんなことしちゃってるしね」
そう言って矢島優斗が2人にかかっている布団を持ち上げた。裸の身体が冷気にさらされる。絵実は動揺がばれないようにゆっくりとした動作で布団を自分の身体にかけ直す。
「……大人ですからそんな関係もあるんじゃないですか?」
「ダメだよ。そんな関係じゃ」
声のトーンが急に変わった。優斗を見ると真剣な目がこちらを見ていた。
「君を好きにならせてほしい。君も俺を好きになってくれればいい」
逸らされない視線。真剣な顔。言葉だけ聞けばなんて素敵な愛の言葉だろう。けれどそうではないことを絵実は知っていた。これは契約。好きな人を忘れるためのリハビリ行為なのだと。
絵実が優斗と出会ったのは、1年前のことだ。絵実が会社の先輩である速水武人と歩いていた時だった。
「速水!」
「お~、矢島」
突然の声に振り返り、武人は嬉しそうに笑った。その親しげな様子に絵実は、ちらりと優斗を見る。視線が合うと慌てて頭を下げた。背が高く、スーツの似合う人。それが絵実が優斗に抱いた最初の感想だった。
「…もしかして見ちゃいけない現場?」
絵実を指さし、優斗は冗談交じりにそう言った。声色からからかいであることがすぐにわかる。武人は「お前な~」と笑いながら優斗の肩を叩いた。
「ただの後輩。松下絵実さん。営業で戻りが遅くなったから今からランチに行くところだ」
ただの後輩、そんなことはわかっていた。けれど、言葉で聞かされるときついものがある。絵実は、苦しくなって胸を押さえた。顔を上げると優斗と目が合った。一瞬で逸らされ、優斗はすぐに武人を見た。
「な~んだ。亜希子さんに言わなきゃって思ったのに」
「お前な~。俺が浮気するかつーの」
「ま、されたら俺も困るけどね。亜希子さんと速水を会わせたの俺だし」
優斗の顔が少しだけ俯くのがわかった。かすかに見えた表情はどこか悲しげで、絵実は思わず優斗の顔を視線で追いかける。そんな絵実に気づいたのか、優斗はすっと絵実を見つめた。綺麗な笑みを浮かべる。
「自己紹介が遅れたね。俺は、矢島優斗。速水の大学時代からの友人で、今はあの会社で働いています。ちなみに、速水の奥さん、知ってる?」
「え?あ、はい。一度お会いしたことがあります」
「そっか。亜希子さんって俺の元同僚なんだ。それでもって、彼女を速水に紹介したのは俺。ま、恋のキューピットみたいな感じかな」
「あ、えっと…松下絵実です。速水さんの下で働かせてもらっています」
「おいおい、松下。仕事関係者じゃないんだし、そんなに丁寧に話さなくてもいいよ。ってか、矢島、恋のキューピットって…」
「いいじゃん、事実なんだから。ね?」
同意を求めるように振られ、絵実は苦笑する。そんな絵実を見て、武人は優斗の肩をもう一度叩いた。
「俺の後輩困らせるな」
「はいはい。すみませんでした、速水先輩」
それから少し談笑をし、もう時間だからと武人が軽く手を上げた。動き出す武人の背中を追おうと絵実が足を踏み出した時だった。ふと手を引かれた。
「え?」
「ねぇ、松下さん。せっかく出会えたんだし、連絡先交換しない?」
目の前にあったのは、端正な顔に、とびきりの笑顔だった。けれど、ドキドキすることもなければ、嬉しいと思うこともなかった。優斗の瞳に写っているのは自分だった。けれど、彼には自分は見えていないのだと、絵実にはなんとなくわかった。
「おいおい、俺の目の前で俺の後輩口説くなよ」
呆れたように武人が振り返った。絵実の腕を引き、絵実と優斗の間に入り込んだ。そんな武人に降参というように優斗は両手を上げた。
「口説いてないよ。…松下さんと似ている気がしたんだ。いい呑み友達になれそうだなって」
「…」
「大丈夫。速水の後輩に変なことしないし、松下さんが嫌なら連絡先も交換してくれなくていいから」
武人は大きなため息は吐いた。振り向いて絵実に聞く。
「……松下、どうする?」
「あ、えっと…別に嫌じゃないです」
「ありがとう、松下さん」
そう言って優斗はさっと携帯を取り出した。つられるように絵実も鞄の中から取り出す。1分もかからず、絵実の携帯に「矢島優斗」の名前が表示された。
「たぶん、気が合うと思うよ。すごく」
そう言うと優斗はまた笑みを浮かべ、背を向けた。武人が呆れたようにその背を見送る。
「…本当によかったのか?俺の友だちだからって気を使うことはないぞ」
「え?あ、大丈夫です。矢島さんみたいに格好いい人が、私みたいのに興味があるわけないですから。本当に、気が合うと思ってくれたんだと思います」
言い終わるとすぐに頭を軽く叩かれた。
「私みたいのなんて言うなよ。松下はかわいいんだから自信持てって」
そう笑う武人を絵実は太陽みたいだと思った。皆に平等に降り注ぐ太陽は、冬の寒さを時に忘れさせてくれる。温かくて、やさしい。けれど決して触れることはない。触れようと手を伸ばせば、イカロスのように溶けて消えてしまう。だから太陽を想いながら、周りを見渡すのだ。触れても溶けない人を探して。
優斗から連絡があったのは、それから1週間後のことだった。メールの内容はいたってシンプル。『今度一緒に呑みに行きませんか?』それだけだった。絵実は少し迷ったが、すぐに了解の旨を連絡した。知りたかった。自分と優斗のどこが似ているのか。あの悲しそうな表情はいったい何だったのか。
それからトントン拍子に話は進み、金曜日の夜に近くの居酒屋で呑むこととなった。風が強い夜だった。厚手のコートを着ているが、身体の芯が冷え、何度も手に息を吹きかけた。
居酒屋に入ると奥から「松下さん」と呼ぶ声があった。絵実は腕時計を見て時間を確認する。針が指していたのは、待ち合わせの5分前だった。
「来てくれて、ありがとうね」
開口一番、優斗はそう言った。
「遅くなってすみません」
「待ち合わせより早く来たのに、謝ることないよ。俺も今来たばかりだし。それより座ったら?」
立ったままだったの絵実は慌ててコートを脱いだ。優斗はすっと立ちあがり、コートをハンガーにかけてくれる。その動作があまりにスマートだったので、慣れているのだと思った。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。…それじゃあ、松下さん、何呑む?」
「カシスオレンジを」
「ビールじゃないんだね」
「すみません、ビール呑めなくて」
頭を下げた絵実に優斗は小さく笑って首を横に振った。
「別に謝らなくていいよ。好きなもの飲めばいいし」
そう言って店員を呼び、ビールとカシスオレンジ、それと簡単な食べ物を注文した。居酒屋はライトやインテリアに凝っているらしく可愛らしい感じだった。そのためか、女性客も多い。その彼女たちからの視線がこちらに向けられている気がして、絵実はすぐになるほどと思った。優斗が視線を集めているのだ。身長が高く、端正な顔立ちで、優しくてスマートで。完璧だった。だからこそ気になるのだ。似ているとはどういうことなのか。武人を押しのけてまで自分と連絡を取りたいと言った真意は何なのか。
「…ねぇ、松下さん」
「はい」
「俺が誘って、来てもらっておいて言うのはおかしいかもしれないけど、会って間もない男と2人きりで夜呑みに行くって軽率じゃない?速水に知られたらたぶん怒られるよ?」
優斗の言葉に絵実は小さく笑った。そんな様子に優斗は首を傾げる。
「私、鈍感な方ではないんですよ。…矢島さんが私にそういう感情抱いていないことくらいわかります」
「……へぇ」
どこか面白そうにこちらを見た優斗の目を絵実は見つめた。
「だから教えてほしいんです。私とどこが似ているのか」
「俺ね、松下さんを見たのこの前が初めてじゃないんだ」
「え?」
「隣のビルだし、速水の顔も知ってるからさ、よく速水と一緒にいるなって時々見てたんだ」
「…」
「俺も鈍感な方じゃないからさ、わかったんだよ。君が速水を好きだって」
絵実は目を丸くした。ただ遠くから見ていただけの人に気づかれていたなんて。とっさに否定しようとした。けれど、言葉が出なかった。そんな絵実を見て優斗は小さく笑う。
「心配しなくてもいいと思うよ。君の気持ちはそんなにわかりやすいものじゃない。そもそもあいつは鈍感だから」
「…じゃあ、どうして、矢島さんは気づいたんですか?わかりやすいものじゃないのに、どうして」
「なんとなく松下さんも気づいてるんじゃない?一緒なんだ。叶わない恋をしている。振られることもできないそんな恋だ」
「…」
「29歳の男が恋なんて笑っちゃうだろ?…でも、忘れようって思っても、できないままもう2年も経っちゃったよ」
「……速水先輩の奥さんですか?」
「どうしてそう思う?」
「奥さんの話が出た時、悲しそうな顔をしていました」
絵実の言葉に優斗は苦笑を浮かべ頷いた。
「そうだよ。亜希子さんとは同期入社して、一目惚れみたいなものだった。…でも、彼女が見てたのは速水だった。俺の方が先に出会って、俺の方が先に好きになったのに」
「…」
「速水と俺が友だちだって知って、紹介してほしいって言われたよ。断ることもできなくて、紹介したらいつの間にか結婚してた」
自嘲気味に話す優斗の顔は今にも泣き出しそうで、絵実は苦しくなった。好きだと伝えて、振られてしまえば楽になれるのに。次に進めるのに。今の関係を考えるとそれもできない。一緒だと思った。
「亜希子さんは結婚して会社を辞めた。そのまま俺から離れてくれればよかったのに、今でも家に呼ばれたり、一緒に呑んだりするんだ。…会わないことを選べないくらい俺はあの人が好きでたまらない」
「…」
「松下さんも速水といつも会わなくちゃいけないから、無理だって、忘れなきゃって自分に言い聞かせても、思いどおりにいかないんじゃないかな?」
居酒屋のライトが妙に霞んで見えた。そうして泣いていると初めて気づいた。絵実は頷いた。このまま思い続けても意味がないことだとわかっていた。これ以上好きになる前に気持ちをリセットしなければならない、そう自分に言い聞かせてきた。けれど、会社に行けば必ず武人に会い、後輩として大切にされるたび想いは募った。
「だから松下さんに提案があるんだ」
「提案?」
「君を好きにならせてほしい」
「…え?」
「好きになれる人を待っているだけじゃあたぶん無理だ。俺も、君も。だから、無理やりでいい。君を好きだと思わせてほしい」
「…傷の舐め合いってことですか?」
絵実の言葉に優斗は首を横に振った。
「傷の舐め合いじゃない。リハビリだ」
「リハビリ…」
「ああ。ほかの誰かを好きになる練習。互いに本当に好きな人ができたら離れよう」
「……」
「利用させてほしい。君も俺を利用していいから」
深々と頭を下げられた。利用という言葉をそんな態度で言う人を初めて見た。恋愛ごっこをしようということなのだと絵実は理解する。確かにそうでもしなければ今の状況からは抜けられないのかもしれない。いや、抜けられないのだ。だって目の前にそれを証明した人がいる。
「わかりました。お願いします」
その言葉に優斗はぱっと顔を上げた。安心した表情を浮かべている。
「ありがとう」
「…」
「じゃあ、形だけでも言葉を言わせて」
「え?」
「『好きです。付き合ってください』」
その言葉に何の感情も含まれていなかった。絵実は機械的に頷いた。
それから絵実と優斗は「お付き合い」を始めた。仕事で忙しくても2週間に1度は合うようにした。デートに行った。身体の関係も生まれた。ただそこに「好き」だけがなかった。それでいいのかもしれない、絵実はそう思った。リハビリになっているかどうかはわからない。けれど、誰かといれば自然と武人を想う時間は減っていった。
けれど、半年前のある日、絵実は武人に好きだと伝えることができた。それはおよそ恋愛の好きには聞こえないものだった。ただの冗談の一環。それでも、絵実にすれば好きだと告げられたそれだけで十分だった。そして思ったのだ。今度は好きになってもいい人を好きになろうと。そう思ってすぐに頭に浮かんだのは、優斗のことだった。優斗は会うたびに絵実に好きになれと言う。好きにならせてほしいと言うのだ。けれどそれは、言葉でお願いしてなるものではない。だからこそ悲しくなる。
優斗のことを考えると胸が苦しくなった。一緒にいると楽しくて、けれど苦しい。知らぬ間に惹かれ始めていたことに絵実は気が付いた。けれどそれは寂しいことだと同時に理解する。優斗との関係はリハビリだ。ほかに目を向けるための通過行事。武人への想いを解決したのなら優斗との関係は解消するべきだった。頭ではわかっていながらも、居心地のよいこの関係を辞めることができなかった。
また同じことの繰り返しだと思った。好きだと告げられない人をまた好きになるなんて。半年悩んだ。どうすればいいのか。どうしたいのか。思い返せば優斗と「付き合う」ようになって、1年も経ってしまった。だからこそ、これ以上長引かせる前に終わらせる必要がある。
冷たい風が吹いた。黒に戻したばかりの髪が揺れる。泣きたくなって、けれど涙は出てこなかった。きっと寒いせいだと絵実は思った。
『話したいことがあります』
そうメールで呼び出したのは、初めて2人きりで会った居酒屋だった。
「ごめん、遅くなって」
「まだ5分もあります。謝る必要ないですよ」
そう言ってから今度は逆だなと絵実は思った。
「…それより、話って何?」
視線を逸らすことなくこちらを見る優斗の顔は真剣そのもので、絵実は思わず視線を逸らした。
「とりあえず、お酒飲みません?」
メニュー表を優斗に見せる。けれど優斗はそのメニュー表を隅に寄せた。
「アルコール入らないと言えないこと?」
「……そういうわけじゃ」
「じゃあ、先に言って。あんなメール送られたんじゃ、気になって仕事も手につかない」
「……えっと、その…」
いざとなって言葉が口から出てこない。家で何度も練習したのに。もう辞めようと。始まりの言葉を優斗が言うのなら、終わりの言葉は自分が言わなくてはいけない。
「…もう、終わりにしたいなって」
「え?」
「私、速水先輩への気持ちに決着をつけたんです。…冗談で、ですけど好きだと言えました。それで十分だなって」
「…」
「……だから、今度は、……好きになってもいい人を好きになりたいんです」
「…」
「あの…だから、別れて…ください。始めからちゃんと付き合っていたわけじゃないですけど」
「俺、いつも松下さんに好きになってほしいって言ってるよね?」
どこか問い詰める様な声色に絵実の肩がびくりと上がった。それに気づいたのか優斗は小さく「ごめん」と告げる。
「…リハビリとかごっこの好きじゃなくて、ちゃんと好きになりたいんです。心で感じたままの好きをちゃんと伝えられる人を好きになりたいんです」
「俺じゃあ、そうなれないってこと?」
「え?」
「俺を好きになれない?」
「そうなれないのは矢島さんの方じゃないですか!」
溜めていたものが思わずこぼれてしまった。狭い居酒屋で大きな声を出した絵実を周りがどうしたのかと見る。視線が一気に集まった。優斗は立ち上がり、絵実の手を引いた。
「え?」
「ここじゃあ、話ができない。うちに来て」
「…でも」
「大声出したのは君だ」
そう言われてしまえば絵実は黙るしかなかった。ハンガーから外されたコートを受け取り、羽織る。そのまま引っ張られるようにタクシーに乗り、優斗の家に行った。
冷たい風が吹いている。長身の優斗が隣にいるだけで寒さが幾分か和らぐ気がした。繋いだ手は優斗のポケットに入れられた。もう終わりにしよう、そんな話をしているのに、恋人らしい振る舞いなどしなくていいのに。絵実はそう思ったが、手を外すことができなかった。ポケットの中は暖かいからだと自分を納得させる。
部屋に入ると絵実はソファーに座るよう言われた。部屋の真ん中にある黒のソファーはいいものなのかいつも体重分沈む。座り心地の良いそれは、けれど今はとても居心地が悪いものになってしまった。優斗は2人分のコーヒーをテーブルの上に置いた。そして絵実の隣に座る。
前に座られなくてよかったと思った。顔を見たら話せないかもしれない。絵実はテーブルの上のコーヒーをじっと見つめる。
「で、結局松下さんは何が言いたいの?」
「もうやめたいんです。リハビリで付き合うなんておかしい」
「それを許容してただろう?」
「そうです。だけど、もう無理なんです。ほかに好きな人ができる前でのリハビリでしたよね?…その人を作ろうとしてるんです。そのためにはこの関係を辞めたいんです」
「…」
「私は速水先輩への気持ちに区切りをつけました。もうリハビリの必要はないんです。…矢島さんがまだリハビリが必要なら、……ほかの人を探してください」
「……ほかの人と俺がこういう関係になっていいの?」
それは小さい声だった。けれど、絵実の耳によく響いた。どうしてそんなことを言うのか、そう考えて絵実は思い出した。この人は鈍感ではないのだと。気づいているのだ、自分の気持ちを。それで、試そうとしているのだ。絵実は怒りを覚えた。どこまで「利用」すれば気が済むのか。だから顔を上げ、優斗を見る。けれど何も言えなかった。
「……なんで、矢島さんがそんな顔するの?」
そこにあったのは、泣きそうな優斗の顔だった。
「松下さんが、別れを切り出すからだろ?」
「別れって…だって私たちはもともとそんな関係じゃないですよね。だって矢島さんは亜希子さんが…」
「そうだよ。亜希子さんが好きだった」
「……だった?」
優斗は頷いた。
「松下さんと今度はどこに行こうかデートプランを考えるのが楽しかった。笑ってくれればそれで幸せだって思ったよ」
「え?」
「松下さんが隣にいるのが当たり前になって、いつも君のことを考えた。おいしいものを食べたら、松下さんにも食べさせたいなって思ったし、素敵な景色を見たら連れてきたいなって思った」
「…」
「俺、好きになってって何度も行ったよね?途中からリハビリなんてどうでもよくなった。好きになってほしいって本気で思ったんだ」
「そんなの、知らない」
絵実の言葉に優斗は小さく頷く。
「うん。だって言ってないもん。…速水のことを想っている君には言えなかった。それに、言わなければ、ずっとこの関係が続くかもしれないって思ってた。俺が松下さんを好きになったように、続けていれば、俺を好きになってくれるかもしれないって」
「…」
「卑怯で、ごめん」
優斗は立ち上がり、頭を下げた。
「言うのは、それだけ?」
「ああ。ごめん。…ちゃんと別れるよ」
「違うでしょ!」
絵実は叫んだ。驚いたように優斗は絵実を見る。そこには泣いている絵実の姿があった。
「え?」
「違うでしょう?言いたいことってそうじゃないでしょ?…私は、言いたい。ちゃんと言いたい」
止まらない涙を絵実は手の甲で懸命に拭く。けれど、後から後から涙は出てきた。
「……好きだ」
そう言って優斗は絵実を抱きしめた。
「好きだ。好きだよ。…絵実が好きだ」
「私も好き。矢島さんが好き」
頷きながら絵実は優斗の首に腕を回す。
「名前、読んで」
「…優斗さん」
「もう一回」
「優斗さん。大好き」
「俺も好き。愛してる」
優斗は絵実を抱きしめたまま持ち上げた。
「…もっと、もっと俺が愛してるって伝えていい?」
「うん」
「加減、たぶんできない」
「…好きだって言ってくれるなら、言わせてくれるなら何でもいい」
そう言う絵実に優斗は触れるだけのキスを一度送る。
「何度も言うから、何度も言って。…好きだよ。大好きだ」
「私も大好き」
絵実の言葉を合図に、2人の口づけは深くなった。そのまま寝室へ向かう。ベッドに体重を預け、もう一度愛の言葉を交わした。
いや~びっくりしました。自分で、急展開過ぎて。でも久しぶりにかけて楽しかったです。読んでいただき、ありがとうございました!