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朝になり街は賑わい始めている。
お姉さんは昨日俺らがした事は大方知っていたので、起こしに来る事はなく、下に行くと朝食を出してくれた。
昨日の疲れもあってテラーヌ街を今日出発する気にはならなかった俺らは、今日は自由に行動する事にした。
役所に行って吸血鬼を退治した事を伝えてはどうか、というお姉さんの提案もあったが、こういうのは噂で広まったほうが速いのである。
女の子のお父さんからもらった箱の中には、楽器と本が2冊入っていた。俺は楽器の知識はほとんど無いので、ルーサスにハーモニカだと教えてもらった。
今、俺とペンペンは海辺にいる。
ペンペンがどうしても海を見たいと言ったからだ。
マミに溺れないように監視をしろと言われているが、ペンギンだし瞬間移動できるし大丈夫だろう。
「あれ、君昨日の……」
急に話しかけられたので少し驚いてしまった。
俺の横にはあの女の子のお姉さんが立っていた。
「あっやっぱりペンギンと一緒にいるからそうかなってね。本当に昨日はありがとう。はっきり言って楽器や本くらいのお礼じゃ申し訳ないと思ってたの」
俺が何故こんなところにいるのかと尋ねると、仕事だからという返事が帰ってきた。
「ただでさえ最近不景気でお父さんの給料が少ないし、私は海の家のバイトだから休むわけにもいかないのよ」
最近のテラーヌ街の不景気はデビル景気と言われている。
吸血鬼のせいで日没後は家からでれないため夜は仕事ができず、その分の仕事は翌日する事になるから効率も悪くなる。
そうして企業の成績も落ち、社員の給料も悪くなる。この街最大の収入源である観光業も観光客が減少し……と最悪な悪循環に陥っているのだ。
「まあ、でも君たちが吸血鬼を倒したんでしょ?」
「ペン!テットたちが倒したペン!」
「ならこの街も少しずつ活気を取り戻すかな」
うちの店もね、と付け加えた。
「そうそう、これ」
お姉さんはポケットから、銀色でクロスマークのペンダントトップが付いたネックレスを取り出した。
「何ですかこれ?」
「これは、本当にすごいネックレスなんだ。なんと、これを首にかけていると技を同時に2つ繰り出すことができるんだって。昔海辺で見つけて頑張って図書館で調べたんだ」
こんな凄いものもらえないと、返そうとしたが、受け取ろうとはしなかった。
「私の家系はさ、代々キータスなんだ。魔法が使えない人間に、こんなの必要ないでしょ?道具は使われてなんぼなの。それに……」
彼女の顔は笑っている。
「君なら、上手く使いこなせる気がするんだよね」
だから……と俺の首にネックレスをかけた。
「これが私、琴音からのお礼。改めて妹を助けてくれてありがとう」
琴音はまだまだ賑わいに欠ける海の家に戻っていった。




