ゆくとし、くるとし
「ゆく年くる年かぁ、まぁ鬼のキミには関係ないよな感傷的にもならなければ忙しくも無いでしょう」
あと少しの時間で今年が終わり、来年がやってくる。
日本人の僕としては、大掃除に親戚まわりや、新年会などこの時期は、年がもう終るという謎の焦りや悲しみをごまかすように忙しくしている。
だけど、近所にすむ強面だが付き合いのいい鬼のアカさんは、鬼というだけあってそういった心情とは無縁で心穏やかな年末年始になるのだろう。
「いや、この時期意外と鬼にとって面倒くさいシーズンだから」
「えっなんで」
「来年の事を話す奴がいるから、笑うことが多くなってくる」
時たま酷く笑いこげているアカさんは、まぎれもなく病気か何かだと思っていたが、あれは来年の話を聞いたがためになっている症状だったのだろう。
「あれ、数日でも有効なの」
「一日前前でなら有効だね、一応一日前でも来年だから」
「なるほど大変だ」
「大変なのは、笑う事で福の神よんじゃった時だな」
「あれ福の神なのに鬼の所に来るの」
わらいのあふれる門をくぐったら、アカさんのような強面の鬼が待ちかまえていたなんて事になったら、トラウマものだろうに、そもそも福の神と鬼って相反するような感じだったので、てっきりこないと思ったらそうでも無いらしい。
「一応来てくれるんだけど、鬼が呼ぶなって怒られるし。これが二月になると最悪な事になる」
「節分か」
「あぁお前、豆ぶつけられながら笑ったことあるか」
「あるよ」
「すげぇな」
「いや、流石にすごくはないな、行事だから楽しみながらやるよ」
「お前ら人間と違って、俺ら本物の鬼が笑うと利いていないと思ってマジでなげてくる奴いるからな」
「あぁなげるな、うん思いっきり投げる」
アカさんのような恐怖を植えつけるような顔つきをしている鬼が笑いながら家の中に存在するとなると、一刻もはやく出て行って欲しくて豆をぶつけてしまうだろう。
「その時、運悪く笑うと福の神がよってきて、舌打ちした上で酷い仕打ちがあるから」
「どれぐらい」
「こっちが形式的に外に逃げる際に足払いしてきたりわざとぶつかってくるから」
「福の神容赦ないな」
「意外に根深いしな、だから笑うときは愛想笑いにとどめる」
「意外に根性ないな、キミら」
愛想笑いでは福の神はなかなかこないらしい、どうりで自分はあまりお見かけしないわけだ。
「転ぶとあいつら早く家からでてけとばかりに蹴りいれてくるから」
「なんで福の神はキミら鬼を目のかたきみたいにしているの」
「いや、それが最近笑うのが人間より鬼が多いみたいだからそれで怒っているみたいなんだよ」
「へぇ-それだけで」
「まったく、八つ当たり気味だから鬼門みたいなもんだよ福の神には、できればかかわりたくない」
「福の神はお門違いだからアカさんのような鬼の所にいくんだね」
今年を締めくくるギャグは、アカさんの愛想笑いという評価を得た、アカさんはきっと福の神に会いたくないから大笑いできないんだろうと、白々しく自分を慰めた。