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それはきっと魚が美味しすぎるせい。

「ふむ、中々に美味な香りがするな」


「あ、お兄ちゃん!おっそーい!早くしないと冷めちゃうじゃん!あとキモイ!」


「ひとこと多いぞマイシスター」


「アホなこと言ってないで早く座りなさい、今日はあなたの好きなさんまの塩焼きよ」


「せっかく今日は俺も早く帰って来れたんだ、さっさと座って食べるぞ」



俺は扉を開けた先にいる家族の元へと歩み寄る。


いつものように騒がしい三つ違いの妹が箸でカンカン皿をたたき、そんな妹の頭をたたき呆れながら俺を座るように促す母親、いつもなら仕事で帰りの忙しい父親も今日はいるらしく、新聞に目を通しながらも横目で俺を見た。


不思議な感じだが、この光景がとても懐かしく感じた。うるさいなと思いながら俺はここでいつも笑っていた気がする。確か学校では面白くない日常を送っていたけれど、家では、



「っつーい!!!」


「あ、悪い」



突然の痛みに俺の意識は覚醒する。あまりの驚きに頬を抑えながらキョロキョロ周りを見渡すと、そこには家族ではなく、巨大な図体の男が魚にかぶりつきながら座っていた。


現状の把握にしばらく俺は停止しているとデップは俺の傍に落ちていたモノを拾い上げる。



「お前、それ早く冷やさないと…痛くないのか?」


「は?…あ、い、いた、いい…!!」



相変わらずバクバクと魚を食いながら俺に喋りかけるデップは俺の頬を指して言う。


え?と思いながら無意識のうちに抑えていた手を離す…

とジワジワと熱が集まってくるのを感じた。これは、痛い。



「み、水!氷!ひ、冷やすものぉぉぉ!!!」



一体何が起こったのか全く不明だが、とりあえず俺の頬は今、危機に瀕しているのだ、という事実だけはよく分かった。デップは相変わらず以下略で、もうそんなことどうでもいいため俺は勢いよく部屋を出て水を探しに行った。


ここからの苦労は言わなくても分かるだろう。そして数分後。



「はぁ、はぁ…デップ…貴様…」


「やっと戻ったか」


「やっと戻ったか、じゃねぇ!貴様、俺が寝ている間に何をしたのだ!」


「焼いた魚を食ってたんだが…あぁ、お前の顔に焼き立ての魚を誤って落としたのは謝る」


「それか!」



ちょうど食べ終わったところなのか、水を飲みながら呑気に俺を迎え入れるその様子とは真逆の面持ちで俺は帰宅する。これぞ鬼の形相というやつだろう…俺様は今、お怒りだ。


俺は片手に氷の入った袋を持ち(宿屋の店主に頂いた)、それで頬を冷やしながらデップに近づく。


今日こそ誰が上の立場かって言うことを教えてやらにゃいけない。


俺の攻撃、睨む。デップすかさず睨み返し。

俺、目をそらす。勝てない。分かってた。



「何がしたいんだ、お前は…早く食わないと全部俺が食うぞ」



完全に敗北し厳しい現実を受け止めていた俺の目の前に串に刺さった、美味しそうな匂いを放つそれが差し出された。


思わずデップを見上げると「いらないのか?」と、しょうがなそうな顔で笑っていた。いつの間に買ってきたんだという疑問は頭から一掃される。


そんなデップの優しさに俺の中で何かが込み上げてきそうだが、それは抑えて、目の前にある焼き立てのいい匂いを放つ魚を奪い取り頬張った。



「うまい…」


「そうだろ?もっと食っていいぞ」



これは多分さっきの魚屋の親父が売っていた〝メール魚〟というやつなのだろう。想像していたよりも美味い。


ていうかこの美味さは常軌を逸している、この世のものとは思えないほどの美味さだ。数日間ずっとまともなモノを食べていなかったせいもあるだろうが、アジなんて言ってごめん、メール魚。


美味い美味いと言いながら必死に頬張る俺に満足だったのか、嬉しそうにデップが微笑んだ。この世界に来て初めてデップの笑顔なんて見た気がする。


いや、アニメ見てた時もこいつが笑った顔なんて一切見てないような…とりあえずかなりレアな奴なのではないだろうか。



「しかし、もうメール魚を食べられなくなるなんて、な…」


「…あぁ、さっきの魚屋のオヤジに聞いた話か?」



少し考えてから、この街に最初に来た時に出会ったオヤジのことを思い出した。詳しい話は一切聞いた覚えはないが、そういう話をしていたと言うことは覚えている。しかしデップは神様とかを信じる系な人なのか、少し意外だと思った。


ほらだってこいつ、力で語るぜ!的な空気出てるではないか。


するとデップはなぜか考え込むような仕草をしていた。

俺が首をかしげると何かの結論に達したのか、こちらを見る。



「ちなみにお前は昨日の夜から今まで死んだように寝ていたぞ」


「え」



発せられた言葉はなんとも突拍子のないもので、俺は意味を理解しようと一生懸命になって思考を働かせた。


え?寝ていた?今まで?


外を見ると、時間が経ったようには思えないほどの夕方。俺が寝始めたのも大体そのくらい。だからきっと数分しか寝ていないものだと思ったのだが…そうか、こう考えると自然なのかもしれない。



「何かしらの通信妨害か何かだな、きっとそうだ」



一日寝ていたなんて、そんな馬鹿な話あるわけない。もしデップの言うことは正しいのであれば、俺は24時間ほど寝ていたことになる。


この巨神兵の前で、だ!長く寝てしまったことはもはや問題でもなんでもない、人間にとっての幸せの極みだからな!俺が言っているのは巨神兵の前で安らかに熟睡していたことが問題だということ。きっとアホ面で寝ていたに違いない、なんという失態!!



「そんな焦ることもないだろ、よく分からない言葉は発していたが」


「嘘だッ!!」



そして俺の渾身の叫びでここは幕を閉じた。


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