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何度も言うけど、

「そろそろ人がいる街につくみたいだな」



歩を進めながら、地図を開いているデップが言う。

俺はやっとか…と安堵のため息を吐いた。


ここまで来るのに何日もの辛い日々を送ってきたのだ、安心してもおかしくはないだろう。


言っておくが俺はバリバリのゆとり教育を受けてきた今どきの中二病患者だ。


こんな山奥を行ったり来たり、登ったり下りたりなんて経験は全くなかったし、これからもそんな経験するつもりもなかった男だ。


知的主人公的立ち位置だからな。

つまり俺が言いたいのは、疲れた、それだけである。



「そうか、もうあと数分で着くのか」


「何を言っているんだ?あと数分なわけ、ないだろう」



一週間だ、と言ったデップの言葉なんて信じたくなかった。

だから俺は立ち止まり座り込む。


あともう少しだと聞いて数分だと思ったから俺は気を抜いてしまったというのに、まさかのあと一週間って。


全くもって近くにある人里、という距離な気がしないのだが。何

をどうすればあと一週間の距離を近いなんて豪語できるのだ。

ありえない、ありえないぞ。俺はもう歩きたくない。



「もう疲れたのか?まだ昼だぞ」


「もう昼だよ、お昼だよ!俺はもうお腹が減った…」


「お前は本当に体力がないな、そんな細い体をしているからだ。一体どこの地方で育った」


「火の国の薩摩は隼人ですごく強いところのはずだけど」



座り込んで立ち上がらない俺に、デップは仕方ないと諦めたのか自分も適当なところに座る。


だいぶ森も開けて来ていたため、高い位置に来ていた太陽の光が直に当たってくる。


デップも余裕で半袖の服?防具を着てはいるが、今は夏なのか?確かに結構暑いけれど…俺の場合は直射日光が原因だが。俺はここにきて肌も若干黒くなった。


まぁ、デップほどではないが…というかあんなに黒くなってたまるか、俺は色白男子なのだから。



「聞いたことのない国だな、どこら辺だ?」


「薩摩は南だな」


「南か…今向かっているのも南の方なんだが…俺が行ったことのない国か」



どうやら大変興味がわいてしまったようだ。

地図を片手に何やらブツブツと呟いている。


ここまで旅してきて、初めて自分が向かっている方角的なものが分かった気がする。俺は今から向かうであろう道を見つめた。



「ところで俺たちが今向かっているのはどこなんだ?」


「ん?あぁ、ブルータウンというところだ。知らないのか?」


「そうだな、そんなブルーって名前の県こっちでは恐らく存在してなかったな」


「そうか、ならブルータウンのまだ先にあるということだな」


「あとにも先にもそんな真っ青な空気醸し出す地域すらないと思うぞ」


「かなり奥に進むことになるのか…そこまではさすがの俺も行ったことがないからな、知らないわけだ、火の国」



なんだか噛み合わない2人の会話。


気にしたら負けかなと思って気にしないでいるわけだけど、これきっと後々面倒なことになるやつなのだろうなと思う。


それでも突っ込みたくないときって人にはあるよね。

というかお腹が空いて力が出ない状態だから本当に何もしたくないのだ。


一日三食しっかり食べているとはいえ、木の実とかで腹が膨れるかと聞かれれば、それは否だと答えよう。


俺は今魚が食べたい、それから普通の肉も食いたい。

いいか、普通の肉だ、ここが重要だ。そこでお腹が悲鳴を上げた。

きっとKF△のことを思い出してしまったからだな。

やってしまった、自らを自らで追いつめてしまうとは。



「なぁ、デップ」


「なんだ?俺は今忙しい」


「俺はとても空腹だ」


「あぁ…食料はそこのリュックに入っている」


「…よしデップ、今すぐ出発だ!ここに留まっていても何も始まらない、敵は目の前だ!舵をとれ!三日でブルータウンまで行く!」



ついに腹の訴えが激しくなってきた俺はデップに食料を懇願。


しかし言われてリュックの中を見てみれば、まさかのやっぱり木の実ですか、みたいな。もうそこで悟ったよね、俺。


もうあと一週間もこんな生活続くなんて耐えられないし、ここで駄々をこねて休憩を長くとるより、今すぐにここを去って街に向かった方が賢明であるってことを。


だから俺はスッと立ち上がり、手で街の方を指さして大きな声で叫んだ。


それを見たデップは俺が自らそんなことを言うのに若干どころではなく驚いたのか、一時停止してしまった。



「タナカ、そっちは東だぞ?遠回りだ。そっちに行きたいなら、あと2週間はかかる」


「え」


「俺たちが今から向かうのは、こっちだ」



そう言ってデップが指をさした方向を見ればそこには道はなかった。

あるのは深い谷、というか溝。


谷っていうほど幅は広くないからきっと溝と言うべきであろう。

とりあえず俺はその溝へと向かい下をのぞき込んでみた。


唖然、声すら出てこない。

なんだ、今度は何をするって言うのだ、こいつは。


俺は今日までに山を越え、谷を越え、川を渡り、崖を登り、空を飛ぶはしてきたぞ。ちょっとじゃそっとのことではもう驚かないんだからな。



「この木がちょうどいい太さだな…ちょっとそこ退いていろ」


「何するんだ?」


「近道だ」



そしてある一本の太くて大きな木を品定めしたデップは俺に移動を命じた。


俺は嫌な予感しかしなかったため何も言わず素直にそこから離れる、かなりの距離をとって。


そして嫌な予感とは的中してしまうもので、デップは背にあった大剣を抜き、大きく振りかぶればその大きな木を真っ二つに切った。


その木はそのまま溝の方へ倒れていき…


なんということでしょう、あんなにまっさらで何もなかった溝の上にぴったりとはまる木の橋ができたではありませんか。


今まで向こうまで行くのに遠回りをしていた皆さん、朗報です、この世界の匠が未来を見据えた便利な橋を建設してくれました。


人はこの人のことを『夢と地獄の両刀遣い』と呼びます。


名前の由来?そうですね。近道と言う夢を与えながら、このデンジャラスな道を渡らせるという地獄を見せてくれたからだよ。



「よし、渡るか」


「よし渡るか、じゃねぇ!!」


「なんでだ?」


「ふっ、野暮なこと聞くんじゃねぇよ、俺様を誰だと思ってやがる」


「?タナカだろ」


「そういうことじゃなくて」



今にも一歩踏み出してしまいそうなデップを慌てて静止する。

そんな俺にデップは眉間にしわを寄せた。


だってよく考えてみろ、安全綱とかがないこの状態でこの直径30cmあるかないか位の木を渡るなんて死ぬ気で行かないと死ぬわ。死ぬ気で行っても死ぬわ。


それ以前にデップが先に行ったら確実にこの木は、折れる。

俺はただ黙って考え込んでいた。それでも安全策なんて見つからない。


しかしここを渡らないということは、あと一週間が何週間に延びてしまう未知の恐怖が待ち受けているということだ。答えは一つに二つだ。



「もう渡っていいか?」


「待つのだ、巨神兵よ!貴様が渡ると折れてしまう恐れがある、最後に渡られよ!」


「…折れるわけ、ないだろう」


「貴様自分がどれだけデカいか分かっていないのか!」


「……じゃあお前がさっさと渡ればいいだろ」



そう言われると何も言えなくなるのがチキンの性。

だって渡れない、怖すぎます。

また俺が黙るとデップも何も喋らなくなった。


なぜかデップの機嫌が少し悪い気がするが、それはきっと俺が自分に渡るなって

言っておいて、早く渡らないことが原因だと思われる。その状態が数分続いた。


そこで最初に動いたのはやっぱりデップであった。



「はぁ…もう二人で一緒に行くぞ」


「は?…え、ちょ、貴様私を誰だと心得てそのような無礼講を…!!」



深いため息で自分を落ち着かせたデップは、そう言い切ると俺の脚の裏に手を差し込み抱き上げた。


俺は最初こそ何が起こっているか分からなかったが自らの状況を理解すれば、かなり慌てた。しかしそんな俺の若干の抵抗も虚しくデップは歩き出す。


そんな今の俺の状況をひとことで説明すると『お姫様抱っこ』である。

だから何度も言うけど誰得だよ、この状況!



「大人しくしないと落ちるぞ」



ヒューと俺の横をすり抜けていく冷たい風。

俺はまさか、と思い下を覗いた。


するとそこには想像していた通りの光景が広がっており、恐怖で発狂してしまいそうだ。


なぜわかっていたのに下なんか見たのか…

人間誰しも好奇心には勝てないということだ。


そんなわけで、楽しそうにこの世界に存在するわけもない鹿児島のことを悶々と考えながら歩くデップと羞恥心と恐怖心に苛まれながら、もう寝たふりを決め込む俺は一週間かけてブルータウンに向かったわけだ。


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