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流行なんて大嫌いだ!

翌朝。



「タナカ、とりあえず人里が見つかるまでの間は一緒に行動してやる、お前を一人にしたらいつ殺されるか分からないからな」



異常にモンスターに狙われるし、と深いため息をついて言われた俺の今朝の寝起きはもちろんいいものではなかった。


体中痛い上に、人の顔を見てため息つかれるって。

確かにここの世界のことは全く持って分からないが…



「世話になってやろう、それが俺の運命(さだめ)であるのなら」



しかしそんな失礼なデップにも寛大な俺は握手を求めようと手を差し出した。

デップは何かを言おうとして、やめて深い深いため息を吐きながらも握手し返すのであった。


それからの日々は、ただひたすら長かった。

山を越え、谷を越え、川を渡り、崖を登り、空を飛ぶ。


そんな毎日の繰り返しで、どこかで死ぬのではないかと思ったな、割と本気で。


でも現実世界にいたころに比べて時間を意識して生活するってことは減ったかもしれない。


多分だけど時間に縛られた空間ではないからだと思う。

なんかいいな、そんな風に感じていた。そんなある日の昼下がり。



「少しここで休憩をとるか」



今日は朝早くから移動を開始していたためいつもより早めの休憩が入った。

なんでも、ここら辺にはウィークと同じくらいのレベルのモンスターが多く生息しているらしく、朝早い時間には活動をあまりしないものらしい。


だから朝早くから移動を開始していた。毎日地図しか眺めていないデップは、そういう情報は一体どこから仕入れてくるのか、今の俺の切実な疑問の一つである。


そして地面に大剣を置き、ゆっくりと腰を下ろすデップに続いて俺も座ろうと腰をおろした。いや、下ろそうとした。



「へ?」


「なん…!?」



何かが足元をかすり俺のバランス力を奪っていく。

ゆっくりと流れる景色に俺の頭は案外冷静で、しかしここからの対処法が思い浮かばないあたり、やっぱりパニック状態で。


とにかく分かることは1つ。これはやばい。



「…」



黙るデップ。黙るタナカ。なんだ、この状況は。

気まず過ぎるし、どうしてか頭が真っ白だ。

目の前、しかも至近距離にデップの顔があって、俺は地面に手をついていて。


そうだ、これは俗に言う壁ドンだ、そうだ、それだ。

少女漫画には欠かせない、2014年から世界へと流行し始めたあれだ。


しかし俺が今手をついているここは壁ではなく地面だから地面ドン?地ドン?大地をドン?普通なら女子がときめく所なのだろうけど、あれには「※ただしイケメンに限る」という注意書きが必要になってくる代物だ。


しかも女子なんてここには一人もいないし、まず男同士でこれって…絵面的に酷いのではないだろうか?


ほら、だって俺よりデップの方がデカいし、黒いし、男だし。

むしろこの状態は俺が父親に抱っこされて遊んでもらっているように見えるのではないか。とりあえず絶対面白い絵面になっていることは間違いない。


誰得だよ、この状況。

それから何秒たっただろう、一向に何も喋らない俺とデップ。


異様な雰囲気に退くに退けなくなった俺は、黙り続けているデップに恐怖心しか湧いてこなかった。


これ絶対激おこってやつだよ、むしろ激おこファイナリアリティーなんとかってレベルだよ。俺は今から怒るぜ、的な感じだ。俺的には今が逃げるときだよなぁ!状態だ。



「聞こえる、悪魔のささやきだ。今すぐここから動かないと俺の精神が削られ、」



一瞬何が起こったのかなんて視力が1.5の俺でも理解しがたかった。


俺の顔のすぐ横で腕を伸ばし、何かを投げた後のような体制のデップに俺は別の意味で動けなくなってしまっている。


その直後に背後からドサッという何かが落下する音が耳に届いた。



「どけ」



そして、デップは冷たく言い放つ。

今までの無言が嘘のようなひとことに俺の精神は瀕死状態だ。


そんな俺のことなんてお構いなしなのか、意識がどこかにイっている俺を無理やり退かし、デップのものである大剣が刺さっている〝それ〟の元に向かった。


それは大きなモンスターと言えるようなものではなく、小さな茶色い球体のような形のモンスターであった。


今まで見てきたものとは随分と違い(主に大きさが)、外観もこれはただの球体でそれ以上にも、それ以下にも言いようがなかった。そう、目すらないのだ。



「これは…ウィーク、か?」



剣に刺さったままの〝それ〟をじっと見つめるデップは何かが気になるのか、考え込んでいた。俺はというと地面に倒れこんだままだ。


お前たちは知っているか?恐怖心は人を発狂させるということを。

俺は今、まさに別次元を見据えるものと化している。


どれだけ引っ張るんだよって?では聞くが貴様らは顔面真横スレスレを大剣が超スピードで横切って行ったとき、まともでいられるのか!


あ、いや、でも俺様には軌道もしっかり見えていたし分かっていた。

ただ少しビックリしただけなんだけどね!



「タナカ、いつまでそうしているつもりだ」


「聞こえるぞ、悪魔のささやきだ。ここから動いたら危ないと聞こえる」


「…なんだ、腰が抜けているだけか」


「貴様は俺を怒らせたあああああ!!!」



それから俺が立てるようになったのは1時間後であった。

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