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自分の飯は自分で作る。

 翌朝、それはハードな1日の始まりに相応しいものだった。



「タナカぁ!朝だよ!」


「う、うるさいなぁ!今何時だと...」


「うだうだ言ってないでさっさと準備して降りてきな!朝食前の一仕事だよ!」



 文句は言うまい。飯を人質に取られているからな。俺はため息をつきながら急いで支度を済ませて朝ご飯を作っているおばさんの横を抜け、朝日の眩しい外へと出た。



「うわぁ」



 思わず声を漏らす俺の視線の先にはテレビで見た事のあるような、たくさんの農具がおかれている。もうそれだけでなにをするかは一目瞭然というやつだ。そんな俺を見たおやじさんは、苦笑しながら「少し歩くが大丈夫か?」と言ってくれた。優しい。



「この街は自給自足がモットーでなぁ、町で商売をしているのは大体外から来た商人なんかだわい。元からここに住んでる人々はこんな風に畑を持ってたりするんだ」


「へー、だから宿屋をやってても金は取らないのか」


「まぁ、どうしても働かないやつもいるからそういうやつらからはお金をもらっているな」


「1泊、大体どれくらいなんだ?」


「宿にもよるが...うちでいうと100万ネマーだな」


「………は?え、一泊!?」



 ―――そんな豪勢な宿屋にはとても見えない。


 そんな本音を飲み込みおやじさんを見れば、驚くのも仕方がないが…と話を続けてくれた。



「ここは基本何でも高いんだよ、この街の(ちょう)がそういう風にしてるんだ。働かないものは死に(さら)せ、そう言う物騒な制約を取り決めるくらいには働かないやつを嫌っていてね」


「その割に、その長を見てないけど」


「長は毎日中央コロシアムで戦いを受けてるんだよ」


「え、戦う!?」



 弱肉強食の街のトップは強食の方だったか。当たり前だが。この街では驚かされることばかりである。そういえばデップが戦闘値を上げるのに適した街だって言ってたな。今のこの感じだと俺は家事値が上がりそうだけど。



「そう言えば、君の鍛錬は朝食後から組んでいるが大丈夫かな?」


「鍛錬?」


「私の代では初めてのお客さんだから腕がなるね」



―――あれ、そんなサービスあるの?宿屋って。


 ポキポキと首を鳴らし、袖を捲り上げたおやじさんの二の腕をよく見ると筋肉で固められた豪腕だった。気弱で優しい笑顔で俺を迎えてくれたおやじさんは何処(いずこ)へ行ってしまったのだろうか。


 おやじさんの二の腕をガン見している間に目的地に着いたらしく、おやじさんが立ち止まったため俺も立ち止まりおやじさんの後ろから目的地の光景を見た。



「…広くないっすか」


「小さいほうだぞ?」



 何ヘーベーだろう、というよりも東京ドーム何個分だろうという方が分かりやすいかもしれない。実際に東京ドームを見たことはないから何個分と形容はできないので俺の知ってるレベルだと地元の鴨池球技場3個分だ。


 農業なんてやったこと無いから分からないが、これは広すぎると思う。普通がどれくらいかは分からないが、俺はこれが広すぎると思う。(大事なことなので二度言いました)



「これを今から二人でするんすか」


「いつもは一人だから助かるよ」


「自分の力量を考えて土地を買うべきだと俺は思うんだ、どれだけのものを自分で抱えることができるか…それが生きていくうえで大切だと思わないか?おやっさん」



「さて、まずは雑草抜きだ、君はそこから頼むよ」


「ふっ…四面楚歌とはこういうことを言うんだな」



※四面楚歌とは→周囲がすべて敵や反対者で、まったく孤立して、助けや味方がいないこと。また、そのさま。孤立無援。(goo辞書参照)






「一先ずこれくらいにして朝飯だ、お疲れさん」


「うえぇぇい……足がプルプルするぅぅ…」



 ずっと中腰、というのはこんなにもキツイものなんだと俺はまた一つ学んだ。もしこの体験が活かせる時が来たとしたら、間違いなく俺は逃げると思うが。


 ―――あぁ、腰と太ももと脹脛(ふくらはぎ)と、体中の筋肉と骨が張っている気がするぜ。



「朝飯前とは俺の認識している意味とは違ったんだな…」



 朝飯前だぜ、と言っている連中に伝えてやりたい。朝飯前は厳しすぎるということを、簡単にできることではない、朝飯前こそ試練なのだと。そんな強がりで朝飯前を使うんではないと。


 3分の2くらい綺麗になった畑を背に俺はおやじさんと宿屋へ帰る。ピンピンしているおやじさんからは見た目に反して年なんて感じさせない貫禄があった。さすが手馴れていると言うべきなのだろう。



「お疲れさん、二人共!ご飯はもう出来てるよ!」


「飯だぁぁ!!!ひゃっはー!」



 世紀末のような叫び声を上げて俺は食卓へ座った。その後ろを面白そうにおばさんとおやじさんは着いてくる。昨日今日の仲だけど、同じ釜の飯を食うと仲良くなれるというのは本当らしい、偉大なり食事の力。



「それじゃあこれ食って、この後の鍛錬頑張りなよ!」


「あぁ、抜かりない、任せておけ」


「そりゃあ、しごきがいがあるなぁ」


「おやじさん、いちいち言葉が怖い、なんか怖い」


「そうか?」



 のほほんとした笑顔で俺を見ないでくれ、(すさ)んだ俺の心の臓はその笑顔すらも黒く見えてくる。この後の地獄を暗示しているように見えるのだ。


 プルプルと震える腕でなんとか箸を持ち食事を口へ運ぶ俺は、この後の鍛錬に果たして耐えられるのかと不安になるのだった。

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