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目的なんて後からついてくる。

「故郷…家族…」



 ベッドに腰かけ改めて自らの口で言葉を紡いでみると、その懐かしい響きに違和感を感じた。違和感と言っても変な違和感ではなく、忘れていた言葉を思い出した時のあの感じだ。なんと言えばいいか分からないな。

 

 ―――そういえばあの自称神様(笑)に帰れるかどうかを聞くの、忘れてたなぁ。


 なぜ先にそのことを聞かなかったのか。そのことが悔やまれる。普通ならば一番に気になることだ。疑問の中に浮かび上がることすらなかったことが不思議で仕方ないのだが、あの時は異世界に来れてテンションが上がっていたのかもしれない。


 ―――帰りたいかどうか、


 考えても答えが出る気がしない。帰りたいといえば帰りたいのだろう、家族には会いたい。引きこもり生活も便利でそれなりに楽しかった。


 でも息をしている感じはなかった。


 ここにきて、俺は今息をしていると感じる。死にそうになる経験が何度もあるせいかもしれないが、日に当たり風を受け、体力を使い切る。疲労を通り越した体の痛みも最近はあまり感じなくなったし、筋肉もついてきているように感じていた。


 都会とまでは行かないが、俺の地元は田舎でも自然しかない世界ではなかった。ここで目覚めた俺の目の前には草木が生い茂る獣道広がっていた。



 ―――俺は何がしたいんだろうな。



 自称神様(笑)に言われたことを思い出す。『面白くしてほしい』そんなようなことを言っていた気がする。それは具体的にどんなだ?どういう面白さを求めている?確かにこの世界はアニメで見ていたし、クソつまらなかったけど人が求める面白さなんて十人十色だし、俺が面白く感じても他が面白く感じるかは微妙なところだ。


 そう考え始めると少し怖くなってきた。今この時もどこかで俺達は物語として観られているのだと思うと変な緊張感が生まれてくる。


 これは真面目に考えないといけないかもしれない。今まで何となくでここまで来てしまったけれど、面白くできなかったときのリスクとかの可能性も考え始めると笑い事だけじゃすまないような気がしてきた。まずはあれだ、物語を作る上でとりあえず目的をはっきりさせないと...



「そこが一番の問題だった!」


 何が問題か、それは一般人並みの目的しか思い浮かばないからである。もっと言えば自分の欲望丸出しの目的しか思い浮かばないのだ。



「魔王討伐うぅ!!」



 これ以上に何も思い浮かばないのは自信の語彙力の問題もあると思っている俺氏。



「うるさいよタナカ!」


「はいすいません!!!」



 思わず立ち上がった自分自身に恥ずかしさを覚えながらゆっくりとベッドに腰かけた。小さくため息をつく。もとの世界に帰る、それが一番の「よくある目的」のひとつだ。そのために魔王を倒したり、国を救ったりするのであって何となくで始めるものではないと思う。そんなんで面白くするとか無理ゲーすぎる。


 ―――あぁ………なに気弱になってるんだ俺は。らしくもない。


 バフ、と勢いよく横に倒れ自身の腕につけられていつるバングルを見る。白のバングル、それは最弱を意味する代物だ。俺は特別で、本来ならこんな不名誉なものをつけていいわけがない。フォリアは言っていた「力を見謝ったってことはタナカが強いと思ったのでは」と。


 なら俺がすべきことは1つだ。



「俺の武勇伝をこの世界にとどろかせてやる!」


「タナカ!!」


「うえい!」



 半身を起こして盛大に叫べばまたうるさいと怒られる。俺は1人苦笑しながらもう一度寝転んだ。

 目的なんて大層なものは俺にはわからない。面白くしろなんて俺にはできそうにもない。なら俺らしく強気でいようではないか。俺の欲望をそのまま目的にすればいいではないか。物語が面白いかどうかは俺が決める、だって俺の物語なのだから。俺が面白ければそれでいい。それで元の世界に帰れたのなら結果オーライだし、大体旅してれば帰り方なんてわかってくる。


 正直この世界にいるのも悪くはないと思ってるからな、もう少しこの世界で遊んでから帰ってもいいだろ。俺の秘められし力が使えるまではな。



「っし、もう寝ようかな」



 時計はこの世界にはない、しかし時間という概念はある。何時か、何時間経ったかは太陽や月を見るらしい。俺は未だにそれには慣れないのだけれど。


 とりあえず明日は朝から早いらしいし、早めに寝るのがいいだろうという自己判断の結果俺は寝ることにした。ゲームもパソコンも携帯もラノベもなにもないこの状況で夜更かしをしても暇であるだけだし、する意味もない。それならば寝てしまったほうが幾分かはまし、というものだ。


 俺は机の上にある小さく光る火の瓶をクルクルと回して息を吹き掛け明かりを消した。



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