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初期装備で、レッツ戦闘。

「やっっっっと…」



 俺たちの数百メートルも前に広がっているのは赤レンガを積み上げてできた大きな壁と門。それはまるで人の出入りを拒むように左右に大きく広がっており、どこまでも続いていた。


 そして門の前には鉄の塊…数日前に俺が装備していたものと同じような形の甲冑に身を包む強そうな男が2人、出入りする人々を監視している。遠目から見てもかなり大きな門であるため門の中の街もかなり大きいことが伺える。



「ここ、どこ?」


「クラースナヤストリートだ」


「クラー…?」


「戦闘力が最底辺のタナカの力をつけるために来た」


「この会話、何度目だよ」



 ―――ていうか、最底辺とか失礼なことを何度も言うな男女め。



「何か言ったか」


「いや別に…」


「そうか」



 しかし「そうか」という割には眉間に濃いシワをつくり、見るからに不機嫌そうな顔になったデップ。まるで俺の心を読んだかのような機嫌の悪さである。フォリアはそんなデップを見上げながら少し考えて、その無表情な視線を俺へと向けた。



「タナカ、弱い?」


「あぁ、かなりな」


「だからこの会話何度目だよ、そろそろ俺もブロークンハートだよ」



 ジッと見つめて何を言うかと思えば何度目かも分からない言葉を投げかけられる。デップは当たり前のように首を縦に振り、憐れんだ、を通り越して悟ったような瞳で俺を見た。


 ―――悟りを開くまで俺たちって長い間ともに旅してきた仲とかじゃねぇだろうが。頭の中のネジどっか飛んで行ったんじゃないか、この馬鹿。


 心の中で悪態をつく。ここに辿り着くまでにこんな会話を何度も繰り広げられていた俺の心はかなり削られているのだ、これくらい愚痴っても誰も文句は言わないだろ。


 ちなみにここに辿り着くまで、どれくらいの時間を要したのかというと俺ももう覚えていない。なぜなら一週間を超えたあたりから俺も日数を数えることが面倒になってしまったため、無心で道なき道を歩いていたからだ。


 しかも途中から案の定というか、予想をしていなかった事態ではなかったのだが、食料が底を尽きた。そしてあの初日からの悪夢な食生活へと戻った。もう声を出す力さえ俺に残されてはいなかったよね、無心になっていなきゃここまでこれなかったよ、マジで。


 その間にフォリアとデップは仲を深めたらしく、そのせいなのか抜け殻のように黙りこくっていた俺と2人の間に若干の距離を感じる気もする。というかフォリアの俺への態度が完全にデップのせいで冷たくなっている気がする。



 ―――やっぱ女同士だと気が合うのだろうか……俺の夢見ていた美少女との旅はこんなんじゃなかったはずなのに!



「ちなみにタナカ」


「なんだ、デップ」



 すぐ目の前に正門が迫ってきたとき、デップは不意に俺の名を呼んだ。正門に立っている門番の姿もよく見えた。



「この街に入るときに1つ注意しなければいけないことがあるんだが」


「注意?」


「ここは出入りが自由でどんな身分の人間もいつでも好きな時に入ることができるところだ」



 ―――ただ、


 ガキィィン―――


 デップがそう続けた瞬間、門の前で激しい戦闘が始まった。何事かを目を見開けば、門に立っていた甲冑の男Aと、俺たちの前を歩いていたであろう小柄な男が剣と剣を交えて死闘を繰り広げている。その光景を俺は唖然と見ることしかできない。まさに呆けた顔とはこれだと自分で思うし、空いた口が塞がらなかった。



「まぁ、話を聞くより見たほうが早いな」



 そう言ってデップも目の前の戦いに視線を向ける。俺も再度その闘いへと視線を移せば甲冑の男Aは長めの剣で上から下からと素早く切りかかっており、俺はその動きを目で追うだけで精いっぱいである。

 しかしそれに引き換え相手の小柄な男は短剣で応戦はしているものの、防戦一方である。素人目の俺から見ても一方的な戦いに見えた。


 ふと横に視線を移してみると、戦っている2人の傍には大きな荷物が積み上げられており、その荷物からは木の実や果物がチラリと見えている。恐らく中身はすべて同じものが積み上げられているのだろうと安易に推測できる。


 ―――もしかしてあの小柄な方の人って、



「そこまで!!!」



 門の前に立っていたもう1人の甲冑の男Bが大きな声を張り上げ、その戦いに終止符を打った。その声を合図に甲冑の男Aの首元に短剣を突き付けようとしていた小柄な男は手を止め、短剣を鞘に戻す。そして甲冑の方も剣を引く。お互い頭を下げてから小柄な方の男は荷物を持ち、門の前に向かった。



「よい闘いであった、これをつけて入れ」



 そう言って渡されていたのは緑の丸い、輪のようなものだ。それを受け取った小柄な男はそれを腕につけて、お礼を言って中へ入っていった。



「さて次は俺たちの番だな」


「そして時間よ、我が命ず、止まりたまえ」


「…なんだ、やり方は分かっただろう」


「理解したか否かで答えれば前者であるぞ、だからこそ時の精霊との交渉に踏み切っている。要するにちょっと待ってお願い」



 俺はすかさずデップの服の裾を握りしめ、歩みを止めさせる。


 ―――もの申したいことはたくさんあるが、一番言いたいことといえば、あんな強い商人がいていいのかってことだ。本業商人じゃないのかよ、この世界の商人一体なんなんだよ。



「わし、戦えばいい?あれと…わかった」


「ジャスト!アッ!ミニッツぅぅぅ!」


「なに?」


「あっちに行くのはやめるんだ」


「どこ?」


「あっち!」


「…今からどこ行くんだっけ?」


「あぁ!もう!裾つかんで止めただけでこれだよ!その展開読めていたけど!!デップ!ちょっと詳しく説明しろ!kwsk!」


「だから見ての通りだ。この街は闘いの街、その名の通り中に入るにも門番と戦わなければならない。俺も初めてこの街の中に入るから実際に戦うのは初めてだが」


「楽しそうだな、おい」



 若干目を輝かせているような気がするのはきっと気のせいじゃないだろう。



「…これは何の意味があってやっているんだ?」


「戦闘値を計るためだと聞いたことはあるが。何をためらう必要がある?…あぁ、別に勝つ必要はないから安心して切られて来い」


「安心して切られてこいって文脈おかしいだろ、もれなく魂が地に還るわ。というか負けること前提かよ」


「ウダウダ言っていないで、さっさと行ってこい」


「は?ちょ、デップ!」



 特に何も詳しく聞けていない俺の首根っこをつかんで思いっきり甲冑男Aの前へと投げ捨てたデップの腕力は、それはそれは想像を絶するほどだろう、とか今はどうでもいいんだけど。それにしても視線が痛いなとか、結局こうなるんだね、とかいろいろ考えてる俺だけど。



「次はお前か…ずいぶん奇怪な恰好をしているな」



 少し高めのハスキー声。振り向けば見覚えのある甲冑姿の男。俺のことが珍しいのか甲冑で顔は見えないが、ジロジロと見ているようだ。そしてやっぱり突っ込まれる俺の服装。


 ―――いや分かるよ?スウェットに室内用スリッパって完全に部屋着スタイルですもんね?うんうん分かるけどそんなにジロジロ見なくてもよくね?


 一応突っ込んではみたものの、それでも目の前の相手は準備万全のようで、すでに剣を構えており、いつでも来いという感じだった。


 しかし俺の武器といえばデップからもらったこの小さなナイフくらいである。

 ―――え、まってこれで戦えと?



「ナイフ遣いか、それとも魔力遣いか…どちらでもいいが、準備ができたのなら()くぞ!」


「は!?」



 甲冑男Bの掛け声とともに猛スピードで駆け出してくる甲冑男Aが視界に見え、鉄と鉄の塊がぶつかり合う音が耳鳴りのように俺の耳元へと届いた。


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