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すごいだろ、これ全部道端なんだぜ?

「デップよ」


「なんだ」


「時は金なりと言う言葉を知っているか?」


「知らんな」


「そうか………違うそうじゃない」




 眩しい日差しと、険しい山々。木々は生い茂り、動物たちは駆け回る。そして目の前には大きな背中。俺は一体何日この風景を見続けているのだろうか。


 空に昇りきった太陽を見上げた。雲ひとつない晴天は、俺の中の水分を奪っていくのには十分すぎるくらいだ。


 ドシドシと未だにペースを落とさず前を歩くデップと俺の間には少しずつだが確実に(物理的な)距離ができ始めていた。おらのスウェットがびしょ濡れだい!………はぁ。



「さっき出発したばかりだろうが」


「ふっ…いつの話をしている、貴様は過去を彷徨いし(たましい)の怨霊か」


「俺は生きてるぞ、馬鹿なのか」


「6時間も歩きっぱなしだって言ってるんだよ!馬鹿!……馬鹿!!」



 そう叫んで最後の気力を使いきった俺は、その場に倒れこむ。幸いにもここは森の中の整備されている道の上、木陰なんてものはたくさんあるため休む場所には困らないのだ。


 それなのに汗だくで歩いているのは6時間という数字がすべてを物語ってくれていると思うから察してほしい。



「たかが6時間で」



 倒れた俺を見て立ち止まり、大きくため息をつきボソリと呟くデップ。


 たかが6時間、だと?みんながみんなお前のように並外れた通り越して宇宙人並みの体力を持っていると思うなよ、あぁん!?



「クソ巨魔神が」


「魔神だと」


「ちょ…おおお落ち着くのだ勇者デップよ!選ばれし勇者よ!そたなに栄光あれええ!」



 俺もボソリと呟けばその声はデップに届いたようで、太陽を背に俺を見下している姿がすぐ頭上に現れた。その表情は逆光で見えないがかなりお怒りだという事だけは分かる。


 今から立ち上がりこいつのグーパンを避けるのは無理だ、ならば俺がすべき行動はひとつ…そして俺は全力で横へと転がった。



「ぶへ」


「…何をやっているんだ、全く」


「これが壁にぶち当たるってことなんだな…俺もまだまだだぜ」



 案の定というかなんというか、そのまま茂みへと激突してしまうという失態を犯す俺。しっかり整備された道だからといって油断してはいけないな。


 茂みに埋まった自分の顔を救出してから頭とかに付いた葉っぱを払って落とす。そしてそのまま仰向けになり、またデップを見上げる。


 デップは仕方ないと言うようにその場に腰を下ろし、鞄の中から乾燥したメール魚を取り出した。


 これは俺達があの街を出て行く時に魚屋のオヤジがくれたものだ。デップが生のメール魚をそのまま長旅に持って行くってことを話したら、こっちの方が長持ちするからと言ってくれたのだ。まぁ、そりゃあそうだとは思った。こっちの世界には魚が腐るなんて概念は無いのかと思ったが、やはり違ったらしい。どこの世界も魚が腐る、は共通概念だったようだ。



「とりあえずこれでも食って腹ごしらえをしてから、また出発するぞ」


「さすがデップ、我が魂の枯渇に気づくとは…ただの人間にしてはやりおる」


「どこかの貧弱が動きそうもないからな」


「どこにいるんだ、そんなイケメン」



 とりあえず手渡されたアジの開きみたいなメール魚を受け取って食べる。貧弱は聞き捨てならなかったが腹が減っては戦はできぬ、だ。若干イケメンっていう言葉に疑問を抱いているデップは今のところ無視しようと思う。


 そんな感じでムシャムシャと乾燥メール魚食べていると坂道の上の方から何か聞こえてきた。それはどんどん近づいているようで、音は次第な大きくなる。



「何か落ちてきているのか?」


「まさか………おにぎりか」


「なんでそうなる」


「おむすびころりんを知らないのか」


「火の国の話か」


「あ、デップ前…」



 くだらない話をしている間に大分よく分からない"何か"は近づいていたようで、俺の視界にはゴロゴロと勢い良く転がってくる"人"が映っていた。しかもかなりのスピードで。


 え、待って。あれ人!?あんなに勢い良く坂道を転がってくる人なんて初めて見たけど!!なにこれ避けていいの、スルーすべきなの!?まさかここで俺様の封じられし力が発動しちゃう感じなの!?


―――ガシッ


 俺が一人混乱している間に、デップがそれを掴んでいた。あの勢いは嘘だったかのようにデップの右手に掴まれているそれは停止している。そしてデップの右手に収まっている様はまるで小人のようだ。


 まぁデップがデカすぎるだけだけどさ。


 俺達は目を見合わせる。デップも扱いに困っているようで俺に助けを求めるような視線を送ってきた。とりあえず今にも握りつぶしてしまいそうなデップに、転がってきた人を離すよう促す。


 ゆっくりと開けられる手のひらの中には、青色の鬼の面を被っていて素顔はわからないが、後ろで一つに束ねられた綺麗な黒の長髪と小柄な姿から少女だと推測できる人がいた。



「…豆か」


「人間だから」


「…豆人間か」


「そんな種族いるのか、ここは」


「…聞いたことないな、いたのか」


「聞いたことないのに、いたってなんだよ」



 デップは壊れ物を扱うようにそっと地面に少女を下ろした。それでも少女は目を覚ます気配はなく、ピクリも動かない。その姿はまるで死んでいるようで、俺は不安になり思わずソっと触れてみた。



「温かい」



 それは生きている証拠だ。ホッと一息つく。この世界で人の死というものは見ていなかったから少し怖かったぞ、本当に良かった。


 しかし、これからどうするか。もうしばらくここで休めるという事実は大変にありがたいのだが…いや、有り難さしかないけど。


 だって下手したら魚食ってすぐ出発とかだったし。地図なくしたから、道うろ覚えのデップに永遠とついていくとか先が見えなすぎて嫌だし。



「じゃあ行くか」


「なぜそうなった」


「なぜって…生きているんだろう?じゃあ問題はないだろ」


「馬鹿が!大事なロリッコ要素だぞ!素顔を拝んでから…っと、心の声が…デップよ、生倒れている哀れな人間を救済すべきだと俺は思うぞ」



 もうしばらく待機かと思っていた矢先の出発宣言に若干焦ってしまった。まさかこの状況で荷物まとめはじめるとか思わないじゃん、どこからか転がって来た生き倒れの人を見捨てていくとは思わないじゃん。確かに身元もわからないし、なんか転がって来たし…見捨てていく要素はいくつかあるけどさ。



「んん、ん………腹、が………」



 グゥという音が聞こえたかと思ったら、目の前の少女はまた気を失った。一瞬だけ息を吹き返した感じだったけど………



「空腹で生き倒れてたのか」



 とりあえずここ道端だし森の奥の方で休むとするか。俺も寝よう。


 デップは再び少女を持ちあげ、俺は荷物を持ち立ち上がる。俺達は道を外れて少し奥の方へと向かっていった。


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