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「空が青い」とは平和の証拠なんです。

「あっはっは!大漁大漁!」



急ぎ足で街に戻った俺たちの目の前には、愉快そうに笑い狂うオヤジがいた。

そんなオヤジの様子に、喜んでいいのかどうすればいいのか分からない俺たちがいる。



俺たちは数分前に山を下りて街へと戻って来ていた。

そこまで遠い位置の山ではなかったらしく、目的地まではすぐにたどり着いたわけだ。


しかしデップは地図も見ずによくここまで戻って来れたものだと思う。


このまま下山できずに遭難とかしたら、どうしようかと。

まぁ、そしてら地図を山の中で無くした(風に飛ばされた)俺の責任なのだが。



「いやはや、風さえも魅了してしまう俺はやはり罪深き秀才」


「お前まで何を言っているんだ」


「ん?おお!あんちゃん達!無事だったのかい!」



目の前のオヤジの奇行に加え、俺の奇怪な言動についていけていないデップが深くため息をつくと、それのお蔭か分からないがこちらの存在に気が付いたオヤジは驚いたような顔をして俺たちを見た。


きっとかなり心配をしてくれていたのだろう。

その声色はなんだか安心したような、嬉しそうな感じであった。


会ったばかりの俺たちのことをこんなに心配してくれていたっていうのは、なんだか嬉しものだな。


やっぱ、出会いって時間じゃねぇんだよ。

想いの強さだよな…俺いいこと言ってる。



「夜はすみませんでした、しっかりお礼も言えず」


「いいってことよ!それよりもお仲間さんが見つかってよかったね!」



申し訳なさそうに俯き謝ったデップに、オヤジはそんなこと気にしてないよと言わんばかりのいい笑顔で謝罪の言葉を受け止めた。


そんなオヤジの対応にデップは驚いたように固まる。


何に引っかかって固まっているのか俺には分からなかったが、デップはすぐに俺をチラッと見ると小さく笑みを浮かべて「そうですね」と答えた。


すぐ目はそらされたが、俺はなんだかむず痒い気持ちになる。

デップと出会ってからそんなに長い時間を共にしたわけではない。


しかし色々と濃い時間を過ごしていたのは確かだったから。


仲間、か。


今まで俺がいた世界ではそんなこと直接的に言葉にして言うやつなんていなかったし、だからそんなこと言われることもなかったから変な感じだ。


そしてデップはそうだ、と思い出したようにオヤジに向き直る。



「それより、どうしたんですか?この状況は」



オヤジの周りにある網の仲で活きよく跳ねる魚たち。

その魚たちは大きな網の中にこれでもかって程詰め込まれており、とても窮屈そうだ。


それに対して愉快そうに笑みを浮かべるオヤジはさながら悪魔の様だろう(魚視点)


昨晩まで絶望的な状況だった人間がどうやったらこんな状況になるんだと、普通の人なら思う状況である。


そしてオヤジは、と言うとキョトンとしながらも満足そうに足元に広がる魚たちを見ていた。



「俺にもさっぱりなんだが、今朝方、漁に出たら網に多くのメール魚がかかっててな!こりゃあ一匹も逃すわきゃいけねえと思ってよ!いやぁ久し振りに張り切っちまったよ!俺もまだまだ現役だな!」



そう言って再び狂い笑う姿は俺たちがこの街に来たばかりのときみたいな寂しそうな笑顔ではなく、生き生きとしていた。


きっとこれが本来のこのオヤジの姿なのだろう。

しかしこんなに笑っていてよく息が続くな、絶対きついって。


デップも状況はよく呑み込めてはいないが、とりあえずオヤジの顔を見て安心したって感じだ。


俺はあの神から事情を聞いているわけだから、なぜこんなにもメール魚が捕れているのか知っているのだが…まぁどう説明すればいいか分からないから何も言わないでおこう。


終わりよければ、なんとやらってな。


と言うかあのポンコツ神様め。

忘れてた、で1つの街を寂れさせようとしてたとか、ポンコツ過ぎかよ。


次こんなことあったらあの神に反逆してやんぜ。

勝てる気はしないけどな!!


いや、今から俺の成り上がり劇が始まるんだった。

見てやがれ、おやじの会もとい神の会のポンコツどもめ。



「まぁ深く考えても分からねぇし、結果オーライってことだな!」


「ふん、なんて哀れな愚民どもだ!全く、世界の輪廻とはなんとも滑稽、ぐはっ」


「相変わらず変わった、あんちゃんだな」



また殴られた俺を見てオヤジは愉快そうに笑った。

俺の頭は笑えないぐらいに痛いぞ、コラ。



「それにしても結局あの男の子は誰だったんだい?お仲間の一人ってわけじゃないんだろう?」


「男の子?」



一安心したオヤジは疑問に思っていたのだろうことを問いかけてきた。

しかしその疑問は俺たちの中でも疑問となる。


俺たちは目を見合わせ今までに会った「子供」を思い浮かべた。

きっとデップも、心当たりのある子どもなんてあの神しかいないだろう。


俺だって出会ったロリータは1人だ。

ショタになんて出会っていません。


だから男の子と言う言葉には違和感しかない。

だってあの神様はどっからどうみても女の子だったから。


そんな俺たちの雰囲気を感じ取ったのか、オヤジも不思議そうに続けた。



「昨晩そこのあんちゃんを引きずっていた子供だよ、よく見えなかったが小さな男の子じゃあないのかい?」


「こいつと一緒にいたのは女の子だったんです」


「なんだ、そうかい!俺の目もとうとう衰えちまったかねぇ」



少し考えてからデップがそう返せば、オヤジは普通に納得して頷いてくれた。

まぁ暗闇でよく見えていなかった、って考えれば納得はできるからな。


俺たちも特に言及せずにこの話は終わった。


そして他愛のない話を済ませ、何匹かとれたてのメール魚を分けてもらい、オヤジは「ま、仲良くな」と最後にヒトコト言って大量の魚たちを担いで去って行った。


しかしあの量を片手で担げる時点で何も衰えちゃいないように見えるのはきっと俺だけじゃないはず。


でもまぁ、元気で何よりだ。



「仲良く、か」


「どうした、タナカ」


「いや、空が青いな、と思っただけさ」


「…そうだな」



俺はポツリと呟き、昨夜までの騒ぎが嘘のような青色の空を見上げる。

そして俺の言葉にデップは眩しそうに青色を見つめたのだった。


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