面白いとは、興味をそそら((以下略
「タナカ」
突然呼ばれた自らの名前に肩を震わせる。
聞き覚えのある、というか先ほど寝起きに聞いた声なのだが、今は大変会いたくなくて震えてしまいます。俺はおずおずと振り向いた。
そこにはお世辞にも可愛いと言えないような茶色の甲冑の下に着る服ってこんな感じなのかなぁみたいな服で目線を彷徨わせるデップがいた。
「あの、さっき言えばよかったんだが、昨日は色々と、その…」
なんか思い出したかのようにヒロイン感丸出しだけど、見た目はこの巨体のためただただ怖いです。しかもそのイケ低音ボイスでモジモジされると笑いを越えて何も言えなくなるから、うん。一体誰得だこれ。
若干どころではなく引き気味の俺だが、とりあえず冷静に対処していこうではないか。だって俺主人公、
「そう言えば言い忘れてたなう、あくまでこの世界の主人公はデップだからねぇなう」
「なん、だと」
タイミングを見計らったように淡々と告げられた事実に俺は唖然とする他なかった。だからなんでイチイチ被せるんだよぉ…
膝から崩れ落ちる俺に不思議そうにするデップと満足そうに椅子に腰かける神様。そしてデップは黙る俺に声をかけようとしたらしいが神が止めた。
今の俺にはあいつらの会話なんか聞こえていない。
だって俺の唯一の心の支えを失ったばかりなのだから。
「てことでお願いなぁう」
そして何かしらを受け取ったデップはそのまま外へと出て行った。
デップが出ていったのを見送ってから椅子に座ったままで神は俺の方を向き直る。
「で、さっきの話の続きだけどぉ」
「貴様には情けと言うものはないのか」
「面白いからオッケイ」
微塵も俺のことを哀れに思っていないらしく、またフワフワと宙へ浮かび上がり浮かんだまま寝転がった。
きっとこいつの世界は面白いか否かで回っているんだろう。
だからこの世界を面白くしろってことで俺を呼んだのだろうが。
「ちょうど今思いついたんだけどぉ、神様が仲間になったら面白くなう?」
ニコニコして目を輝かせている神はまるで店頭で好きな魔法少女のおもちゃを見つけた子供のようである。
これこそ見た目に合った可愛らしい笑顔と言うものだ。
しかしよく考えてみてほしいと俺は言いたい。
「これから冒険始まるのだろう?」
「そうだねぇ、仲間第一号が神様とかおもろぉ」
ケラケラと腹を抱えて笑う目の前のチビッコ。
俺は頬を引きつらせながら神様を見上げた。
確かに面白いのかもしれないが、どうもこの神様は面白いという定義を分かっていない気がする。
だから何も分かっていないこいつには説明が必要だと考えた。
そう、考えた結果今から俺は…今の時間だけ厨二を忘れようと思う。
すまねぇ、でもまだ序章なんだけど、だからこそ俺はここで問題になりそうなことは片づけていきたいのだ!俺様の物語のために!!
俺様は主人公になるのだ!主人公の座を取り戻すのだ!
とりあえず俺はため息を一つつく。
「あえて俺のアイデンティティを捨てて普通に言わせてもらうとだな、まず…それは違うよ!」
「どれなう?」
「神様が冒険の仲間に入ることだよ」
しかも第一号。なんで?と言いたげなこの神様に頭を抱えたくなる。
確かに最初は面白いと思うぞ?冒険の世界へと導かれし勇者の元に現れし最初の仲間…その名も神様!「まじかぁ!すげぇ」ってなると思う。しかしその後が問題なのだ。
「もう初めからエンディングじゃねーか、神様いたら全ての冒険する目的みたいなの果たしちゃうわ、冒険する必要がなくなるわ」
「何もできない神様とかいるじゃーん」
「それもう別部類の神様だわ」
「なう?」
「じゃあお貴様…神様は無能なのか?」
これでもよく分かっていないこの神。思わず貴様呼びしたら生死の狭間とか見えちゃいました。っじゃなくて。そして俺の質問にキョトンとしたかと思えばすぐに人を見下すような目で俺を見た。
「馬鹿が、ざっとこの世界を消すことも容易いわ」
「馬鹿は貴様だ、天へ召されろ」
何をドヤ顔で言っているんだか。自慢になんねっつの。
なんかこの世界が面白くないって理由で消されそうになっている主な原因が分かってしまった気がしてならない今日この頃である。




