現実とは時として現実になるのだ。By田中
「っ、タナ、カ…?」
そして勢いよく開かれた扉は見事に粉砕。
今までご苦労だったな、きっと俺も今からそっち側の人間だ。
乾いた笑いを洩らしながら粉砕された扉を同情してみる。
違う、自分の未来を同情しているのです。
しかし目の前に立ち尽くす見覚えのある〝かろうじて人間〟が俺の名前を呟いていた。
恐る恐るそいつの顔を再度確認してみると、うん知っている巨神兵だ、こいつ。
「で、デップ、貴様なぜここに…」
そこで緊張の糸が切れてドッと疲れが湧いてくる。
ついさっきまで死ぬと思っていたわけだから仕方がない。
とりあえず命はあるぞ。
一安心で俺はその場に倒れるように座り込んだ。
というか、あいつの登場の仕方怖すぎるだろ。なんだよ、あの地響き。
走ったら地響きってどういうことだよ、お前何tあるんだよ、怖いわ。
本当に死ぬかと思ったわ。
口には出さないがツラツラと文句が浮かんでくる。
しかしそれも束の間、ドシドシと新たな地響き(小)を起こしながら近づいてきた。
それもすごい鬼の形相で。それは第一話で述べたように刑務所にいそうな鬼の形相です。
あ、これは死ぬわ。早くに察してしまった俺は、来るだろう衝撃に備え目を閉じた。
シン。不自然に静まり返った室内。
まるでさっきまでの音が嘘のようだ。
今俺は確かに鬼の形相で迫られて死ぬのを覚悟していたはずだが…もしかして瞬殺過ぎて俺は自分が死んだことにも気づかなかったのか?いやいや違う、そんなわけはない。
はっ!まさかさっきの鬼の形相は気のせいで、俺の見間違いだったのかもしれない!そうだ!だからデップは今、きっと首を垂れる俺を不思議そうに見ているに違いない。
フラグを回収しているだなんて信じない、俺は信じないぞ!!!
どのくらい思考したかは知らないが俺は勇気と希望を胸に顔を上げた。
しかし現実とは無情だな。目の前のものすごい眼力の持ち主と目があった瞬間世界の終わりが見えました。
あれ、気のせいじゃなかった。
でも目が離せないな、なんでだろ。
まるで蛇に睨まれたウサギ状態だぞ?
おっかしいな、恐怖で頭が回らない気がするな!
こいつはなんでこんなにご立腹なのかしら!!!
俺は口を開くことも出来ずにしばらくその状態が続いた。
どれくらい経ったか、俺は我慢の限界を超えた。
「…さぁ来やがれ!殴ればいいさ!俺は不死身どぅわぁっ!!!」
とうとう自暴自棄になった俺の頬に届いたのは重い一発だった。
だからなんでみんな俺の台詞を遮ろうとするのだ、もっと他に殴るタイミングあったでしょう。
そのまま体を宙に投げ飛ばされ、壁に激突。
ジンジンとする頬と背中。
くそがぁ、これが壁ドンかぁ!と思いつつ顔を上げるとそこには更なる恐怖が待っていた。
「え、は、え?…えぇ!?」
目の前の衝撃が強すぎたのか今、一気に痛みが引きました。
同時に恐怖心と、鳥肌が湧き上がって参りました。
いやね、こんな失礼なこと思っちゃいけないんだと思うんだ。
だけどね、今は一応だけど俺一般男子代表だから言わせてもらうよ?
え、なんで泣いてるの?ごめんちょっとキモイって思っちゃった。
「あーあ、泣かせたなぁう」
「え、なにこれ、俺がいけないの?ねぇなんなのこれ…!!」
「男が女を泣かせる現場を目撃なう」
「そこ!公の情報網で不確かな事実を載せるではない!…写真を撮るのをやめろ!!」
すかさず謎のタブレットで呟こうとする神を慌てて止め、この俺がいけないみたいな俺が痛々しい状況みたいな混沌としている現場で俺は混沌としています。
何言ってんだ、もう。
そんな俺の内心なんて知らない半泣きのデップは他のことを気にする余裕もないのか俺の混沌としている空気も読まず言葉を続ける。
「う、噂で連れてかれたって、帰ってこないって、だから、何かあったんじゃないかって…」
「え、そんな噂が!?お前が紛らわしいさらい方をするから…!」
「えー」
「それで、私…し、心配させるな!!!」
「ご、ごめ、ん…?私?」
人の話を全く聞こうとしない神は終始ニヤニヤしており、なんだこの茶番は!と混乱している俺の思考も今のヒトコトで完全に停止しちまったぜ。
ショート寸前ショート目前スリップなう。
もう俺ホントになにを言っているんだ。
壁を背を預けたまま頭をかかえる。
目の前の巨人の一人称が変わったぐらいで何を慌てているんだ。
落ち着いて考えろ、真実はいつも一つだ。
そうだよ、と、ここで俺は一つの真実に気づいてしまった。
自称世界一空気の読める厨二病のこの俺。
こんな事態予測はしていなかったが、こんな事態俺たちの世界ではよくあったことじゃないか。そうだろ、みんな?もう分かってんだろ?この状況の答えが。
「…そっち系、なんだな」
「違う違う、こいつ女の子だぞ?」
俺の結論は即答で否定された。そして叫び声にならない悲鳴をあげてそのまま現実逃避(気を失う)を召還したのだった。
言わずもがな翌日、俺は悔しくも現実世界へと帰還することになったのだが、それはまた日を改めて話そう。




