右腕が疼きだしました。
「お前…」
「神様だ」
間髪入れずに突っ込んでくる自称神様(笑)だが…神様を押し売りする神様があるか、と突っ込みたくなる。
しかししばらく見つめ合った結果、とりあえず俺は顎ロケット第二破が来る前に素直に床に正座することにした。
「…神様はこの俺様に一体何の用があるのだ?」
そしてヒリヒリする口内と顎を押さえつつ、今更ながら根本的なことを聞いた。
いちいちこの神様に突っ込んでいたらキリがないと一瞬で察した俺を誰か敬ってくれ。
話は戻るが、正直今まで聞いた話は全てこの世界のことや、オヤジの会もとい神の会の仕組み(※極秘事項)、後はこいつのことぐらいだったから気になってはいたのだ。
そんな話から俺がこの世界に導かれた理由なんて分からないし、俺が世界から選ばれるなんて当たり前すぎてむしろ今までそんなことがなかった方がおかしかったわけだが。
要は選ばれしもの、とかそういう称号を期待しているぞ、俺は。
「うーん…お前、この世界に来てから何か力とか目覚めたか?」
からの、唐突な質問。正座した俺に満足そうに笑みを浮かべる神の顔に若干イラッとしたな今。
しかし俺は口角を釣り上げて余裕の笑みを浮かべた。
この質問は俺の専売特許だからだ。つまりフラグなのさ。
「何を言っているんだかなぁ、この神さんはよ!俺は生まれながらにして妖魔の憑いた右腕をだ、な…うっ、なんだ?俺の右手が疼きだしてきやがった…まさか、」
「ついにツッコミの才能が開花するのか」
「なんでだよ!!」
俺は疼きだしたはずの右腕をベシッと神様に向かって突き出していた。
なぜこんなことになっているのかなんて俺にも分からないさ、ただ自然と右腕が出てしまったのだ。
俺の意思ではない。だからと言って俺の中に潜む悪魔の仕業とかそんなでもないぞ。
俺の飼っている悪魔はツッコミ体質とかそんなオプションはないからな。ただ分かることは俺今すごく恥ずかしい。
俺は恥ずかしさと動揺で俯き震えていた。
ふと嫌な視線を感じたためそこを見ると案の定というか、もう神様はニヤニヤとしていた。
「ツッコミの悪魔(笑)出現なう」
「ちくせう!!」
とりあえず床を思いっ切り殴ってみるが痛かった。殴った後に後悔。それを察してか神はうっざぁい顔で俺を見下ろしていた。殴りたい。
「ま!大方の説明も終わったし遊んだし、とりあえず神様の仕事も終わりなう!」
「え…」
「なう」
それだけ?と俺は納得いかないような目で訴えかける。よく分からない返事が返ってきたがなんとなくYESの意思表示だろうことは理解できた。
「そんなことのためだけに俺をここへ連れてきたのか…そんな勝手な理由で…」
「あれ?おこここなう?人並みに?」
ケラケラ笑っていた神はまた宙を浮遊し始めながら意味深に笑みを浮かべた。
何がおかしいのか分からないが、とても楽しそうな笑顔だと感じた。
人並みに、とか失礼すぎるけど(まるで俺が人並み外れているみたいな…そうか、褒め言葉か)なぜかは分からないが、なんとなくさっきまでの笑顔と違う感じがしたのだ。
少し怖いかもしれない。
しかし言わせてもらおう。
そして俺は立ち上がり、神と同じ目線で睨んだ。
「そんな理由で…そんな理由で俺様の大事な台詞を遮ったのか!」
「…あ、そこ」
この小説始まって以来の全力の叫びを披露する俺。
なんのことか分からなかったのか少し間を置いてから答える神。
その眼には納得と何かを悟った色を宿していた。
「俺は覚えているのだからな!さっきのこと!」
あれ昨晩だっけ?という疑問、今はいい。
それよりも大切なのは俺の大事な台詞を奪われたってことだ!
しかも二度目じゃないか?今回で!初めましてNEWワールドの時もなんかカッコつかない台詞回しになっていたよな?自身の完璧さに満足していたところを突然のモンスターでわっほーい!見たいな感じだった気がするぞ。
俺はビシッと神に向かって指をさした。
「なんで普通に連れてこないんだよ!」
「確かに、新たなる世界の覇者よ!今導かん!とか言ったら一発で着いてきそうだけどぉ」
「ちょっと待って」
「でもほら、一人でいるところをいきなりさらうって面白いでしょ?なうからどぉなるのぉ!みたいな?」
「そうかもだけど!」
「王道のさらい方って言ったらこれだよねー!」
「でもさらうタイミング!!」
「言ったなう。視聴者を飽きさせちゃダメだって」
「それ遠回しに面白くないから厨ニ病設定もういいよって言ってるよね?」
「ソンナコトイッテナウ」
「なんだよイッテナウって」
すごく馬鹿にされてる気がするし、カタコトで目線を反らしながら言われてもなんの説得力もないし。
だからそのニヤニヤどうにかしろ、なんだか面白がられている感が否めなくなってくるだろーが。
「…誰か来るな」
深いため息をつく俺の真上で神はキョロキョロとあたりを見回しつつ呟いた。
その眼は鋭く光っていたがすぐに元の憎たらしい眼に戻り、笑顔を向けられた。
その恐怖的な笑みに恐怖しか湧かない。たじろぐ俺に神はたった一言こう言った。
「愛だなう、ふぁいと」
いや二言か、と思いつつ地響きのように響き渡ってきた音に足元がぐらつき思わず地面に手をつく。
一体なんなのだ、まさかここに来て何かあの予言の「死」がやってくるのか!
思い出したくはなかった真実を思い出し身構える。
相も変わらずフヨフヨと呑気に浮かんでいる神様は神様だから余裕かましてやがるのだろう。
そして直後に勢いよく扉は開かれたのだった。




