二ー1・唄
HRの時から発表は唐突だった。
「見慣れない子が一人いるなぁ、って思っている人もいると思うんだけどさ。中村瑞穂。彼女は去年もここの教室にいたんだよ」
教室は騒然とした。俺は興味がなかった。染め上げた金髪を面倒くさそうにいじっている敬一郎も、ピンク色の髪を同じくいじる絵梨もつまりそういうことなんだろうと思った。
「噂になってしまうのもアレだし、そんでもって隠すようなことじゃないから言うんだけどね」
正直話半分でしか聞いちゃいないから、その続きの事情とかはよくわからなかった。どうでも良かった。
「杜隆、小林敬一郎、菊神絵梨に続く四人目の部員として軽音部作って、そこに所属することに決まっているからよろしくね!」
ここだけは除いて。
「ふざけんな!」
と三人ともが叫んだが、百合神はそれぞれの保護者に話を通し、記入済みの入部届をピラピラと示すだけだった。満面の笑みで。
三人それぞれがこのクソデブに対して、文句と、パンチとおまけに金的の一発でもかましてやろうと意気込んでいた訳であるが、無理だった。
「簡単な話さ。僕は瑞穂の居場所を強引にここに作る。君達には協力をお願いする。その代わり、君達は今まで持つ事のできなかった目標と、そして高校進学に向けた内申等々のポイント、そして貴重な体験を手に入れられる。悪い話ではない。君達はこの学校のお荷物なんかじゃ、ないんだよ」
顔は笑っているがその重圧はハンパなものではなかった。
こいつ、本当に人一人、いや、もう何十人と殺してるんじゃないだろうか。そこまで思えてくるくらいの目だ。
俺達は何も言い返せず、なのに体だけは妙に打ち震えるみたいになって、それでも敬一郎だけは、
「やってられっかよ! こんなズブのド素人なんかとよ!」
とどうにかして声を絞り出す事ができた。
後から聞いたが、寿命が縮んで、ションベンが逆流して顔にある穴という穴から出たんだそうだ。おもれえ体してんな。お前。
そんな俺等を黙らせるために百合神は瑞穂を俺達の前に立たせて唄を歌わせた。何が始まろうと、俺達は変わらねぇ。もしこいつの歌が上手かろうと、そうそうドラマかマンガみたいな展開があってたまるかと、その唄を聞くまで、確かに三人ともそう思っていた。