一・百八十五センチ百キロ越え
「やだ隆きゅんこわ〜い!」
例の同級生なのに先輩な奴の後ろから、俺程背丈はないが充分にでかくて威圧感のある男が体をクネクネさせながら言う。吐き気を催す程の気持ち悪さだ。引く。
「あ、……えっ、と……」
こいつも引いてるな、ということだけはわかる。
「かわいいと思います!」
ありえねぇー……。マジに言ってんのかよこいつ。
「ありがとう。わかっているよ!」とサムズアップする威圧感ありありの百合神。
一回トラックにでも轢かれてまともな思考取り戻してこいや、とか言うと面倒なことになりそうだ。黙っておく。
「気持ちわりー」
「は? きもいんやけど?」
敬一郎と絵梨がそれぞれに声をあげる。「いやいや。やっぱり年の功だね。瑞穂だけは僕のこの可憐さ、可愛らしさというものがわかっているのだよ。素晴らしい! はっはっは」
何も気に留めないようにして気持ち悪いデブ野郎こと百合神は笑いながら教室の中心へと入り込んで行く。
放課後の教室、別に何年何組のとか決まっていない場所を、一年前、二年生の時に俺が勝手に活動場所に決めた。田舎なのだ。バンドの練習場所なんざそう易々と準備できるはずもなく、適当にやっつけで環境を整えた。別に大義みたいなもんはない。あぁ、目標って言った方が普通か。まぁ、ないもんはない。実際、俺等三人のたまり場としての機能も十二分にここは果たしてくれて、ふらっと授業をフケて体育館裏だったり、そしてここだったりに身を寄せたりするのは何となく落ち着いたりもした。
その場所を、こいつは。
「部員四名と顧問一人! 軽音部ここに設立ぅ!」
いとも容易く壊そうとしているのだと思うと、むかっ腹が立って仕方が無かった。