0・初めの話
なぁ和真? という美鈴からの声かけに、僕は生返事でしか返せていなかった。それが不服だったんだと思う。ハイキック一閃。とにかく一発でかいのをもらってしまった僕は部室の片隅でのびているしかなかった。
産まれた頃からずっと一緒にいたくらいの幼馴染で、今はソフト部のエースにまでなった美鈴の蹴りが後頭部に炸裂した直後、今度は額がテーブルにこんにちは! と挨拶するかの如くぶつかる羽目になり、僕は頭の前と後ろ両方に大ダメージを受けている状態なのだ。酷いという他ない。
「おー! これシードルのインタビューが載ってるな」
ちなみに泣きそうになっている訳なんだけれども、そんな僕の状態などどうでも良いと言わんばかりの美鈴の態度。これは多分さっきの仕返しなのだろうと思った。
シードル。厨二バンド、なんて揶揄されてしまうこともあるけれども、実際に中学生である僕等からすれば本当に人気のあるバンドだ。楽曲によってリードボーカルが変わるのも一つの特色であるけれど、その中でも僕が一番好きなのはリーダーでもある杜 隆さんの歌う楽曲だ。それほど歌が上手だという訳ではない――歌の上手さだったら、瑞穂さんの方がずっと上手い――けれど、何より歌に一番魂がこもっているというか、本当に歌を切実に聴く人に刻み付ける様に感じる歌い方と、その歌詞。そこに僕は一番惹かれている。美鈴も、むっかしーことはよーわからん、とは言いながらも、そういう歌い方に惹かれているようだった。
その他にも色んなことを考えていたんだけど、
「この雑誌学校に持って来ちゃまずいんじゃないのか? 百合神に言いつけてやろうか?」
と美鈴に話しかけられ、僕の考えはストップした。
「その百合神先生に貸してもらった雑誌ですー。乱暴に扱わないでよね、美鈴」
片手で乱暴に振り回す様に雑誌を扱う美鈴を軽く諌めつつ、僕は部室を後にしようとする。美鈴達が部室に戻って来たらすぐに着替えとなる。マネージャーではあれど、男子が居座り続ける訳には当然いかないのだ。
いやもう、僕としてはホントにすぐ立ち去らないといけないのだ。問題は、
「いや平気だし」
「そうそう平気だし」
「んで後で平気じゃないって嘘ついて和真君を変態に仕立て上げる。完璧だね!」
とか何とか言いながら僕の前で平気で運動着を脱ぎだす部員達の方にあるのだ。怖い。女子怖い。
「――あ」
ふと思い出したように振り返る。雑誌を置きっぱにしていた。これに美鈴や部員達が捕われたら集合が遅れかねない。回収しておかなければ。
「――へ?」
美鈴はもう運動着を脱いでいた。