靴
実に気だるい日曜日に俺のケータイが鳴った。
俺はメールの着信音で目を覚ました。
『十二時に駅前。来なかったら死刑』
(……今十二時半なんだけどなあ)
俺は『家デートにしよう。十一時半に俺の家ね』と返信した。
すぐにきた返信がにこっとした顔文字だけでものすごく怖かったので俺は外に出る準備をした。
「おーい」
「……遅い!十二時って言ったでしょ!?」
「そりゃ無理があるだろ……」
なんか先週もこんなようなことがあった気がするなあ。
「あれ、その服……」
「何か文句あるの?」
「いえー、なんでもございませーん」
なんだかんだ可愛いやつである。
今日は靴屋さんだった。
「ねえ」
「ん?」
「これは?」
一度見ただけでは覚えられなさそうな名前のサンダルだった。
「えー、こっちじゃない?」
俺の方は覚えられなさそうな名前であったのは同じだったが、ヒールのあるサンダルだった。
「あのね、ヒールが疲れるの知らないでしょ?」
「知ってるよ」
「じゃあ、なんでそっちなの」
「こっちがいいって思ったから」
「それはあんたの感想でしょ?」
「お前が聞いてきたから答えたんじゃん」
「じゃあ、こうしましょ。そっちのはあんたが履いて。こっちのは私が履くから。そうすればヒールの辛さが分かるでしょ」
俺はささっと俺たちの手元にある靴を入れ替える。
「あんたがこっちのを履いて、私が……」
ささっ。
「あんたがそっちの……」
ささっ。
「……」
「……」
「私、絶対にこれ履かないから……」
「いいか?つまりこういうことだ。こっちのは俺以外の人がお前に似合うって思う靴で、そっちのは俺だけがお前に似合うって思う靴だ」
ささっ。
「なんでお前が入れ替えるんだよ!」
「手が勝手に」
「そんな言い訳だめでーす!そもそも入れ替えは俺だけの能力なんだよ!」
「入れ替えくらい私でもできるからっ!」
「お前のはキレがないんだよ!」
「あんたよりあるっつーの!はあ、もういいから……。いつものとこ先行ってて」
「うーわ。そうやって毎回俺のこと弾くー……」
「早く行けよ」
「はいはい」
「…………」
「とか言いつつ隠れてやつを盗み見る」
「早く行けよ!」
俺たちは宇宙一の朝食とかいうフレーズを売りにしているお店に来ていた。
とにかくこの店のフレンチトーストは絶品なのだ。
おお、彼女の笑顔が輝いている……。その笑顔を俺に向けておくれ……。
「なに?私の顔に何かついてるの?」
なんでこいつは俺にこういう怒ってるような顔しかしないのだろう。
「どれどれ~?」
俺は手を水平に保ちつつ彼女の眉間に当てた。
「眉毛の角度は三十五度!」
殴られました。
宇宙一の朝食という名の昼食を食べた後デートは終わる。
毎週しているだけあって短めなのだ。
俺はもう少し長めでもいいと思っているのだが、言い合う時間が増えるだけな気がするので何も言わない。
その次の日曜日。気だるいのは先週と同じで、メールがきたのも同じだった。
『十一時に駅前。来なかったら死刑』
「……ちょっと早くなってるし」
俺は死刑なんてされたこと一回もないなー、とか思いながら『お前こそ死刑だべろべろばー』と返信した。
すぐにきた返信がにこっとした顔文字がもうひとつの顔文字らしきものを殴りまくっているものだったので、やっぱり俺は外に出る準備をした。
「おーい」
「あれー?どこかなー?どこにもいないなー。もう、とっくに待ち合わせの時間過ぎてるのになー」
「おいこらお前」
「あ、もう到着してたんだ。背が低すぎて分からなかったわー」
よくみると彼女は俺が似合うと言ったあのヒールのあるサンダルを履いていた。
だが、そのヒールのせいで彼女は俺より少しだけ背が高くなっていた。
「ヒールくらいで調子付くなよお前……」
「あれー?あっれれー?またいなくなっちゃったなー」
「……その靴おしゃれだね!」
「……あれれー?」
「すごく可愛いよ!似合ってるよ!」
「……」
「……」
「バーカ」
踏まれた。
図書館って静かすぎて逆に気が散ってしまいますよね。なんでなんでしょうね。
十奏風です。今回は妄想シリーズ第二弾ですね。結局、僕はこういうのが好きなんでしょうか。あえて何も言うまい。
今回は何も本を読んでいません。本読みたいですねえ。
*菜乃さんの歌うねこみみスイッチをききながら書きました。
よかったら感想なんかを残していってください。
ついに陰口もじさない友人によって流れる僕の涙を汗だと言い切るくらいの気力はわいてくるかと思います。