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嫌悪の渦と青龍刀の大男

東鳴(あずまなる)が目を覚ますと、見覚えのない天井が映った。瞬時に記憶がよみがえり、はっと起き上がて、左半身をまさぐる。


「なんともない・・・・・・」

『よかった、やっと目が覚めた』


横に座っている人物に初めて目が留まる。目がクリクリして可愛いらしい14,5の少年が鳴を見ている。ほっとした様子で何か言って来るが、鳴には意味が取れない。


「言語が・・・・・・違うのか」

『なにっ?ははっ、わかんないや。私は、わ・た・し・は、リュシカリア。リュシカ、リュシカ。あなたは?』


自分を指差してリュシカと聞こえた言葉を繰り返す。それが彼の名前らしい。首を傾げる様子からこちらの名前を聞いているのだろう。


「東鳴だ、あずま、なる、あずまでいいな。あずま、あずま」

『ア、アヅマ?』

「そう、東」

『アヅマ』


名前の交換が終わって、簡単に伝達できる情報がなくなると、どうしたらいいのかわからない沈黙が訪れ、リュシカは何か言って部屋を出て行った。


 改めて周りを見ると、鳴の寝ていた部屋にはすぐ外に通じる戸口があるだけで、窓も他の部屋への通路も無いワンルームの円筒状の家屋のようだ。日本家屋で言えば平屋の離れのようなものだと思った。しかし、よくよく検分し田舎の工芸品のような縄細工だったり、種種の道具が置かれているところを見ると、ひょっとするとここは納屋なのかもしれない、と考え、自嘲の念がこみ上げる。

 そうりゃ、そうだ。自分は、よく素性のわからない部外者だ。離れに通されるという発想が最初に浮かんだ自分に嫌悪が浮かぶ。次いで、思い出したくない自分の失策に考察が及ぶ。

 どうしてさっさと帰らなかったのだろう。あの時すぐに小道を辿っていれば、今頃自室でウィスキーにピザだったはずだ。それが、そのはずが、納屋のような部屋で言葉もわからない人間に看病され、ここがどこかなんて見当をつける気にもならない。


甘かった


甘かった、甘かった


甘かった、甘かった、甘かった


 鳴はドサッと仰向けになり、両手で顔を覆って自らの罪を責め続ける。こんな風に自己嫌悪に襲われるの久しぶりだった。現実から逃げ、誰とも関わらない毎日の中は、最初から最後までが自分で尽きていて、心地よかった。だから嫌なんだ、だから嫌だったんだ。こんなの嫌だ。こんなの認めたくない。こんなの自分じゃない。こんなの東鳴じゃない。こんな、こんなみっともない。早く、消えてしまいたい。


『おい、起き上がれ』


 青龍刀の大男、リュシカの父、が低い声で鳴に声をかける。後ろから心配そうにリュシカが控えている。自己嫌悪の渦に脳回路が支配された鳴に、その言葉は届かず、ひたすら呪文のように自分への呪詛を細い声で呟き続けている。表情を少しも動かさずに大男は鳴に近づき、胸倉を一気に掴んで持ち上げる。


「ぅはぅ、あぁぁ」

『来い。長老が会う』

『と、父ちゃん、一応けが人・・・・・・』

『二頭竜の霊薬だ。もう治っている』

『で、でも』

『リュシカ・・・・・・家に戻っていろ』

『・・・・・・はい』


始終気色ばむことは無く、ひたすら低い声で大男はリュシカを抑える。父の命令には逆らえない。リュシカは後ろ髪引かれながら、部屋を後にした。それをどこか遠くで見聞きしていた鳴は、ふとひどくおかしくなり、笑いたくなった。だから笑うことにした。


「あはっ、あはは・・・・・・わかりゃしねぇ。はは、あはは、くふふふふ、ははははははは、はぁはっははははははははははははははは」


 鳴の狂ったような哄笑が響く。大男は構わず首根っこを捕まえ、猫の子を持つように鳴を引きずっていき、長老の家に入る。御前に来るや、大男は鳴を放り投げる。うつ伏せに倒れた鳴が、半開きの目で見たのはニコニコ笑いながら胡坐をかく少年だった。

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