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黒の同居者



それが愛なのか、

はっきりしない。





───────どうして。

いつの間にか、温もりがあるんだ。


 目が覚めましたか?椿さん


目を開けば、幸樹さんが微笑んであたしを見下ろしていた。


 つーばちゃん大丈夫?


白瑠さんも、あたしの顔を覗き込む。少し心配そうに訊く。

大勢の人間の血を浴びていたのに。


 ストレスで倒れちゃっただけですよ。気分は?椿さん


解せなかった。わからなかった。

殺人を犯したのに。大勢の人間の血を浴びたのに。

どうしてあたしは温もりを手に入れているのだろう。

どうしてあたしを心配して見つめてくれる人がいるのだろう。

酷く、それは理解できないことだった。


 ……………。


 ベンチで幸樹さんの膝の上にあたしは寝てた。白瑠さんが顔を覗いて頭を撫でてくれる。

 いつも凍えていたのに、温かい。

 温かい場所にいる。

 温かい人に優しくされている。

喉が痛い。視界が滲む。

あたしは掌で目を隠した。


 あたしは知ってる。

 温かい場所なんて、長続きしなくて、すぐに消えてなくなる。それでまた凍える。

 それを知っているから、温かい場所にいたくない。

 だってすぐに凍える。

 失望が苦しい。

 だから。だから。だから。

 嫌なんだよ。

 何度も。何度も。何度も。

 何度も。何度も。何度も。

 なのに、あたしは。


 大丈夫……。

 お兄ちゃん。


あたしは起き上がって笑いかけた。

白瑠さんがはにかんで笑い、あたしの左手を掴んで立たせた。

幸樹さんがあたしの右手を握って歩き出す。二人に手を引かれていく。

 ズキズキ、と痛い。

 胸の奥。ずっと奥。

 無くなる恐怖に怯えてる。

あたしはそれを振り払う。

幸樹さんと白瑠さんの間から、藍さんと由亜さんが見えた。

 あたしは。

 あたしは。


 あたしは、冷たい場所に突き落とされてもいいからと、手を伸ばした。

 あの人達に手を伸ばした。

 温かい場所に手を伸ばした。

 必ずくる痛みを────覚悟したフリをして。


 あたしは手を伸ばした。



そこでパチリと目を開く。

目の前にはコクウの寝顔があった。

混乱して、顔をしかめて、寝起きの状態で確認する。間違いなくコクウの寝顔。

そしてここはコクウの部屋で、コクウのベッドの上だ。

落ち着いて昨夜の記憶を引き出す。

黒の集団の目的を明かされたあと、確かコクウは。


「番犬が死んでたら墓を掘り返してそれで生き返らせるまでさ」


そう、そんなことを言っていた気がする。

そして遊太が祝勝会をしようと言い出し、それに強制参加させられたんだ。

あたしの部屋は滅茶苦茶で、あの日以来黒のオフィスで寝泊まりしているのだから逃げ場がなかった。

無理矢理持たされたシャンパンを一杯飲んでから、コクウのベッドを貸せと言ってコクウの部屋に向かったんだ。

それで夜這いにきた連中を対処できるように枕の下に短剣を忍ばせて寝た。

シャンパン一杯では酔わない。

誰かが来れば反応して起きたはずだ。

なのにコクウがベッドに入ってきたことさえ記憶にない。

何か過ちを犯したのではないだろうか。


「ん…おはよう、椿…。カーテンは開けないで…俺はもう少し寝るから…」


目を開いたコクウは眠気たっぷりの声であたしに寄り添った。


「……いつの間にベッドに入ったのよ…」

「んぅ?んー…二時間くらい前」「あたし、酔っぱらってないわよね?」

「酔っ払ってなかったけど」


そこでコクウは閉じていた目を開いてあたしの表情を視る。

眠そうに細めた眼であたしが言いいたいことを悟って笑みを浮かべた。


「何もないけど?」

「え?」

「俺は椿を起こさないようにベッドに潜り込んだだけ。寄り添って寝てただけだよ」

「……あら……そう…」


眠気たっぷりな微笑を浮かべて答えるコクウに安堵して肩を竦める。

嘘ではないだろう。


「クスクス……なに?何かあった方がよかった?」


コクウは笑いを洩らしてからかうように訊いた。


「酒を飲んで潰れたらベッドで裸になって起きたことがあるから心配になっただけよ」

「それで禁酒してたの?……ああ、白瑠とは酔った勢いでしたんだ?」

「………………」


正直に答えたら何故かそこまでコクウにバレてしまい、黙り込む。

否定しても嘘だとわかるだろうから敢えて言い訳はしない。


「ふぅん…?」


肯定と受け取ったコクウは意味深にあたしを見つめた。


「駄目だろ、女なんだから自分の身体はちゃんと守らないと」


コクウはまた寄り添って近距離でそう呟く。

紳士的なことを言うが、それをベッドに潜り込んだコイツが言っていいのだろうか?彼のベッドだけど。


「噛んだ舌はVに治してもらったかい?」

「……えぇ」

「傷んだら魅力が減る。君は美しい椿の花だ、いつまでも美しくいてほしい。……ああ、いい香り」


寝言のように言葉を並べて、匂いを嗅ぐコクウは目を閉じる。然り気無くあたしの腰に腕を回す。


「…………」


あたしの熱でも吸収したのか、コクウの身体は冷たさを感じない。毛布の中は暖かくて、また眠りたくなる。

温かい。

あたしはそんな眠気に負ける前にコクウの腕を退かしてベッドから這い出る。

毛布を出れば冷えた空気に触れて身震いした。エジプトの猛暑と違い、ここは真冬の気温。

ヴァッサーゴがいなければ体調を崩していただろう。

 お前って本当に便利だな。

 お前はあたしを何に利用してんだ?

頭の中の悪魔に訊いたが、悪魔は沈黙を返す。

あたしは気にせず下の階のオフィスに降りる。

オフィスには昨夜飲み明かした男達が酒瓶を散らかしたままイビキをかいて眠っていた。

ディフォがいるからカーテンは閉められている。

それでも黒いカーテンは太陽の光を通しているため、ディフォはコートを被って眠っていた。

腰を下ろして、数分黒の集団の寝顔を眺める。

蠍爆弾は机の上で豪快にイビキをかいていて、アイスピックは床に転がって寝ていた。あとの遊太達はそれぞれソファーに横たわって眠っている。

ここで携帯電話がないと不便だということを思い出す。

遊太やレネメンの寝顔が写メれない。…悔しい。

日本に戻って松平に武器のメンテナスをしてもらうついでに、蓮真君から返してもらおうか。

携帯電話を取り戻すと、彼らとの連絡手段を持つことになるのだが。


「………」


…藍さん。動きを見せないな。

本当に大人しく帰国して諦めたのか。

目を閉じて泣きじゃくる藍さんを脳裏に思い浮かべる。

ズキズキと錯覚のように小さな痛みを胸の奥で感じた。

 なんでまたあの夢を見るのだろうか。

手を伸ばしては届かない泣きたくなる夢。


「……ハァ」


溜め息は白い煙になって空気に溶け込む。

あたしは腰を上げて、バリューの残されたPCを開いた。

カシャカシャとキーボードを押して藍さんと連絡した証拠を探す。

バリューが死に際に削除したのか、その証拠を見付けられなかった。

少し考えて、手の関節を伸ばしもう一度キーボードを叩く。


「なにしてんの?黒猫」


ナヤがいつの間にか後ろに立っていてパソコンを覗いていた。目を擦っている様子から今起きたようだ。


「デマを流してるの?何のために?」


あたしはブラジルに紅色の黒猫が現れたとの嘘の情報を流していた。


「アリバイ作りよ。黒の集団にあたしがいるって知られたくないから」

「いいじゃん。寧ろ自慢すべきことだろ」

「あたしは嫌々入ったのよ?自慢にはならない」


PCを閉じてあたしは立ち上がり、ナヤを振り返る。


「朝食は何を食べる?」

「え?」

「ついでに作るわ。食べる?」

「…っ、食べる!!」


ナヤが声を上げたことによって黒の集団数名が飛び起きた。

材料を買って、軽い朝食を人数分作る。コクウは除外。

起きたディフォも食べると言うので作る。


「……平凡な料理だね」

「一流シェフじゃないもの」


フレンチトーストを出せばディフォは評価を出す。特別料理が得意わけじゃないのだから当然だ。


「美味い!美味いね!お嬢さん!いいお嫁さんになるさ!」

「無理しなくていいわ、アイスピック。蠍爆弾も、レネメンも」

「いや……せっかく作ってもらったから…いただく」

「黒猫の朝食は貴重だしな…うん、美味い…」


二日酔いの酷いアイスピックと蠍爆弾とレネメンは無理して食べる。無理して食べられるとこっちが悪いみたいじゃないか。

そんな二日酔い達にコーヒーを淹れてやる。

コーヒーの香りを嗅ぐと、朝陽の中、リビングでコーヒーを飲む幸樹さんを思い出す。


「黒猫!ボクも!」

「元気なら自分で淹れなさい」


ナヤの頭を叩いてメイド扱いにならないよう阻止する。


「おかわり」

「おかわり!」


遊太と火都はおかわりをねだったのでそれは作ってやった。


「それで?ビルジャックの時は何を盗んだの?」


自分の分も摂りながら、遊太に訊く。


「あのビルに昔、番犬を雇った人間がいたんだ。あのビルからそのリストを盗んだんだよ」

「番犬は殺し屋を狩る狩人だったから、あんまり雇った人間っていないんだよね。ボクが調べてやっとその人間を見付け出したのさ。まあ、狩人は本来殺し屋を狩る者だからね、それを雇ってボディーガードにするようになったんだ。番犬は十前に現れ、約五年暴れてふと消えたのさ。流星の如く。ウルフもその時期に現れたね、あっ、白の殺戮者もその時期に現れたんだっけ」

「黒猫、止めないと終わらないぞ」


遊太が答えるとナヤが自分の持つ情報を雄弁に出していった。

カロライが忠告する。

そんな情報はいらないのよね。


「見付けたの?その番犬を雇った人間」


番犬は殺し屋を一掃した狩人。

目撃者は雇った人間と彼から逃れたウルフくらいだろう。

素性はわからない彼をそこから探すことにしたのか。


「いや、リストからバリューがPC使って割り出すはずだったんだけど」


バリューはリストを手に入れた翌日に殺された。

あたしのせいで。


「んで、椿。代わりにやってくんね?」

「生憎そんなスキルはないわ」


気まずい空気に遊太は気楽にそう言う。あたしはさらりと断る。


「だよなぁ。やっぱりナヤ?」

「やだよ、そんなつまんないことをアナログでやらせんな」


ナヤはバッサリと断った。

地道にリストの人間を当たるのは苦労するだろう。


「じゃあやっぱりI・CHIPに頼むっきゃないよなぁ」

「………I・CHIPとまだ連絡とってるの?」


遊太の口から出た名前に反応して訊いた。


「さぁ?連絡手段を持ってるからコクウがその気になれば頼めるんじゃん」

「…そう」


あたしは顔を上げて、天井の向こうのコクウを視る。起きたら訊いてみようか。


「ハッカーの枠が空いているんだ、お前が埋めるかIを入れるかどうにかしろ」


カロライが言った。


「知らないわ、バリューの運が悪かっただけでしょ。軽いハッキングとクラッキングしかできないから、そこだけカバーするけど。……I・CHIPは無理でしょ」


動揺を隠してあたしはしれっと返す。カロライが睨んでくるが無視をする。

白瑠さん側についている藍さんが黒の集団に入ることはないだろう。


「噂じゃあI・CHIPは黒猫に興味があるらしいよ?」

「色仕掛けなら勧誘出来るんじゃない?」


ナヤとディフォが口を開く。


「Iは黒の集団に絶対入らないわ」


断言する。

もしも、彼が黒の集団に入るようなことが起きれば、カオスだ。

…気になるなぁ。

あたしは皿を台所に置いてからスタスタと階段をコクウの部屋に向かう。

厚いカーテンを開けば、コクウと一緒に寝ていた黒猫が飛び起きた。


「うっ………開けないでってば……」

「I・CHIPとは連絡とってる?」


陽射しから逃げて毛布に潜り込むコクウにベッドに飛び込みながら問う。


「…ん……バリューが死んだって伝えてから音沙汰なしだけど…」

「………そう」


音沙汰がない。それはそれで心配だ。

無事に日本に帰ったかさえわからないじゃない。

元々、裏現実でも海底で泳ぐように顔を出さないハッカー。殺し屋と依頼人の仲介人もこなすI。

目立つ噂も届かない彼は、生存を確認できない。

こうなると幸樹さんも生存しているのかどうかも心配してしまう。

白瑠さんが誰かに殺されるなんて有り得ないが、幸樹さんと藍さんはわからない。

心配になってきた。

もやもやした気持ちを抱えつつ、ベッドに横たわる。

すっきりできない、気持ち悪い。


「どうしたの?椿」


コクウが起き上がり、あたしの顔を見下ろす。

─────心配なんて。

あたしがする資格なんてないのに。

漠然としたものが不安も呑み込む。


「……寒い…」


あたしは呟く。

コクウは笑う。あたしが毛布の上に横たわっていることに、笑った。

あたしの背後に手を置いたかと思えば、毛布をあたしの下から引き抜いて、毛布をあたしにかける。

コクウも毛布の中に潜り込んであたしに腕を回した。


「これであったかかくなるだろ」


毛布の中、目を閉じながら微笑んで言うコクウを、あたしは見つめる。


「……まだ寒いわ…」


そう呟いた。

コクウはあたしの身体を引き寄せて抱き締める。


「寒がりなら暖かい国にいけばいいのに。…あれ?フレンチトーストでも食べた?コーヒーの匂い。お腹空いたなぁ」

「今下で皆が食べてるわ」

「ほんとぉだ」


耳でもすましたのか、確認したコクウだったがベッドから出ようとはしない。

あたしを抱き締めたまま動かなかった。

あたしもコクウを振りほどこうとはしない。


「クス……椿が戻ってこないから俺と何かしてるって皆が話してる」


下の階の会話を盗み聞きしてコクウは小さく吹き出す。


「椿がここに寝泊まりしてから皆噂してるんだ、俺と椿がデキてるって」


目を閉じたまま微笑む吸血鬼は、有名な絵画の中の美しい青年みたいに綺麗だ。

美しい吸血鬼に見とれつつも、黒の集団内の噂に顔をしかめる。


「激論してるよ…ああ、ディフォが黙らせてこっちに耳を立てた」

「なにもしてないわよ、ディフォ」


あたしはディフォに聴こえるように声を出す。

コクウはクスクスと可笑しそうに笑った。ディフォが何か言ったのだろうか。

「おやすみ、椿」とコクウはあたしの鼻にキスをして抱き締める。

また眠るらしい。

あたしは振り払わずただそこにいた。

ちょうどいい暖かさに包まれて、いつしかうとうとと眠りに落ちた。





囁き声にあたしは浅い眠りから目を覚ます。


「腕の中で無防備に眠ってるのになにもしないとか、男じゃない」

「そぉゆぅの、趣味じゃないんだ」

「アンタって古風で奥手ね」

「ディフォが見境なさすぎるだけだろ」

「気がある男だけさ」

「狙った男だろ」

「狙った女が腕の中にいるのになにもしないのはタマなしだ」

「だからぁ、そうゆうのは違うって。強姦じゃん」

「相手が感じれば強姦にならない」

「ロマンチックじゃないよ、それ」

「…アンタってロマンチストだったかしら?とにかく時にはワイルドになるのも手よ、褒めるだけじゃない、寧ろ今ワイルドになるべきだ」

「んー……やだ」


コクウとディフォの囁き声。それはあまりにも小さく、スピーディーで聞き取りづらい会話だった。

目を開いて確認する。

コクウは目の前にいた。抱き締められたままだから当然近い。


「あ、おはよう。椿」


あたしに微笑みを向けるコクウ。瞬きをして瞼を開き、ディフォを探した。

ディフォはベッドの脇に腕を組んで立っていた。


「なにこそこそ喋ってんの?」

「椿を起こさないようにしてたんだよ」

「黒猫、異性と添い寝したのに手を出さない男ってどう思う?」

「…?紳士的でいいんじゃないの?」


起き上がればディフォに唐突に質問されて首を傾げつつ答える。

そうすれば不快そうに顔をしかめたディフォが、あたしの腕を掴んでベッドから引きずり出した。

吸血鬼の力に腕に痛みが走る。


「痛い!」

「こっちこい」


そのままディフォはあたしを下の階に連れていく。

下の階には、アイスピックしかいなかった。


「紅茶はいるかい?お嬢さん」


二日酔いが治ったのか、紅茶を淹れようとしていたアイスピックが声をかける。

「二つ」とディフォは勝手に注文して、あたしをソファに放り投げた。


「いってぇ……なんだよ、ディフォ」

「好きな男は?いるの?」

「…は?」


あたしの隣に腰をかけてディフォは妙な質問をしてくる。


「初キスはいつ?初エッチは?相手はどんな男?」

「待て。オネェキャラでもない貴方とガールズトークするつもりはないわ」

「しょうがないわね、この口調ならいいんでしょ。ほら、あたしに話なさい」


質問攻めをするディフォにストップをかけるが、真顔でオネェ口調になる彼がツボに入り吹き出しそうになる。表情を変えないからなおウケた。

心を開いてしまい、ゲイとガールズトーク開始。


「今のところ恋愛する気ないのよね、そんな気分じゃない。だから好きなタイプと問われても思い付かないわ」

「性欲の方はどうなのよ」

「全然問題ないわ。したいとも思わないし」

「それって不健康よ。不感症?女としてどうよ、人間も吸血鬼も性欲ないと終わりよ。絶命よ」

「そこまで言う…?確かに不健康なのかもね」

「そうよ、結婚まで童貞処女を守る輩は無駄な我慢してるだけじゃない。我慢は身体によくないわ。生きてる間四六時中やってるべきなのよ」

「貴方は性欲の塊か。直球のスケベじゃない。変な性癖がないだけましか…。吸血鬼だから性欲が強いだけ?」

「さぁ……どうかしら……人間と同じくらいじゃない?なにそれ、吸血鬼にどんなイメージを持ってるの?吸血鬼の映画好きでしょ」

「わかる?映画好きよ、吸血鬼の。ラトアさんも好きで、ラトアさんと二人で映画デートしたことあるわ」

「あら、妬けること言うわね。何気好きな吸血鬼がいるのよね、吸血鬼の映画。ほとんどは自虐にみてるんだけど。コクウも好きなのよ、吸血鬼の映画。…あたしも好きね、吸血鬼映画。エロティックあるから」

「ドエロ吸血鬼か、貴方は」

「ラトアね……会いたくなったわ」

「ラトアさんが好きなの?」

「いい男でしょ」

「そうね、ラトアさんはいい男だわ。理想の吸血鬼でもある、紳士的だしね」

「何より美味しそう」

「…貴方の思考はそこにしか行き着かないの?」

「性欲は恥じゃない!!」


相手がドエロな為、会話は純情ではなかったりする。しかし同性じゃないと話さない会話だ。

寛いでソファの上で話す。

なんだかんだであたしは楽しんでる。


「恥……とは言わないけど、控えなさいよ。抑えなさいよ」

「アンタこそ適度に解放なさいよ。極端じゃない、ほどよくエロくなりなさい」

「いや、エロくなれって言うかフツー?」

「話によればアンタ、コケティシュな振る舞いをするんでしょ?」

「なにそれ?」

「自覚がないところが可愛いのさ。私はこのままのお嬢さんが一番だと思うね」

「アンタは御呼びじゃない。デザート用意して」

「チョコのシュークリームがいいわ」

「はい、かしこまりました。お嬢様方」


会話をずっと聞いていたアイスピックにデザートを頼む。要望通りシルクハットを被って買いに行った。


「男と寝たことはあるんでしょ?」

「酔った勢いだけど」

「それを思い出して欲情しないわけ?相手が下手すぎた?」

「……そうじゃないけど…。するならやっぱり愛し合う相手じゃないと」

「罪の意識を感じる?そんなの気のせいよ。快楽を得ちゃダメ?そんなことない、セックスは犯罪じゃないでしょうが。殺しに罪を感じる?」

「…さぁ、よくわからない」

「罪の意識を感じたら殺し屋なんてやってられないでしょ」

「そうね」

「相手はポセイドン?」

「違うわ、彼は親友だってば」

「男と女の間に友情は成り立たない」

「男と男はどうなのよ…。互いにそう思ってるならいいでしょ」

「本当に互いに親友だって思ってるわけ?」


ペラペラと話して問われたことに少し沈黙をした。親友だと思うけど、思ってくれているだろうけど、違う想いも秀介は抱いている。

それがなければ、心地いい親友同士なんだけどね。

「思ってるわ」とだけ答える。


「あっちは気があるんでしょ」

「そうね。フッてるけど」

「一度も寝てないの?」

「寝てないわね、じゃなきゃ親友じゃないでしょ。親友の域を越えてる」

「セックスフレンド」

「……いい加減にしてくれる?」


ディフォはアイスピックの淹れた紅茶を啜りながら話題を戻す。


「相手は誰?」

「話したくないわ」

「気持ちよかった?イッた?」

「そこまで洗いざらい話さなきゃならないの?」


流石に白瑠さんとの過ちを話せない。

そもそもなんでこんな話をしたんだっけ?


「異性との添い寝は抵抗ないみたいね」

「手出しされなきゃ、まぁ抵抗ないわね。…なれちゃったのよ。元仲間とよく気付いたら添い寝してたから」


抵抗ないというか。添い寝というか、勝手にベッドに潜り込まれたことがただあっただけ。


「暫くこのオフィスに寝泊まりするんでしょ?黒が紳士になったみたいだからベッドで寝たら?添い寝して」

「ソファよりベッドよね。添い寝は嫌よ」

「コクウが嫌い?」

「嫌いとかの問題じゃないでしょ」

「そうじゃなくって、恋愛対象としてよ」


コクウが恋愛対象としてどうなのか。

そんなことを問われてあたしは顔をしかめる。囁き声の二人の会話を思い出して少し考えた。


「除外だわ」


はっきりと言う。


「吸血鬼だから?」

「吸血鬼なら恋愛対象に入るわ。あたし、吸血鬼好きだもの。特に美形はね」

「コクウがタイプじゃないとか?」

「そうね……時折腹立たしいけどいい男だと評価するわ。そんなんじゃなくて、彼が黒の殺戮者だからだめなのよ」


正直に、聞き耳を立てているかもしれないコクウにも聴こえるように、はっきりと告げた。


「白の殺戮者と対立している存在だからこそ、恋愛対象外」


微笑んで言う。


「白の殺戮者がいなかったらコクウに恋をしていたかもしれない。ほら、コクウはいい男だし?吸血鬼だし?ストライクゾーンには入っているけど」


あたしの中の白瑠さんが、あまりにも大きすぎる。

別に彼が好きだとかそうじゃないけれど、あたしにとって白瑠さんは誰よりも特別なんだ。

影響力が強い。それだけじゃない。

他人だとは思えない人。

何処か似通ったところがある人。


「じゃあ白が死んだら?」

「今更彼が死のうとも…変わらないわ。会う順番が違ってたら変わってたかもしれないけど、悪魔に頼んだって彼の存在を抹消することは出来ないでしょ?」

「……」

「それに…………白の殺戮者と会わなかったらコクウにも会わなかったと思う。白の殺戮者がいなければあたしは、裏現実にいない」


あたしを裏現実に(いざな)った人。

首のチョーカーに手を触れて、あの出逢いを思い出す。血塗れの電車の中で、笑い声を響かせた白。

まるでアリスを迷わせるチェシャ猫のような笑みを浮かべたあの人。

生きたいかどうかを、問われたのは初めてだったっけ?

あたしを誘った人。それだけでも大きな存在。


「彼を怒らせるような真似はしたくない。……まぁ、黒の集団に入った時点で裏切り行為なんだけど……せめて彼らの耳には届かないでほしいわね」


そこでアイスピックがシュークリームを持って戻ってきた。


「ありがとうございます」

「……!?」

「…なんですか?」


シュークリームを受けとり、二つに分けて食べようとしたらアイスピックがギョッとして首を傾げる。


「……敬語……使ったさ…」

「…………それがなにか?」

「違和感だらけさ!」


ついついだしてしまった敬語にアイスピックは気持ち悪そうに身を引いた。寧ろビクビクしている。

数ヶ月敬語で話していたから、あたしは違和感ないのだけれど。

彼らとは始めからタメ口だったからな。


「アイスピック。紅茶おかわり」

「…お嬢さん…私の名前を覚えているかい?」

「…………シェームズ?」

「惜しい!」

「ボンド」

「ジェームスさ!」


いいじゃん、アイスピックで。


「出逢って三ヶ月経つ、同じ集団に属しているのだし、ここは名前で呼びあおう」

「三ヶ月前に会ったっけ?」

「え?覚えてない?ガトリングの罠から一緒に生還したじゃないか」

「ああ、あの時?」


三ヶ月前。十二月だった。

ガトリングの罠にハマって殺し屋達が死にかけたあの日。

ヴァッサーゴがいたからあたしは生存したが、アイスピック達は負傷。あたしが救急車を呼んで、それで一命をとりとめたらしい。

一緒に生還したというより、あたしが救ったようなもの。

黒の集団の一員であるレネメンがその中にいたことで、アイスピックは黒の集団に入ることになったらしい。


「あれは運命の出逢いだったさ。肩を撃たれたとき、真っ先に駆け寄ったお嬢さんは私の目には天使に見えた」

「駆け寄ってない。たまたまそこにいただけ」

「私を介抱した手には優しさが」

「あの時は喋られちゃ困るから口を押さえただけ。手当てしたのは十字侍だし」

「私達を助けるべく急いで救急車を呼んでくれた!」

「急いではいなかった」


淡々とアイスピックの証言を訂正させる。

レネメンから伝言があると聞いていたし、息があったから救急車を呼んだまで。


「なんせよ、私やレネメン達は君に救われたさ。君に命を与えられたと言っても過言ではない」

「大袈裟、つうかウザいわ」

「レネメンはアンタの物?」

「え?貰っていいなら貰うけど」

「え?レネメンだけかい?私は?私は?お嬢さん!」

「レネメンに気があるの?」

「気があるっていうか……気が許せる相手っていうか。いい印象持ってるだけ」


アイスピックを茅の外にしてまたガールズトークを始める。

今度は黒の集団の男達について。

遊太とレネメンが好評。個人的にディフォは蠍爆弾が好みらしい。|(身体が)

火都は会話が続かないのでディフォは不評。カロライについては恋愛対象として見てないそうだ。

アイスピックはありらしい。

アイスピックはディフォから距離を取った。


「極端な娘ね」


ディフォに何度もそう言われた。


「とりあえず、面食いだってことはわかったわ」

「貴方がエロ吸血鬼だってことはよくわかったわ」


ソファの上で話し込んで三時間。

もう太陽が沈んだ時間帯に、訪問者がきた。

ナヤの後に続いてオフィスに入った男は、見覚えがある。

彼はあたしの姿を確認するなり目を丸めた。


「紅色の黒猫じゃねーか!」

「あら、狼人間さん」


まるで久しく会う友人を見つけたかのように嬉しそうに狼人間──ウルフマンはあたしを呼んだ。

初めて会ったときと随分と違う。

まぁ、あたしは命の恩人なのだから、小娘扱いはしないだろう。


「生還おめでとう」

「お前のおかげでな」


ははっ!と豪快に笑うウルフマン。

あたしは頬杖をついて考えた。


「どうして狼人間さんがオフィスに?」

「黒の集団への協力だ」

「協力?」

「本当は黒の集団に勧誘されたんだが、オレぁ一匹狼がいいんでな。断ったがオレが昔殺した野郎について知りたいって言うんで」


ああ、そうゆうこと。

ということは番犬関連か?

あたしはナヤに視線を送って説明を求めた。


「ウルフマンが殺したウルフだよ。番犬から唯一逃げおおせたウルフだ。前に話したよな?番犬から逃げおおせたことを誰かに自慢したはずだから、その話を回収しろって黒からの命令。番犬の容姿を少しでも集めないと」


ナヤはペロッと答えた。

ふぅん。ウルフは死んだけど周りに話してたって可能性はあるわね。


「ウルフには仲間がいたらしいから、ウルフマンと彼の棲みかを探ってたんだ。でもお手上げ。掃除屋に綺麗に一掃されて収穫ない、って黒に云いにきたけど……まだ起きてないってことは今日は機嫌が悪いの?」


疲れたらしくナヤはアイスピックの隣に倒れるようにソファに座り、コクウの部屋に繋がるドアに目を向ける。

陽が落ちれば顔を出す吸血鬼。

コクウの場合、この時間帯に顔を出さなければその夜は出てこないと判断される。

時折部屋にこもると、誰とも話さなくなるのだ。


「その内来るんじゃない?さっきまでは普通だったわ」


さっきと言っても四時間くらい前だけれど。


「ねぇ、ナヤ。仕事タダで紹介して」

「……うぉーい黒猫。ボクが誰だか知っててそう言ってるの?」

「かの有名なチクリ屋さんでしょ」

「そんな大胆さが大好き!いいよ、タダで紹介してあげる。殺しだろ?一人?複数?高額?」

「手短ので構わないわ。殺しができて収入が入れば」

「じゃあ俺と一緒に複数の仕事をしよっか」


ナヤに仕事紹介を頼んだら、あっさりと引き受けてくれた。疲れが吹っ飛んだように身を乗り出す。

そこであたしの背後から声がして振り返れば、コクウが立っていた。

いつの間に…。


「お腹、空いたんだ」


あたしを見下ろしてコクウは微笑む。

今日は不機嫌ではないようだ。

お腹空いた、ではなく喉が渇いたの間違いだろ。


「じゃあ今すぐ出来る仕事にするかい?」


唐突の出現に動揺を見せたがナヤは笑って、あたしではなくコクウに訊いた。


「ちょっと。貴方とやるなんて嫌よ」

「どうして?紅色の黒猫の名前は伏せて俺の名前を出した方が君には都合がいいだろう」

「………」


確かに、先程デマを流したばかりだ。またアメリカで仕事をすれば居づらくなる。

黒の集団の近くにいると知ったら、白瑠さんが動く可能性があるし、紅色の黒猫の名を出さないで仕事をした方が安全なのかもしれない。

白瑠さん達が名付けた名前を、コクウの名前で隠すのは些か納得できないが。

しょうがない。

一緒に仕事をしよう。

殺戮衝動が沸いているのでさっさと人を殺そう。


「ディフォは?食事するなら一緒にすれば?」

「アンタ達が帰ってくる前に済ませたからパス」

「そう。じゃあ着替えるから、話を済ませたら」

「うん」


ついでにディフォも誘ったが断られた。

あたしが退いたソファに座り、コクウはウルフマンとナヤの報告を聞く。

コクウの部屋に行き、数少ない荷物から服を出して着替える。


「ラトアとも仕事したことあるの?」


いつの間にかベッドにディフォが腰掛けていた。上半身裸になった状態でナイフを構えようか迷ったが、相手は女に興味がないので同性扱いにしようと背中だけ向ける。


「あるわ。仕事じゃなくて吸血鬼の食事に付き合ったの」


ラトアさんとハウン君を思い浮かべて背中のディフォに答えておく。


「コクウの食事は初めてでしょ」

「……食事になったことがカウントされなければね」


吸血鬼に血を吸われたのは、初めてだ。ていうかコクウだけだ。あたしに噛みついた吸血鬼は。

ハウン君は未遂だったけど。


「驚いて死なないようにね」

「驚く?」

「慣れてないと唖然とするから」

「………そう」


イマイチわからないが頷いておく。

吸血鬼が人間の首に噛み付いて血を啜る光景を見慣れていれば唖然とはならないと思うんだけど。


「返り血を浴びるアンタなら、平気かもね」


それを聞いて思い出す。

頭蓋破壊屋──白の殺戮者は脳ミソをぶちまける。

黒の殺戮者は身体中の血をぶちまける。

奇行な殺害をする二人の殺戮者。

コクウの殺戮はそう言えば、初めてみることになる。

白瑠さんの頭蓋骨破壊並みに不可解で強烈な殺害をするのだろう。

ちょっと不安になる。

デニムを脱いだら、ノックなしにアイスピックがドアを開いた。

一拍遅れてナイフを投げたがドアを閉めてアイスピックは逃げ出す。


「私はラッキーだぁー」


そんな弾んだ声に顔がひきつる。

あのシルクハットの隠れエロジジめ。


「コクウの食事は異常だから」

「それは吸血鬼からみても異常ってこと?」

「そうだ」

「ふぅん」

「人間から見たら吸血鬼の食事は異常だろ?」

「まぁ、否定したら嘘になるわ。でも」


赤いコートに腕を通してあたしは自嘲の笑みを加えて答えた。


「あたしも食事してるようなものよ」





 白い部屋が、黒に染まっていく。


「椿。着いたよ」


 肩を揺らされて起こされた。

地下鉄で移動していて仕事場に向かって、今到着したようだ。

寝惚けたままコクウに続いて電車から降りた。


「ふぁあ…」

「クス、可愛い」

「…うざい」


電車が風を生み出し去っていくホームに立ち尽くして欠伸を漏らせば、眠気が覚めていないあたしを隣に立つコクウが笑う。


「椿、なんか夢でも見てた?」

「…寝言でも口にしたの?」

「いや。でも…魘されてたみたいだった」


コクウに言われて数十秒前に自分が何の夢を見ていたかを思い出す。

よく見る夢。

眩いくらい真っ白の部屋が、足元から黒に染まるそんな夢。

幾度も幾度も見る。

最初に見たのはいつだったっけ?

記憶を漁り、思い出してみる。

公衆電話で泣きじゃくったあの日を思い出した。あの野郎にボコられた日。そう言えば篠塚さんが撃たれた日でもあるのか。どちらにせよ、いい夢ではないんだろう。

最初は、その夢に篠塚さんがいた。

初めての殺戮から病院で目を覚ました時みたいに、篠塚さんがベッドのそばにいた。あたしの首には包帯まで巻かれていて、夢の中で動揺してしまったっけ。

この一ヶ月、ずっと見てきた夢。

慣れてしまったのか、特に気にもせずつけっぱなしのテレビを観るかのように、見続けてきた。


「魘されてるように見えたの?」

「いつもは穏やかに眠ってるから、少し強張った表情に見えたよ」

「……いつも?」

「いつもだよ?」

「…いつも?」

「いつも」

「いつも?」

「君の寝顔」


妙な言葉に首を傾げてオウムのようなやり取りをしていれば、コクウは胸元から一枚の写真を取り出した。

真冬だというのに外出時にも黒いシルクのワイシャツと黒い革パンのコクウ。

彼の手には、あたしの寝顔が写る写真。

以前に撮られたものだと理解してその写真を奪い取ろうとしたが、コクウはさっと軽々避けた。


「なっ…!返しなさい!」

「変なことを言うね、椿。これは俺のだけど」

「盗撮だ!」

「撮られてることに気付かないくらいふかぁい眠りに落ちたこの寝顔。天使みたいだ。最も、天使なんてみたことないけれど」

「ストーカーか!処分しなさい!」


なんとか奪い取ろう手を伸ばすが、悲しき身長さによりコクウは余裕であたしを弄ぶ。


「そう言えば、椿はこれを何かと間違えて目の色変えて奪い取ったよね。何の写真だと思ったの?」

「っ……」


手を伸ばした状態で停まる。

それは胸の裏ポケットの写真。

"家族のような写真"。

死にかけてから、あたしは見ていない。

死の直前で呼んだあの人達の顔を見るのが、なんだか。

なんだか。なんだか。なんだか。

どうにかなってしまいそうで怖いんだ。

─────ぱす。

そんな軽い音を立てて、あたしはコクウに抱き着く。

なすすべなく、ただすがり付いただけなのだが。


「……」


コクウはこの行為をあたしの作戦と受け取ったらしく、寝顔写真を持つ手を上げたまま。

あたしを振り払うこともせず、立ち尽くす。


「……椿…。こうゆうのって、意図的にしてるの?無意識にしてるの?」

「………?」


何のことだろうとあたしは彼を見上げてみる。


「…………」


コクウは少しの間沈黙をした。

彼がそうゆう沈黙をするのは大抵、妙な考えをしている時だ。

やがてコクウはにんまりと笑みを浮かべた。


「いいよ?別に抱き付いても。いつでも受け止める。ほら、俺と椿は親友同士だし。でも、他の男は駄目だぜ。押し倒されちまう」

「……」


わけわからん。

あたしはコクウの胸を両手で押し飛ばした。コクウは押された方に二三歩下がり、ホームから出る。

もう少しで線路に落ちるところだったが、あたしが腕を掴んで引き戻す。

コクウがきょとんとしてる隙に、写真を奪い取り階段を上がる。

しかし一瞬で写真はあたしの手から消えた。


「まじで線路に突き落とすわよ」

「別にいいけど?」

「この変態!ストーカー!変質者!」

「それは傷付くなぁ…」


駅で叫べば響く響く。

本当に傷付いたらしく、何やらまた考えるように黙り込んだコクウは再び笑みを向けた。


「返してほしい?」

「……条件突きつけるきでしょ」

「あったりぃ」


楽しそうに笑うコクウは唇で写真を持って、その条件を言う。


「椿が毎晩添い寝するなら返す。そうすれば毎晩、君の寝顔が見れるだろ?」


魅惑的な微笑。

普段だったら美形の吸血鬼のゲームみたいな甘い台詞に悶絶するところだが、生憎今はそんな場合ではない。


「…まぁ…別にいいけど」

「ほんと?」

「添い寝だけでしょ。なにもしないなら」


ソファよりはベッドだ。

コクウがなにもしないなら添い寝くらい。寝顔を見られるのは少々腹立たしいが、写真を持ち歩かれるよりはましだ。

…ん?あたしが妥協しなきゃいけないのは何故だ?

コクウは満足したのかあたしの出した手に写真を置いた。あたしはそれを丸めて、駅のゴミ箱へと放り込む。


「そのペンダント、綺麗だね」

「!」


コクウに言われ、気付く。暴れている間に服からペンダントが出てしまったようだ。

椿の花をモチーフにしたダイヤのペンダント。


「椿の花だね」


服の中に戻せば、コクウは口を開いて喋る。


「好きなんだ?」

「…プレゼントよ」

「好きなんだろ?」

「……好きな花の一つよ」


話すのがめんどくさいがしつこいので答えておく。

コクウは意味深に頷いて隣を歩いた。


「男からのプレゼント?」

「……仕事に集中しなさい、コクウ」


続いて腹立たしくなり、あたしは睨み付ける。


「集中してるよ?椿こそ」

「アンタうっとおしい」

「……」


本当に嫌がっていることが伝わったらしなく、コクウは黙り込んだ。

黙り込まれると何かを企んでいるのではないかと思うし、何かを喋っていても鬱陶しいと思う。

仕事には不向きな相棒。

やっぱりコクウと仕事をするんじゃなかった。

 スラム街のような風貌の街に聳えるビル。

夜空に包まれたそのビルの灯りは、最上階よりやや下の階だけ着いている。

そこに仕事の標的がいるそうだ。

相手は複数。武器は最低限持っているとナヤの些細な情報から得ている。


「あ、もっしもぉし」


いざ中へ入ろうとすれば、コクウが携帯電話を開いて誰かと話していた。


「黒の殺戮者だけど」


常日頃、二つ名を名乗るコクウ。

二つ名で名乗ることにあたしも慣れてきたが、コクウは二つ名でしか名乗らない。よって"コクウ"という名は全くと言えるほど知られてない。

別にそんなこと気にするものではないのだが、仲間である黒の集団までもが彼を"黒"と呼ぶ様子を見ると違和感を持つ。

何故本名で呼ばせないのか、そう訊こうと思ったが、コクウが電話越しの相手に言った言葉に衝撃を受けて忘れた。


「今から殺しにいくぜ」


ピ。と殺人予告電話を切るコクウ。


「……なにしてんの?」

「さぁ、仕事しようぜ。椿」

「ちょ!アンタ!!今ターゲットにチクったでしょ!?」

「そうだよぉ。だからなに?」

「っ…!」


いろんなものが込み上げた。

頬がひきつる。コクウを先に始末したかったが、武装して警戒するターゲットを思い浮かべると一人ではしんどいと思う。

ここは堪えて、ターゲットを殺してからコクウをぶっ殺そう。

嗚呼、やっぱりコクウと仕事をするんじゃなかった。

 エレベーターの中でナイフの配置を微調整しながら、コクウからそっぽを向く。

コクウは気にしていないのか、手摺に腰をかけて鼻唄でメロディを奏でる。

不機嫌なあたしとご機嫌なコクウ。


「この曲知ってる?日本人の曲なんだ」


エレベーターが建物の半分に届いた頃、コクウが心地悪い沈黙を破った。


「知らない」

「まぁ、マイナーだから当然だけど。遊太から教えてもらったんだ、日本に行った時にネットでちょっと流行ってた曲。いい歌だよ、オススメ」

「あっそ」

「ネットに動画を配信してるだけで顔を出さない正体不明の娘なんだって。日本に戻ったら一緒に探してみない?」


さりげない口調だったが、その内容があたしの怒りを煽るものだった。横目で睨み上げる。

コクウはにっこりと上機嫌そうに笑っていた。

今日のコクウは挑発的だ。

その理由は多分、ディフォとの会話。

それについてあたしが悪いわけではないので謝るつもりも、屈するつもりもない。

挑発的に乗ったら負けだ。


「……」

「シンガーソングライターみたいだよ?噂じゃあ埼玉にいるらしい。椿は関東出身だっけ?でもレネメンに電話したのは確か京都だったよな」


沈黙すれば、コクウはペラペラ喋った。こちらが黙れば一方的に喋る奴なんだ。

ヴァッサーゴと同じ。


「無駄足だったなぁ。(はく)達と衝突したときは東京だったから、住みかは東京かな?んー、思い出すね。火都の獲物を横取りしたらいきなり来て、いつも通り取り合いになってたら…"紅色の黒猫は俺のものだ"って自慢したんだよね。くひゃひゃ、ちょっとびっくりだったけどおかげで探す手間が省けたと思ったら…後日待ち伏せして襲撃してきたんだ。いつも通り喧嘩してたけど痺れ切らした(はく)の相棒が話し合いをしようって言い出して、"椿が俺の仲間になることはない。だから無駄なことをするな"って、そんなことを言われたんだけど…どぉしても椿に会ってみたかったんだよねぇ。隠されると尚更、会いたくなっちゃって」


奇しくもそれは初めて吸血鬼の食事に付き合っていた日だ。

あたしに黙って白瑠さん達がコクウと衝突してた日。

あたしを諦めさせようとした行為が逆効果を生み出していたようだ。

あたしを守ろうと奮闘していた白瑠さんと幸樹さんを思い浮かべる。嗚呼、藍さんも隠れていたのかな。


「白瑠があれほど怒ったのは初めてだったから─────どんな娘かなぁ…って、興味がそそられた」


前半、まるで独り言のように呟かれたから思わず顔を向けたが、コクウは前を見据えて笑っていた。

エレベーターのドアが開き、会話は中断される。

あたしの怒りを煽ろうと、白瑠さん達の話を出しただけだから続きはもうないだろう。

片手に投擲ナイフを構えて、騒がしい会話が聴こえる扉の前に立つ。




「…………」


 どうしてこうなったんだろう。

答えは簡単、黒の殺戮者と仕事をしたからだ。

あたしは返り血を浴びたまま立ち尽くす。

部屋は返り血で染め上げられている。

それはあたしの殺戮現場と大して変わらないだろうが、部屋を血塗れにした血はほとんど標的のものではない。

そんな可笑しな点についてあたしは思考する。

真っ赤な黒づくめの吸血鬼が、標的の血液をがぶ飲みしているのを見つめながら。

あたしの足元に転がった死体は首筋からドクドクと血を流す。今回あたしが殺したのはこの三体。

その内二体はもうすでにコクウに血を持っていかれていた。

 ターゲットのいる扉の前で構えれば、コクウは自分が最初に入ると言い出して扉を開き、ライフル銃で撃たれた。そのコクウの血を後ろにいたあたしが被ることになった。

あたしが被った血は、コクウのものだ。

吸血鬼を返り討ちにしようとターゲット達は銃を乱射した。しかし、惜しくも首が胴体から離れる前にコクウの身体は元通りになり、ターゲット達は自分達の甘さに悲鳴をあげることとなる。

コクウは哄笑して、一人目を喰らった。

その間にあたしは一人目を切り裂いた。

弾丸の雨を避けてまた切りつけようとしたが、散弾銃が向けられ、回避しなくてはならない状況になってしまう。

簡単に回避ができたはずだった。

しかし、視界を遮るように現れたコクウの背中に、気をとられてしまい。

本日二度目のコクウの血を浴びるはめとなった。

吸血鬼の血を浴びて、あたしは銃口を向けられているにも関わらずそこでフリーズ。

穴だらけの背中は直ぐに塞がり、コクウの哄笑が再び響いた。

楽しそうな哄笑がターゲット達を駆り立て、引き金を引かせる。

連続に鳴り響く銃声。

あたしは数日前に心臓を撃たれたことを思い出していた。悠長に突っ立っても、弾丸は当たらない。

何故ならコクウが全て自分の身体で受け止めていたからだ。

体内の弾丸を吐き出してからあたしの切り裂いた男の血を飲み干して、また哄笑してターゲット達の放つ弾丸を受け止めるコクウ。

コクウの血は、飛び散り続けた。

血を補充しながらコクウは、血を撒き散らしていく。

一人が大振りナイフでコクウの首を跳ねようとしたが、頸動脈を傷付けるだけでコクウに掴まり餌食になる。その出血は辺りに吹き零れた。

コクウは攻撃をわざと食らいながら、捕食する獲物をじわじわと追い詰めていった。

様々な恐怖に耐えられなくなり、この部屋から逃げ出そうとした二人をあたしはパグ・ナウでサクッと殺す。

連絡をもらって駆けつけたであろう標的の味方も、コクウは哄笑し遊びながら血を奪い取り殺していった。

そしてただいま最後の一人を食事中。

 以前、蓮真君から黒の殺戮者の殺し方を聞いていた。

 白の殺戮者は脳味噌をぶちまけるなら、黒の殺戮者は身体中の血液をぶちまける。

その時は、この直前まで。

あたしはターゲットの身体中の血液をぶちまけると思い込んでいた。あながち間違ってはいないだろう。殆どがターゲットの血を補給してぶちまけたコクウの血なのだから。

銃で吸血鬼を倒そうと甘い考えたをしていた今回のターゲットと同じ、あたしは甘かった。

あの白瑠さんと対になって呼ばれる存在が、たかが標的の身体中の血をばらまくだけで"殺戮者"と呼ばれるわけがない。

片手で、人間の頭蓋骨を木っ端微塵に吹き飛ばす、挙げ句には笑いながら人間解体をするあの白瑠さんと。

人間の身体中の血をただばらまく吸血鬼は、対になんてならない。

自分の身体に、穴があけさせながら、哄笑して殺す吸血鬼。自分の血で血塗れにする異常者は、彼しかいないだろう。

 裏現実の中でトップを争う至極の異常者。

 白の殺戮者と黒の殺戮者。

 対になる二つ名。

 反対のようで似ている存在。

顔にべったりついた血を拭いながら、あたしは言葉を探した。そして見付けた言葉をそのまま吐き出す。声を出すのが酷く久しく感じた。


「コクウ。命令聞いて」

「ん、なぁに?」


食事を終えて、口元を拭うコクウが振り返る。


「今後、あたしの許可なしに自分の身体を傷付けるな。命令よ。破ったらあたしは黒の集団から抜けるわ」


コクウの顔から一瞬だけ笑みが消えたが、にっこりと再び笑みは貼り付けられた。


「どうして?俺の心配をしてるのかな」

「今日の貴方、不機嫌ね」


間を入れず言えば、コクウは笑みのまま一瞬だけ固まる。


「椿、勘違いしてる。これは自己犠牲の自傷行為でもなんでもない。吸血鬼は血さえ貰えれば傷は治る。これは俺の好きな殺し方。どう足掻いても怪物に勝てなくて青ざめ恐怖にガタガタ震える人間を殺すのが大好きなんだ。それを奪うっていうのはちょっとズルくない?どぉしてもそんな命令をするなら、聞くしかないけど。言っておくけど俺は椿みたいに自虐じゃない」


薄い笑みを浮かべたままコクウは訊いてもいないことをペラペラと話した。弁解する言い訳のようだ。


「変なことを言うわね、コクウ」


あたしの声は血塗れの暗い部屋に凛と響いた。


「あたしは、あたし以外の奴に身体を傷付けるなって命令してるだけよ。カロライの武器の試し切りもこれからはあたしが引き受けたいし、これからはあたしだけが傷付けてやるって言ってるの」


髪が血で固まるのを気にしながら淡々と云う。

コクウに目を向ければ、笑みを失っていた。


「不機嫌ならあたしが気が向いた時に刻み込んでやるからそのあとターゲットを食べなさいよ」

「…………」


コクウは黙ってあたしを見つめる。

やがて、悲しそうな笑みを浮かべた。

切なそうな眼差し、弱々しい笑み。

黒を纏う彼は闇に溶けて消えてしまいそうだった。


「君はどうして……俺の中に踏み込むんだ?」


呟かれた言葉にあたしはわからず、コクウを見つめた。


「どうして見透かしちゃうのかな。どうして中に入ってくるのかな。どうしてなんだい?」


見透かしてるつもりはない。中にズカズカ入ったつもりもない。


「どうして俺があの自己犠牲を引き摺ってるってわかったの?誰も知らないのに……吸血鬼だって気付いてないのに。どうして唐突に現れた君は手に取るようにわかるんだ?」


萎れた花のように顔を俯くコクウ。

儚い黒の殺戮者。

紡がれる台詞はあたしに向けられる。

仲間の為に何年も何年も、身体をいじられ調べられた吸血鬼。

傷に残らずともその痛みは記憶に刻まれているのだろう。

それが彼のトラウマ。


「……そう思っただけ」

「……ふふ…君は……流石、白瑠が惚れた女だ。はは…」


苦笑に近い悲しげな笑みを洩らしてコクウは顔を上げる。

そんな情けない顔であたしを見つめた。


「白瑠は面白い人間だ。愉快で愉快で、凄く面白い人間。そんなアイツが大嫌いな俺から隠す大事な娘。…まさかこんなにも魅力的だとは思わなかった」


今度は自嘲して笑う。


「白瑠達が守るのもわかる」


死体が倒れたがあたしもコクウも見ない。


「悔しいなぁ…俺の方が長生きしてるのに、白瑠が先に会うなんて。悔しい」


そっとコクウは瞼を閉じた。

コクウがエレベーターで話したのは、あたしを怒らせる為じゃなかったと気付く。

口を開きかけたが、直ぐに唇を閉じた。

それについては、触れたくない。

そのこと(、、、、)は、永遠に聞きたくもない。


「──────…椿は……意地悪だなぁ…」


長くも感じる沈黙の後、コクウは泣いてしまいそうな笑みをあたしに向けて独り言のように呟いた。

泣いたのかもしれない。コクウは顔を伏せてしまい、あたしは視えなくなった。

血溜まりをパシャパシャと踏みつけてコクウはあたしに背を向けて硝子張りの窓に向かう。


「今日は帰らない。部屋は好きに使っていい」


それだけを言い残し、硝子を突き破り、コクウは飛び降りていった。

ヒュウン、と風がそこから入り、血の香りをかき混ぜる。




「レネメン。車ある?迎えに来てほしいんだけど」


 戻ろうにも血塗れでは地下鉄に乗ることもできない。歩くと朝が来てしまう為、電話番号を知るレネメンに公衆電話からかけた。

丁度彼の表の仕事場から近かったのでレネメンは迎えに来てくれた。


「座席、汚しちゃうかも」

「………構わない、乗れ」


血塗れのあたしを車の中から見たレネメンは怪訝な顔をしたが乗ることを許す。

コートを脱いでレネメンの車に乗り込む。


「これ、コクウの返り血だから」

「え?あっ、ああ…」

「貴方もぶっかけられたことあるの?」

「服についたことは…あるけど」


レネメンもコクウの食事を目の当たりにしたらしいが、あたしみたいに全身に被るようなことはないらしい。むしゃくしゃしつつ血を拭う。


「ほら」


レネメンは掌を向けた。

クルリと引っくり返せばハンカチが出てきた。

マジックで出され、あたしは微笑む。レネメンも微笑み返す。

少し気が楽になった。


「ところで黒は?」

「…さぁ、どっかに行っちゃったわ」

「何を企んでるか、わからないな。アイツは」

「……そうね」


レネメンの言葉に頷き返す。

血液で固まりそうな髪を気にしながら、思い出す。

庇われ、コクウの血を浴びた時。

なんとも言えない不快さを感じた。

多分、目の前で庇われて死なれたら、そんな気分を味わうのだろう。

そんなことをぼんやり思って、あたしは車の揺れに身を委ねて瞼を閉じた。


「今日は表の仕事?」

「ああ」

「明日も?」

「明日もショーがある」

「観に行っても構わない?」

「是非来てくれ」







翌朝。本当にコクウは帰って来なかった。

リーダー不在の黒の集団は、各々の自分の本職をしていてオフィスは静まり返っている。

オフィスに泊まっていったレネメンとあたししかいない為、何処と無く気まずい空気。


「朝御飯、いる?」

「あ、ああ…頼む」


朝食を作ってる間もなんとも言えない沈黙が流れる。

レネメンはコクウが帰らないと聞いてから居心地悪そうにしていた。

出勤時間まで時間があるので、オフィスで時間を潰している最中。


「レネメンは着替えなくていいの?」

「衣装は別だから平気だ」


向き合いながら座って朝食。

流石に沈黙は嫌で話題を出す。


「ガトリングの件。病院に運ばれた時のことを教えてくれる?」

「ああ…。オレが目を覚ましたのは五日後だ。もう少しで手遅れだったらしいが、無事命をとりとめた。感謝してる。黒が見舞いに来たから、アンタに会ったことを伝えた。アンタも無事じゃないだろうからまだニューヨークにいるはずだって黒はカロライと探したって聞いたな」


白瑠さんが篠塚さんと話していた時にコクウ達が乱入したと聞いていた。

あたしは無事だったんだけど…。


「蠍爆弾も加わって、やっと頭蓋破壊屋を見付けてたが…白昼堂々レストランで撃たれたらしいな」

「撃ったみたいよ」

「アンタも車で逃亡しながら撃ったんだろ?」

「車のタイヤをね」


しれっと返せば、レネメンはくつくつ笑った。

オールバックが崩れたブラウンの髪は黒い眼帯を隠す。右目は優しく細められていた。

いい男には、違いないのだろう。そんなことを思った。


「それで?病室でコクウはアイスピック達をスカウトしたの?」

「ああ、アンタも入れる予定って言ったらあっさりジェームスが入った。ウルフマンと十字侍は断ったな、黒は執着しなかったから必要以上に勧誘はしなかったぞ」

「………。なんで黒の集団に入ったの?レネメンは」

「オレ?……面白そうだったから」


どうやら必要以上に勧誘されたのはあたしだけらしい。

色々訊きたくなったが、とりあえずレネメンが黒の集団に入った理由を訊いてみた。

コーヒーを啜ったレネメンはそうあっさりと軽く答える。

…遊太と同じ理由。


「カロライとは前々から仕事してる仲だったからな。信頼もできたし、黒の殺戮者が度々でかいことをやるって聞いてたし……何より、興味があった。番犬にな」

「興味?」

「オレも五年前に裏に入ったんだ。有名になったのはカロライに会ってからだったけど。その頃、番犬の話で持ちきりだったのをよく覚えている。どんどん番犬に狩られる殺し屋が出てきて、当時は正直オレは生き残る自信がなかった。オレは…見てみたい。それだけだ」


純粋な好奇心。

それだけのようだ。

自分で番犬を殺し、歴史に名を残す。そんな野望を微塵も抱いてはいない。

ただ単に、自分が裏現実に入った頃に、誰よりも印象に残った番犬を一目みたいだけ。


「レネメンはどうして殺し屋に?」

「オレは物心ついた頃からギャングでな。その時左目を失くして、懲りてやめたはいいが…好きだった手品じゃあ食っていけなくて、裏現実に足突っ込んだマフィアに雇われたのがきっかけ。時折手品で人を殺したくなるんだ、だから副業に殺し屋をやってる」

「ふぅん…。殺人衝動?」

「まあ、そんなとこだ。椿は電車で殺戮がきっかけだろ?」

「……いえ、正しくは"殺戮をした電車内に頭蓋破壊屋がいた"のがきっかけね」

「…………は?」


何だか昨日から喋りすぎな気もするが、レネメンだからとあたしは正直に話す。

これはナヤだって知らないことだろう。


「ナヤには内緒よ?たまたま殺戮した電車内に頭蓋破壊屋がいて、あたしは気に入られて彼に裏現実に連れてこられたの」


そりゃまたえらい凄い奴に誘われたな。そう言いたげだったがたまげて言葉を出せないレネメン。


「まぁ、どちらにせよ…表じゃあ生きられなかっただろうから、好都合だったわ。人を殺さないと裏表関係なしに殺戮しちゃう、殺戮中毒みたいなもんだから」

「…はぁ………なんか、アンタ……次元が違うな」


ぼんやりと始まりの日を思い浮かべていれば、レネメンは笑いを洩らした。


「デビューが派手なだけあって、凄いな、アンタ。流石は頭蓋破壊屋に並ぶ存在の紅色の黒猫だ」


可笑しそうにレネメンは笑う。

笑えるくらいあたしのデビューの裏側が可笑しかったのだろうか。


「表に産まれたのが、間違いみたいに────アンタは裏こそがアンタの世界なんだろうな」


それは多分、レネメンの純粋な本音だったろう。

表に産まれたのが、間違いみたい。

ウマレタノガ、マチガイミタイ。


「───そうね…あたしも、産まれたのが、間違いだと思うわ」


あたしは微笑みを返す。



 レネメンのマジックショー。現在、アメリカではそこそこマジシャンとして売れている。

ショーはほぼ満員。

一日で三回。一回目は客として観ていたが、二回目は裏方を手伝った。

レネメンの衣装は背広。ヴィジュアル系のように多少アクセサリーとアレンジがある。

彼見たさに来た女性客が半数のようだ。

眼帯でオールバックの黒背広のイケメンマジシャン。

その手品の内容も命懸けで迫力あるものばかりが多かった。

裏方の人間からレネメンのことについて訊いてみれば、好感の持てるいい仕事仲間だと思われている。

裏方の人間の中には誰一人、裏現実者がいない為、レネメンが人殺しマジシャンとは知る者は少ない。


「よ!椿!」

「遊太…それにディフォじゃない」


二回目のショーが終われば、裏方に遊太とディフォが現れた。


「退屈だと思ってな」


どうやらレネメンが呼んだらしい。しかし呼んだのは遊太だけらしく、ディフォを見て苦い顔をする。


「次のショーまで時間があるだろ?行くぞ。遊太は黒猫でも口説いて」

「えっ、ちょ!」

「は?ちょっと…?」

「……」


ディフォは軽くあたしを睨み付けてからレネメンの腕を引いて、あたし達を残して外に行ってしまう。

呆気にとられてしまい、レネメンのSOSに応えられなかった。

黒眼帯の背広マジシャンがゲイなエロ吸血鬼に拐われた。


「なんでディフォを連れてきたの?」

「いや……椿がレネメンといるって聞いたら…獲物を狩るような眼で行くって言い出してよ…」

「……ふぅん」


レネメンをあたしに取られまいと遊太を代わりに差し出した模様。

んー。別にモノにするつもりはないのにな、どっちも。


「どうする?レネメンを助けにゲイなエロ吸血鬼に立ち向かう?」

「え?なんとかなるっしょ。いつものことだしな。……腹減った、飯でもどう?オレが奢るからさ」


いつものことらしい。

ニカッ、と遊太が誘うのであたしは微笑み返して頷いた。

…ごめんね?レネメン。



 遊太と暇潰しに映画を観て、オフィスに戻ってきたがそれでもコクウは帰ってはいなかった。

一匹だけ留守番をする黒猫があたしの足にすがり付いて甘えた声を出す。


「お腹が空いた?ほら」


餌を与えて、ソファに腰掛ける。

猫しかいないオフィスの静寂を耳にしてただぼんやりとした。


「この夢の意味を、考えたことはあるか?」


 気付けばそこは、白い空間に変わっていた。

ソファは白のベッドとすり替えられており、あたしが横たわった白いシーツには黒いブーツがどっかりと乗せられている。ベッドの横にパイプ椅子を置いて座る男の脚だ。

それが頭の近くに置かれているため、疎ましく思い起き上がる。


「人間どもが解釈して作った夢分析によりゃあ、部屋は心や感情を示す。分かりやすく言うなら、現在のご機嫌とやらだな」


男は相手の反応なんて御構い無しに話す。


「さて、お前の場合、夢の中の部屋は病室だ。窓もドアもない、それはまぁそれは大したて関係無いだろう。夢分析したいなら印象に残ったもんをしっかり覚えることだ。何がなにして誰がいて何をしたかどんなイメージを持ったか……お前の場合は白から黒に変わるってことだ」


切り目を吊り上げた笑みで更に細めて、男はあたしを見つめる。人をおちょくる笑み。


「先ずは色から分析しようぜ。白からだ、白な、白。白は、人間がイメージする通り…清純や清潔…クク、無垢な魂な。次は黒だ、黒。黒は人間がイメージする通り、悪い意味が多い…力や秘密に暗黒、または不安や死の象徴。クククッ……簡潔に解釈すんならお前の気分はピュアだったが不安に蝕まれたってなるが。…クククッ!違うな、お前をよく知ってるオレ様が解釈するなら、色はお前の連想するものを示し────それは」

「ここは部屋じゃねぇぞ、V」


男の言葉を遮り、ベッドの上の彼の足を蹴りって落とす。

ここは部屋ではなく、空間。

真っ白な、果てしない空間である。

壁なんてない、ベッドに椅子しかない。

勿論、現実ではないため、男の首を切ろうにもナイフがない。夢でもないため、望んでもナイフは出てこない。

いつの間にか眠りに落ちてあたしは、頭の中の居候悪魔に脳内に招待された。

あたしの脳内でも、居候悪魔・ヴァッサーゴに改装の権利がある。

この空間は目の前の男、つまりはヴァッサーゴのものだ。あたしの頭の中なのに。


「お喋りしたいならお前が出てこい、勝手に他人の頭の中に客を招くな」

「あーん?大家さんは客に入るのか?」

「さっさとあたしを起こせ」

「寝てる間に黒野郎が帰ってきちまうかもしれねぇもんなぁ?」


クツクツクツクツと笑うヴァッサーゴを睨み付ける。ここにナイフがあろうと、切りつけてもヴァッサーゴは死なない。

なんせここは彼の支配する世界なのだから。

その為にあたしをこちらに引き込んでこうやって話しているのだろう。


「あーもういいよ、勝手に喋ってやがれ」

「オレが教えてる。あの時、手を掴んで良かったのか否か」


ヴァッサーゴを無視してベッドに横たわる。頭の中でも寝れるだろうか?

試そうと目を閉じれば、白い空間によく映えた黒い衣服を身に纏うヴァッサーゴが上に覆い被さるように目の前に現れた。

うんざりして目を回すが、一体何を口にしてあたしを怒らせるのか、他にすることもないので聞いてやることにする。


「帰って、その眼で確かめればわかる」


あたしの二つの眼を指差して、ヴァッサーゴは言った。

つまらない。あたしはまた目を回す。つまらない、つまらない。


「お前が理解できない、V。何考えてて何を企んで何がしたいのかわかりゃしない。お前は何を望む?」


あたしを白瑠さん達の元に帰れないようなことを背中を押してさせたのはヴァッサーゴだ。黒の集団に入るよう言ったこともある。

何がしたいのかさっぱりだ。


「望み?…あー……そりゃあ…今欲するのは、性的快楽だな」


白いワンピースから覗く肌を眺めて、顔を近付けようとするヴァッサーゴ。その顎を掴み、溜め息をついて押し退ける。ヴァッサーゴが笑う。


「夢の中のベッドは」


シーツに指の長い手を滑らせながら、ヴァッサーゴがニヤリと妖艶に笑みを浮かべて赤い瞳で見下ろす。


「睡眠欲。休息願望。───そして、性的満足への欲求」


彼の黒い髪があたしの顔に降りかかり、長い爪が肌に食い込んで撫でる。


「あたしの頭の中であたしを犯す…それって犯したことになる?犯されたことになる?性犯罪者の悪魔」

「クククッ…脳内で犯されれば、濡れるだろうよ?」


耳元で囁いてヴァッサーゴがもう片方の手であたしの太股を掴んで撫でる。


「アンタって、何百年も黙ってたから…相当欲求不満なんでしょ。飢えてる。貪欲悪魔。煙のくせに。吸血鬼にビビって隠れてる。変態クズ悪魔」

「罵って萎えさせようとしてんのか?お前らしくねぇなぁ……抵抗しないで身を委ねてんのか?クク」


太股を撫でた手はスカートの中に入り、腹部を滑っていく。

肌の柔らかさを確認するように指先がワンピースの中で踊る。


「ここはあたしの頭の中。アンタが支配しようが夢と変わらない。アンタがあたしを殺そうが、犯そうが、起きれば関係ない」

「殺すだって?物騒なこと言うんじゃねぇよ」


ヴァッサーゴが喉で笑い、それが耳元にふりかかり擽る。同時に服の中の指先が。


「あっ…」

「クククッ……ここで首を絞めて殺せば、お前の意志が消えて、身体はオレのモノになるんだぜ?椿」


不覚にも声を漏らしてしまった。

ヴァッサーゴが楽しそうに耳元で甘く囁く。


「んなめんどくさいことをオレがするわけないだろ?」

「ん……っ…」

「お前に寄生するのが楽しいんだからよぉ」

「…ん…」

「悪い言葉ばっか使うと…お仕置きするぜ?」


耳に歯が立てられる。


「夢とは全く違う、前にも言っただろう。椿。しょーがねぇな…お仕置きして覚えさせてやるよ」


あたしの顔を覗くヴァッサーゴの笑みには、悪意がこもっていた。


「白と黒、白の殺戮者と黒の殺戮者。お前の心は黒の殺戮者で染められてる!!」

「っ!!」


遮る暇を与えず、ヴァッサーゴが吐き捨てた。

あたしは腕を振り上げたが。

白い空間は消え失せて、黒のオフィスが視界に映る。


「クソッ!言いたいこと言いやがって!」


コーヒーテーブルを蹴り飛ばしてヴァッサーゴへの怒りを発散させる。それだけではおさまらず、ギリッと歯を噛み締めた。

 不意に顔を上げる。

コクウの部屋に気配がする。吸血鬼の気配だ。

あたしは軋む階段を上がって、部屋に入った。

ドアを開けるなり、花の香りが鼻を擽った。


「……?」


部屋に、コクウの姿はない。

しかし、代わりに妙なものが部屋に在った。

視覚に捉えたそれが疑わしくって何度も瞬きしたが、それは確かに在る。

紅色の椿の花。

それが部屋中に置いてあった。コクウの部屋が椿花の香りで充満している。

奇妙な光景に首を傾げつつ、一輪の椿花を手にした。今が時期の花でも、この辺にはない。

くしゃりと握り締めれば、赤い血が滴るように花びらがヒラリと落ちる。


「気に入った?」


唐突に耳元で声を発しられて、肩を震わせる。振り返れば、微笑むコクウがすぐ後ろに立っていた。

数歩離れれば、靴下の足で花を踏みつけてしまう。


「は?」


意図がわからず、警戒して見る。

コクウは花を踏まずにあたしに歩み寄った。


「椿の花。美しいだろう?」

「……は?」


何歩か下がるがコクウは歩み寄るのを止めない。退路を確保しようと後ろを確認すれば、その隙をついてコクウに腕を掴まれ引き寄せられた。


「本当に魅力的で美しい…」


あたしを抱き締めたコクウは髪を手に取り、口付けを落とす。

椿花を言っているのかあたしを言っているのか、わからない。

あたしはコクウを押し退けて離れた。

何か可笑しい。

不機嫌を隠した笑みではないのはわかる。妙な笑みを浮かべている。

コクウは微笑む。

穏やかな笑みで。

あたしを見つめて。


「椿─────好きだ」


そう告げた。


「俺は椿に魅了されて、椿に心を奪われて、どうしようもなく椿が好きだ」


口を開こうとしたが、言葉が見付からずただ開いたり閉じたりするだけになる。叫んででも止めようとした。そうしなくてはならなかったのに、言葉が出ない。


「君が愛しいんだ、椿」


それは聴きたくない。

それは触れたくない。


「長い間生きてきたけど、初めて云う言葉を云わせてもらうよ。椿──あい」


白い刃のナイフが光を放つ。

あたしは飛び込み、コクウを押し倒して首にナイフを押し付けた。

ベッドに倒れたコクウ。弾みで椿花は舞い、ボタボタと落ちていく。

それが更にあたしを不快にさせる。


「何のつもりだ」


あたしは低い声を出して睨み下ろす。


「何って…変なことを言うね、椿。俺は椿に告白してるだけなんだけど」

「そんなことを訊いてるんじゃない!」


ナイフを強く押し付けて、コクウの髪を引っ張る。

コクウは笑みを浮かべたままあたしを見上げた。

 永遠に聴きたくなかった。

 永遠に触れたくなかった。

それに気付いて、あのビルから消えたくせに。

何故口にした?何故云った?

コクウがしつこく勧誘する理由に、その感情が在ったことはわかっていた。

二人の男に愛してると云われたんだ。流石に気付く。鈍感でも、わかった。

コクウがディフォの助言であたしにアプローチしてたのが決定打。

あたしに触れる手が眼差しが言葉が感情が───愛しさでいっぱいだ。

認めたくなくてもその感情を抱いているってことはわかってた。

あたしに向けられていると、嫌でも気付いたんだ。

 だからこそ聴きたくなかった。云われたくなかった。その感情に触れたくなかった。

なのに、なのに、なのに!


「俺が帰ってこない間、一体何を考えてた?」


コクウは右手を伸ばし、あたしの頬に触れて静かに訊いた。


「もう少し焦らしてた方がが効果的だったけど、俺の方が堪えきれないから一日にしたよ」


ナイフなんてないみたいに、嬉しそうにコクウは笑みを浮かべた。


「俺に会いたかっただろ?椿」


その言葉に、隠しきれない動揺が駆け巡る。

花を愛でるように、親指で頬を撫でてコクウは続けて言葉を紡ぐ。


「考えたんだ。どうしてわざわざあんなことを俺に言ったのか。この傷が白瑠につけられた傷で、白瑠が裏現実に誘った奴で、白瑠がいるから俺は除外だって。そんなことわざわざ言ったのは何故か、考えた。俺に諦めさせようとしたんだ、そうだろ?俺の気持ちなんてスルーできたはずなのに、一体どうしてそうしたんだろうって考えた。んで、わかった」


穏やかな笑みを絶えず、コクウは告げた。


「俺がこれ以上近付けないようにしたかったんだろ?椿」


コクウの両手が、壊れやすいガラス細工を持つようにあたしの頬を包む。

暴かれた事実を、口にして。


「俺が好きなんだろ?椿」


その事実がどうしようもなく嬉しくて堪らない表情で、コクウはその事実を突き付ける。

あたしは。

白い光を放つナイフを振り上げ、勢いよく振り下ろした。

 ズボッ。

ナイフはコクウの横に深々と突き刺さる。


「違うっ!!」

「俺から離れられないくらい、俺が好きなんだろ?椿。だから近付けないようにしたかった。それでも、白瑠っていう存在がいるから…否定したくなるんだろ?」

「ちがっ」

「俺を好きだという事実は、変わらないぜ」


聴きたくない。

あたしはコクウの腕を振り払おうとしたが、優しく包むくせにそれは出来ない。必死にもがいた。

聴きたくない。


「椿」


聴きたくない。


「愛してる」


聴きたくない言葉を、起き上がったコクウは告げてあたしの耳に浸透させていく。

毒のように蝕むその言葉を、見つめて云った。

理解できない言葉、認められない言葉。

アイシテル。

アイシテル。

アイシテル。

何度も云われ、何度も締め付けられた、呪文。


「………あたしはっ……愛してない…!」


コクウに惹かれている。

その事実も認めたくはない。

それは幻だ。そう言い聞かせてきた。

コクウが今まであたしにしてくれたことが走馬灯のように脳裏に浮かぶ。

身体を張ってあたしを落下から助けた。可笑しな気遣いの数々。用意されていた朝食。背負われて運ばれた。看病。人工呼吸。添い寝。温もり。

顔を逸らしたくても、固定されてコクウと向き合わされている。


「愛そうとしてないだけだろ?」

「……違う…愛してない。愛じゃない。貴方を好き、かもしれない。けれど…愛じゃないのよ」


そもそも愛がわからない。

自分が愛する、というものがわからないんだ。

コクウを愛してない。

それだけは云えた。


「椿、俺のことを好きなんだろ?離れたくないくらい」


コクウは首を緩やかに振って問う。


「なら俺のこと、愛せる。愛だよ。そんなに怖がらなくても、いいんだぜ?椿。俺を愛しても」


優しく微笑んでそう告げる。


「嘘をつく方が、苦しいだろ?俺のそばにいるならさ」

「っ…」

「認めていいだぜ?」


優しく、髪を掻き上げられた。

浸透するその声に、揺らぐ心。


「俺はここにいる」


黒い吸血鬼は云う。


「そばにいるよ」


あたしに告げる。


「椿が愛しくて堪らない。愛してる」


愛してると云う。


「だから椿も、俺を愛して?」


愛を求める。


「愛し合おう、椿」


吸血鬼は妖艶に微笑んで顔を近付けた。


「他の奴らなんて気にせず、俺だけを考えて───俺を愛して?」


椿の花の香りが鼻を擽る。

甘い口付けをしながらそれを吸い込んだ。


これが愛なのかわからないまま。




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