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血塗れの鼓動


ドクン、ドクン、ドクン。

自分自身の鼓動を感じる。

ドクン、ドクン、ドクン。

自分自身の鼓動が聴こえる。

ドクン、ドクン。

何度でも、動く。

停められない、鼓動。

止めてもらえない鼓動。

生きている証の鼓動。

ドクン、ドクン。




「ねっ!椿っ」

「………なによ」


 黒の集団の一員になったその日。紹介と条件を話してさっさとアパートに帰ってきて、ベッドに倒れて眠った。が眠りについた頃に突然現れたコクウの声に飛び起きる。


「勝手に入ってこないでよ」

「一つ、言い忘れてたんだ」

「なに…」

「親友になろう」

「……は?」

「親友。いいだろ?」


ベッドに横たわるあたしをニコニコと見下ろしながらコクウはそんな妙なことを言った。

親友?なんでまたそんなものにならなきゃいけないのだろうか。

親友にならなきゃいけない何かが彼にはあるのだろう。彼の策に必要なこと。

なのかもしれない。

うん。どうでもいい。

眠くて思考が働かないあたしは考えることを放棄して頷いておいた。


「じゃあ、おやすみ。親友」


ちゅ、とコクウはあたしの鼻に傷を落として部屋から消える。

………謎な言動と行動をして消えやがった。

まぁいいか。寝よう。



 翌日はナヤに聞いたパトスの遺族達の始末に向かった。姪や従兄弟まで親戚中に狙われていたパトスは本当に気の毒に思う。関係ないけど。


「おかえりー」


二件潰して殺し屋二組を殺して今日のところは引き上げて、アパートに戻ってみれば不法侵入者が堂々とテーブルについていた。


「勝手に入るなって言ったでしょ」


テーブルの上には料理が並んである。二人分の料理。魚のソテーだ。


「なんで料理を用意するわけ?」

「椿の健康管理のため」

「……」


凄く疑問に思ったが、なるほど。あたしが吐くぐらい体調が悪かったから気を遣っているのか。

確かに栄養バランスは摂れそうだ。……主婦か。


「ドリップの身内、俺達も手を貸すよ」

「要らないわ、あと一日で終わらせるから」

「ヒュー、仕事が早いねぇ」


仕方なく席について、一緒に食事を摂ることにした。


「じゃあ最後の仕事だけ、手伝う」

「要らないってば」

「終わったらすぐお祝いしたいし」

「クライアントに報告しなきゃいけないし、祝う理由はないでしょ」

「クライアントは遺産をもらう手続きあるから金をもらう時にすればいいじゃん」

「報告しなきゃいけないんだって」

「クライアントは火都に守らせよう」

「秀介…ポセイドンが守ってる」

「んーポセイドンも忙しいだろうし、火都にやらせよう」

「ポセイドンは平気よ」

「…あのね、椿。ポセイドンは狩人、君は殺し屋。あんまり仲良くするべきじゃない」

「なに、火都とも仲良くするなって言うの?黒の集団の属させてるくせに」

「火都はいいんだよ、周りに流されない奴だから。でもポセイドンは狩人の鬼だ、彼が殺し屋と仲良しなのは名前に泥を被ることになる」

「それはあたしも思うわ、でも彼がそれを気にしないの。獲物を取り合った時もあたしを潰す気なかったし、火都もポセイドンも仕事じゃなきゃあたしを狩らないわ」

「……親友ならさ、相手の面子を守るために会うのを控えるべきじゃないかい?」

「彼とはたまにしか会ってない、ばったり会うだけ」


淡々とかわす会話。

ふと首を傾げる。一体何処から秀介の話に変わったんだろうか。

嗚呼、クライアントの護衛についてか。


「ああ見えて、狩人の鬼なのよね…」


実力は戦ったことがあるからよくわかっているが、鬼と呼ばれるほど恐ろしい存在とは思えない。

…あたしに甘甘だもんなぁ。

一応、狩人の中では一目置かれているからこそ鬼なのだろう。


「カトリーナの件はもう関わらないで。一人で済むし、あたしの仕事なんだから。話はそれだけ?なら帰って」

「冷たいなぁ、仲間じゃん」

「仲間だからって不法侵入して料理を作るな」

「椿の寝顔を見ないと落ち着かなくってさぁ」

「次見たら一曲V(ヴィ)の歌を聴かせるぞ」


不法侵入の訳が寝顔を見るためだなんて許さない。


「Vが悪魔の名前だったんだ?一体悪魔とどんな契約を結んだんだい?」

「契約は結んでないわ、彼も結ぶつもりないみたいよ」

「へぇ、じゃあ契約の証だと思ってた紅い眼が悪魔が憑いてる証なんだ」

「そうみたいね…」


悪魔は先ず、とり憑いた人間に契約を持ち掛ける。応じなければ人間を殺す。人間によって封じられた悪魔はそれぞれメモリーの中。そこから出ようと悪魔が人間の脳内に入り込む。

思い出す、もう一人の紅い眼をした男。

妙な空気を醸し出す男は、あたしと同じか或いは契約者か。

それは彼にいうべきかな。


「ねぇ、ジェスタって知ってる?」

「生存してる吸血鬼は皆知ってるよ。ジェスタは悪魔退治屋だ、確か十年前に墓場の中に入ったって聞いたけど」

「去年起きたわ。Vを退治しようとして出来なかったの」

「あのジェスタが退治できない悪魔なんだ?」


少し驚いた顔をするコクウを見ると、ジェスタは優秀な悪魔退治屋でヴァッサーゴが異質なのだろう。


「クククッ、あの草臥れじじか。オレを椿の中に閉じ込めるしか出来なかった吸血鬼」


ヴァッサーゴが会話に入ってきた。

声はあたしとコクウにしか聴こえない。


「やあ、V。出てきて一緒に食事をしよう」

「食事なら椿が食えやいい」

「話がしたいんだ、なんで椿の中に留まるのか」

「オレの勝手だろ?」

「あたしの中にいるのはお前の勝手なのか?鬱陶しいし不快だからもう出てけ」

「命の恩人に出てけはねぇだろ」

「命を助けろなんて言った覚えないわ」

「心で思ってた」

「あの一瞬でも思ってない」

「椿の足が治ったのは悪魔のおかげってわけか。腹を抉られたってやつも」


ヴァッサーゴは何を言っても出ていくつもりがないらしい。その理由も口にしない。お喋りなくせに。

「あれ?」とコクウは首を傾げた。


「どうして他の傷は消して、首の傷は消さないんだ?」


あたしの首を指して問う。

チョーカーに隠れた傷。

首と言えばコクウに噛まれた咬み跡も残ってある。


「消してほしーのかよ?てめぇの咬み痕」

「んー、どっちでもいいけど。チョーカーの下の傷は目立つだろ」

「その傷は裏に入った記念の傷だ。椿の大事な痕だから消さないでやってる、ククッ」

「へー、そうなんだ?」


余計なことを喋るんじゃないヴァッサーゴ。可笑しそうに笑ってる。

コクウは首を傾けたままあたしの言葉を待つ。


「もう帰って」


フォークを置いて立ち上がる。


「この件が済んで黒の集団で動くことになったらオフィスに顔を出すわ。仲間になった今失踪すると思ってないでしょ」

「思ってない。そうだね、紅色の黒猫が入ったことだしアメリカ政府を殺戮しようか」

「……アメリカに何の恨みがあるの?」

「別にないけど?」


日本の次はアメリカどころか世界を恐怖に貶めなきゃいけない理由が見当もつかない。


「黒の集団のデビューの件もそうだけど、目的はなに?」

「くくく…知りたい?」

「教えないつもり?」

「教えるよ」


黒の集団の集結の理由と目的。

コクウは頬杖をついて妖しく光る瞳を細める。好戦的な猛獣のような眼。


「俺の目的は────」


裏現実者の誰もが知りたがっているその目的を、コクウが口にしようとしたまさにその時に、ノック音が聴こえた。

コクウ以外の訪問者に、ビクリと肩を震わせてしまう。


「…─────」

「つばきゃん、いる?」


過った人ではなく、ドアの外から聴こえた声は秀介だった。

ピリッと走った緊張が緩む。


「ポセイドンがきた、出て」

「なんで俺が出ていかなきゃいけないんだ?」

「黒の集団に属してること、知らされたくないのよ。広まったら抜けるから」


秀介に聴こえないようコクウの背中を押す。駄々っ子のようにテーブルにしがみついたが言えばしぶしぶ立ち上がって窓に向かう。


「んー…じゃあさ、椿。片付いたら、オフィスに来てよ。バランスの取れた夕飯を用意してるから。必ず来てね」

「わかった、終わったら向かう」


健康を心配するほどあたしが必要なのか。仲間の体調不良を面倒見るほど気の利くリーダーなのか。

コクウは窓からアパートを出た。

それを確認してからドアを開いて秀介を迎える。


「やっほ、飯食いにいかね?」

「もう食べたわ」

「あ、本当だ。…あれ?誰か来てたのか?」


どうやらカトリーナを誰かに任せて食事に誘いに来たらしい。

テーブルを見て気付く秀介。

テーブルには明らかに二人分の食べ掛けた食事がある。


「一人で食べてた」

「へぇ、食欲は回復したんだ。俺はペコペコ、椿作って」


さらりと嘘をついてコクウの分も片付ける。

断る理由もないので秀介に作ってあげることにした。

オムライスでいいかな。


「ふーん、ここで一人暮らししてんのか」


椅子に座って待つ秀介が部屋の中を見回す。

特に見て面白いものなんてないが。


「殺風景だな」

「ほとんど借りた時のままだもの」

「いつからここに?」

「三週間前かしら」

「生活感がないな」

「長居するつもりなかったから」


ホテル感覚で借りているようなものだ。これぐらいが楽。

部屋の中で馴染めていないのは花瓶の中の赤い薔薇ぐらいだ。


「なぁ、椿」


秀介がキッチンに立つあたしに向き直る。


「俺のとこに来ないか」

「……」


言うと思った。


「クラッチャーと居たくないなら、俺のとこに来ればいい」

「あたしの選択肢は貴方か頭蓋破壊屋だけなの?」

「俺のとこに来てほしいんだ。会う男を魅了するから心配でしょうがねぇ…椿の側にいたい!前はクラッチャーのとこにいたからあんまり会えなかったけど、今なら毎日会えるだろ!」


むすーとした秀介は最後にニパッと嬉しげな笑みを浮かべる。

白瑠さんの元に行かなければ自分のところに来ていたと思っているのだろうか。


「あたしは殺し屋、貴方は狩人よ。一緒にいたら大きな矛盾ができるでしょ」


あ、コクウと同じことを言ってる。


「殺し屋だろうが俺が椿を愛してる事実があるんだから、んな矛盾なんて関係ねぇよ」


秀介は何を今更といった風に即答をした。

あたしを好きだから。ただそれだけだから、狩人と殺し屋という関係を気にしてない秀介。

有難いことだ。

狩人の鬼に狩られない殺し屋があたし。


「貴方の評判が気になるんだけど」

「関係ないって。実力は実力として歴史に残るんだからよ」

「歴史、ね」


狩人に歴史、と言えば番犬。

歴史上最強の狩人。

裏現実の番犬とまで謳われた狩人。

その過去の人に秀介は憧れを抱いている。

そんな彼は、殺し屋と狩人の子供。矛盾の子供。

彼自体が矛盾の存在だから、狩人の立場でありながら殺し屋のあたしを愛してると言えるのだろう。

嗚呼、なんでこんなあたしなんかを好きなんだ。いつも残念に思う。


「ほら、出来たわ」

「おっ!美味そ!いただきます!」


誰でも出来るオムライスを出せば、パッと笑みを輝かせて食べ始めた。


「んー!美味い!椿の料理は世界一だ!」

「大袈裟な反応はやめてよ」


味も確認せずに出したからよくわからないが、世界一でないことは確かだ。最も秀介にとったら世界一なのかも。


「好きなんだからさ、狩人も殺し屋も裏も表も関係ないっしょ」

「…狩人も表も…」


モグモグと食べながら会話の続きを話す秀介。

不意に彼女の言葉を思い出した。

表だからと、狩人だからと、理由をつけて好きにならないようにしている。

それを見抜いて言い当てたあの人。


「………」


好きにならない努力は、生まれる前から愛が欠けていたせい。


───ダッテ、ウマレルマエカラアタシハステラレテタ。


ぞっと気持ち悪いものが背中を駆け巡る。


───アタシハ、アイサレナカッタ。


愛されなかった。愛がわからなかった。自分が誰かを愛せるなんて、思えなかった。

愛される資格も愛す資格なんてないと思っていた。

なのに彼女は。

あたしの為に泣いて、抱き締めて、愛されていることを告げた。

愛されてもいいんだと。

 愛のある、場所だった。

愛で温まった場所だった。それが、それが。それが。それが。それを。

 それをあたし自身がぶち壊した。


「椿?大丈夫か?」


慌てたようにあたしの肩を掴む秀介。

思い出して沈んでいたあたしの顔は、情けない程曇っていただろう。


「あたしはあたしの居たい場所にいていいんでしょ?」

「……」


 椿は椿の居たい場所に居ろ。俺はいつまでも想うから。

愛される資格があると言ってくれた秀介の言葉。

秀介は直ぐにあの日を思い出したようだ。


「今はここ(、、)がいいの」


今は独りがいい。


「─────そっか」


秀介は頷いて腰を戻す。

スプーンを持ってまたオムライスを食べる。


「ずっと待つよ、俺は」


微笑んでそう答えた。

ずっと、待つか。

嗚呼、なんでこんなあたしなんかを好きなんだ。ばか、秀介のばか。

そう思うのに言えない。

あたしは秀介が待っていることできっと安心しているんだろう。


「────あ、やっぱり待てないかも。シビレ切らしたら椿をラチる」

「…………」


忍耐力は少々足りないようだ。

きっと白瑠さんの件をまだ怒ってるんだと思う。近くに居すぎたばっかりに事故を起こした。

しかもその白瑠さんが……。

 愛してる、椿。


「…………」


 白くん達は捜すのやめちゃったし。


「………。秀介、もう休むから早くして」

「え?もう?」

「今日で終わらせたいの」

「じゃあ明日デートしようぜ!」

「カトリーナに会いに行くからその時ね」


起きたら、殺しに行って終わらせよう。





 藍さんとの再会で割り切ったせいで、失った大きさを改めて気付いた。

今まで気付かぬフリをして、考えないようにしていたから。

重く感じる。

何かが重く感じる。

この重さがきっと、あたしの喪失感。喪失感と悲しみと怒りと嘆きと苦しみ。それと、少しの心残りと空虚。

 刃が風を切り、肉を裂き、心臓を突き破る。悲鳴ごと喉を切り裂く。

殺し屋の弾丸を避け、ナイフを投げる。抵抗をする腕を足で受けて、腹を引き裂いてやれば血渋き。

カルドを振って血を振り払い、次の標的の元へ向かう。

撒き散らされた赤。紅い血。

紅い花を咲かせる殺人鬼。

命を奪う殺し屋。

奪う側の人間。

血塗れの殺戮者。


「─────フー」


血の海の部屋。

見栄っ張りの金持ちの遺族の屋敷は無駄に広いが、使用人はいなかった。

身を守る為に雇った殺し屋と標的だけ。

逃げればいいものの、金欲しさに立てこもりとは笑える。

パトスの遺族は皆、命より金なのだろう。

まあ、あたし達殺し屋も、こいつらとは変わらないか。

命を金に変えている。

別に金に執着しているわけではないが、ただ。ただ。

殺戮衝動を、仕事にしただけ。

死体だらけの部屋。

紅色に染まった部屋の真ん中に立ち尽くす。

身体が、重い。重い。

部屋を出ようと足を踏み出したが、ずしりと重さを感じてその場に倒れる。

グラリと揺れて沈む感覚。

血の匂い。

このまま気を失ってしまいたいのに、眼は覚めていて閉じることもしない。

堕ちるような感覚には程遠い。

天井が遠い。手を伸ばしても、届かない。

伸ばした先は、もっと別のところ。

そこにもきっと届かなくて。

きっと触れることも、できないんだろう。

 それでいいんだ。

そう割り切って忘れてしまえばいい。

また気付かぬフリをしてしまおう。

もう、戻れない。

もう、帰れないんだ。

さようなら。

そう言ったんだから。

 静かに眼を閉じて、深呼吸。

起き上がって今度こそ、その部屋を出た。


「…嗚呼、オフィスに行かなきゃ」


廊下を歩きながらコクウを思い出す。オフィスに来いと言われてたんだっけ。

どうしようかな。

迷いながら歩けば、ズキズキと頭が痛くなってきた。ヴァッサーゴの仕業だ。

いってぇな。と思っていれば、廊下の向こうから男が一人歩いてきていることに気付く。

見覚えがあった。


「あれ?前に会ったよね?悪魔にとり憑かれた娘」

「…なんでここに」


灰色の髪をした悪魔に憑かれた男。

街中ですれ違っただけだが相手も覚えていた。

薄く笑う男の眼は紅い。悪魔が憑いている証拠。


「バイト、殺し屋を殺してくれって頼まれたんだーけど…依頼者はもう死んだみたいだな」


あたしについた返り血で悟った男はなんとも思ってないようだった。

バイト、と言っている時点で軽く思っている。


「そうだ、可愛い娘ちゃん。お茶しよ」

「…用があるから」


そして前回同様に、ナンパしてきたので一蹴する。


「んー、残念だ。じゃあ次会った時に。雰囲気変わったね?じゃあまた」


そして前回同様に潔く諦め、さらりとまた会う気であたしとすれ違う。

廊下の向こうへと歩き去る男。

このまま行かせてよかったのだろうか。

吸血鬼に危機が迫っていたら大変だ。

でもあの男が吸血鬼の殲滅を目論んでいるとは思えない。


「V、頭痛はやめろって言っただろ。…あの男に憑いた悪魔は、吸血鬼の復讐を目論んでいるの?」


指輪を外して聞いたが、ヴァッサーゴの返答はない。チッ、仲間の話はしないってことか。一応コクウに話すべきかな。


「二度とあの男に会うな」

「は?」


ヴァッサーゴが一言。


「会うんじゃねぇ」


そう言ってヴァッサーゴは沈黙をした。

…なんなんだ?

引っ掛かったが考えてもわからないから放棄して、指輪をポケットに入れて屋敷を出た。

歩いてオフィスに向かえば、時刻は九時過ぎ。

ノックをせずに中に入って見れば、コクウ一人がキッチンに立っていた。


「おかえりぃ、椿」


にこっ、とコクウはそう出迎える。

おかえり。

そんな言葉を言われる筋合いはない。


「ほらほら、食べて」


コクウに手を引かれ、テーブルに並んだ料理を食べるよう座らされる。サラダにステーキ。

これを食べろ、か。

食べられなくもない。

出されるがまま食べることにした。


「コクウ、ナイフは?」

「え?持ってるでしょ」

「…殺人ナイフで食べる趣味はないわ」


きょとんとされてはこちらが困る。

食事に使うナイフを使って肉を食べる。殺人に使ったものじゃないことを祈ろう。

んー、ソースも美味しい。イケる。


「自分に必要ないのになんで料理できんの?」

「人間には必要だろ。俺達吸血鬼にも味わうことができるから、暇潰しに覚えたんだ。椿の為に覚えててよかった、おかわりあるよ」


肉を切りながら話してみた。コクウはおかわりのため、肉を焼いている。

肉厚があるわりにはソースのおかげが食が進むのでおかわりをしておく。


「美味そうな匂いー!おっ、椿が来てんじゃん!」


騒がしく登場してきたのは遊太とナヤに火都。主に騒がしいのは一人。


「ステーキ好きだねー黒猫。…って!おかわり!?黒!黒猫をデブ猫にする気か!?」

「太ったら動かせば問題ないじゃん。てか、椿はちゃんと食べなきゃミイラになっちゃうよ」


ナヤとコクウのやりとりを見ながら黙々食べる。ミイラにはならねーよ。

食べなかった分を食べるからきっと太るんだろうな…。控えようかな。


「椿!あーん」

「ん」


遊太が身を乗り出してねだったので一口やる。火都は黙ったままあたしの隣に座った。


「美味いな、これ。黒っちが作ったの?」

「あ、黒猫の手料理食べたい!」

「あっ、オレも!」

「くひゃひゃ、俺は食べたよー」


急にあたしの手料理の話になり詰め寄られるがあたしは黙々と食べる。


「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」


あたしが無反応を返せば、三人が沈黙した。あたしは黙々と食べて冷めた眼を向ける。


「よし、今すぐ作って」

「わーい、黒猫の手料理!」


勝手に決定された。


「人間のソテーでいいかしら」

「いいよ」


笑顔で頷いたのはコクウだけだったり。

冗談に決まってんだろ。


「パトスの遺産騒動の件はもう片付いたんだろ?黒猫。皆殺しだって?」


にまにまと楽しげにナヤが話題にする。流石、情報が早い。

ついさっき片付けたばかりなのに。


「じゃあ紅色の黒猫が入ったニュー黒の集団始動?」

「まだ。パトスの遺産を手にする為に手続きがかかるから報酬が遅い。報酬が入ってから」

「また後払い?やめなよ、椿。殺しを終えたらすぐに報酬を貰うべきだぜ」

「るせーな、遺産が入んなきゃ報酬がねーんだよ。ドリップと違ってカトリーナなら平気だ」


遊太がノリノリになってコクウに問うがあたしは水をさす。そうすればコクウに呆られた。

ドリップはともかく、カトリーナなら殺し屋を雇って依頼料を踏み倒さないはずだ。

「まー、そうだね」とコクウはそれ以上口出ししなかった。


「それで?入ったら何するの?まじでアメリカ政府殺戮じゃないでしょ」

「え?だめ?」

「だめに決まってんだろ。また火都が暇になるじゃん、ディフォも参加できるやつにしなさいよ」

「だめな理由がそれなの?椿」


ボケてないのに火都にツッコミを入れられた。アメリカ政府を殺戮するのがだめであって、どうせなら黒の集団全員参加にしろ、と言ってるだけで……。


「ディフォは今回不参加なんだ」

「今回も、だろ」


同性愛な吸血鬼、今回も不参加。


「てことは昼間にやる仕事なの?」

「んー、昼間っていうかぁ、何て言うかぁ」


早く答えろ、ひねくれ策略家。


「エジプトに行くから。太陽サンサンでギラギラだからパスなんだって」


エジプト?

確かに目の前のコクウはそう言った。

エジプト。エジプトに行ってまでやることがあるのか?


「エジプトのミイラを殺戮するの?」

「くっ!くっひゃっひゃっ!!」


大笑いされた。


「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」


黒の殺戮者、哄笑。

一体今の一言の何処が面白かったのだろうか。腹を抱えるほど面白い何かがあるのかな。

ああ、さっきあたしがミイラになるって言ったからか?


「ピラミッドにでもいくの?」

「宝探しに行くんだよ」

「宝?宝を手に入れるのが重要なの?」

「ああ、面白い宝なんだって。それが」

「ふぅん。エジプトねぇ……あったかいならいいけど」


コクウを無視して遊太に眼を向ければ答えてくれた。エジプトの宝を取りに行くのが今回の仕事。

なんだか楽そうだ。

アメリカ政府の殺戮より幾分も楽だろうな。

前回の死者を出さないビルジャックも大して苦労してなかったが。


「黒猫いるかーっ?」


その目的はなんだ?という問いが見事に掻き消された。

消したのは、蠍爆弾とアイスピック。


「いた!お嬢さん!歓迎会をしよう!」

「黒!黒猫の歓迎会をやるぞ!おらおらテーブル開けた!…ブラックとブラックキャットじゃあ被るなぁ、黒猫は紅にしよう!」

「じゃあ紅公でよくね?」

「いいなぁ紅公」


あたしの姿を見付けるなり、二人は駆け寄り抱えていたお酒をテーブルに並べた。

紅公って…ハチ公かよ。遊太命名。

「ブラックとブラックキャットでいいのにぃ」とコクウはブーイング。


「歓迎会はいらない、禁酒してるし」


並べられた缶ビールを指でテーブルから突き落とす。それをコクウが座ったままキャッチ。


「この前飲んだじゃん、カクテル。ほら、椿の好きなカシスだぜ」

「禁酒してるのに勧めんじゃねーよ」


カシスのカクテルをコクウが差し出したが、あたしはそれを部屋の隅に放り投げた。

だが、それもコクウがキャッチ。

黒の集団一同は、それぞれ好みのお酒を手にして飲み始める。

あたしは溜め息をついて、立ち上がる。


「え?帰るの?椿?」

「おい、主役」

「るせーよ、飲まねぇて」


満腹になるまで食べたあとに飲んだらきっと吐いてしまう。集団に属して気を抜いたら酔い潰れる可能性だってある。禁酒していた意味がない。本当に。


「そうだ、カロライは?」

「今夜は仕事だって聞いたけど」

「カロライは武器を改造中で、レネメンはマジックショー」

「レネメンは聞いてないけど…カロライに昨日の礼を言いたいの」

「ん!じゃあボク案内する!」


飲みかけの缶ビールを置いてナヤは挙手した。わざわざ会いに行くつもりはなかったがナヤが案内すると言うなら帰るついでに行こう。

あたし歓迎の飲み会にあたしがいないことにブーイングが巻きおこったが、ナヤとコクウ(ついてきた)と一緒にカロライの元に向かった。


「あたしの情報流したらただじゃおかないから」

「仲間の情報は売らない、ねぇ?ナヤ」

「うぐおおぉ…売っておけばよかった!」


コクウと情報中毒のナヤをいじめながら車でカロライの仕事場に来た。

車を降りるとコクウの携帯電話が鳴ったため、コクウがそれに出る。

携帯電話を所持した吸血鬼。


「えー…んー…わかったわかった」


話の内容も相手もわからないがコクウは明らかに気が沈んでいた。


「俺は戻るね、椿、ナヤ。カロライによろしく」

「あい」

「ん」


気が乗らなそうに車を置いて戻っていったコクウを見送って、地下にあるカロライの店に入った。

この店は裏現実専用。上の階に表現実専用のアクセサリーショップがある。


「…妙な客が来たな」


カロライはその一言をあたしに向けてから、手元の武器改造に取り掛かった。


「昨日の礼を言いに来ただけよ。礼より殺したい奴がいるなら一人だけ無料で引き受けるけど」

「だったらそのお喋りを追い出せ」


四角い部屋の壁に沿った机の上に並べた道具や武器を見ながらペラペラと何か言っているナヤがそのお喋り。

武器の由来にその武器を愛用している殺し屋に狩人の名前を口にしているようだ。早くて聞き取れない。


「指輪、つけてねーじゃねぇか」

「ん、ああ…仕事中にはつけないの。違和感がでるから」

「ならつけなきゃいいじゃねーか…ああ、貰い物だからか」


貰い物で悪魔を黙らせる指輪だからつけている。

カロライはチラッとだけあたしの手を見てからまた作業を続けた。


「それは誰かの武器?」

「オレの作品だ。それのちょっとした改良。黒は来てねぇのか?」

「そこまで来たけど、電話がきて戻ったわ。何故?」

「いつもアイツが試し切りを引き受けるんだ」


試し切り。

吸血鬼の身体で武器を試す。

コクウは進んで引き受け、カロライは躊躇いなく試すのだろう。

何処まで自己犠牲が好きなんだ、あの黒の殺戮者は。


「それならあたしがそこら辺の人間を切りつけるわ」

「……」


名乗り出たらカロライに変な眼を向けられた。


「黒猫、あんまり表の人間を殺しすぎると狩人のブラックリストのトップにあがっちまうぜ」

「狩人のブラックリスト?」


ブラックリスト、か。

狩人の情報網。

………あの男も、ブラックリストに載ってて狩人では有名だったっけ。


「狩人のブラックリストは表の人間を殺しすぎるとランクが上がるんだ、今のトップはスカルクラッチャーだろうな。あ、いやぁクラッチャーは最近大人しいからランクは下がってるかもなぁ」


ブラックリストトップが頭蓋破壊屋。驚くことでもない。

あの人は裏も表も関係無く殺し、双方で有名な殺人鬼だ。

狩人の標的は殺し屋。それと連続殺人鬼。裏現実には殺し屋で趣味が猟奇殺人という人間もいる。

…白瑠さんが動いていないことは、裏現実ではかなりの噂になっているようだ。


「どちらにしろ、表の人間を殺戮してデビューした黒猫はブラックリストに入ってるだろ」


そりゃそうだ。

秀介にそこんとこ訊いてみよう。


「あたしは表を殺すなんて言ってないわ。そこら辺にいる裏現実者を切りつけるって言っただけ」

「そこら辺かつ裏現実者を見付けて通り魔紛いなことをするというの?黒猫」

「問題ある?」


表の人間を殺すのは仕事だけだ。そこら辺の人間を殺すような通り魔紛いなことはやったことがない。


「試し切りはいい、お前壊しそうだ。そうだ、この前のナイフを見せろ」

「……………」

「…じゃあパグ・ナウ」


試し切りを断られ、武器を見せろと要求されて、ギロリと睨む。

そうすればパグ・ナウを要求された。

仕事の予定もないし、あたしはパグ・ナウを外してカロライに渡す。


「パグ・ナウは暗殺器!昔はよく使われてたけど、現代使っている殺し屋は少ないんだ」

「ここで爪を出すのか…大した刃だな、こりゃ首をはねるのも容易いな」

「火都と同じ武器職人のよ」

「チッ、火都の野郎が拘ってる武器職人か。成る程、火都が拘るだけあって腕前はいいな」

「火都の武器職人って誰?」

「前のナイフもその武器職人のか?」

「あれは違うわ」

「そうか。…あの白い刃はレア物だろ」

「レア物…?」


首を傾げて自分のナイフを思い出す。

指輪と一緒のクリスマスプレゼント。

短剣とも呼べるナイフ。本当は二本だが、もう一本は失くした。

思い出すと悔やんでしまうが今更探し出すことは無理だ。

失くしたのは白い刃に椿の花が描かれたナイフ。今所持してるのは猫が描かれたナイフ。

どちらも特注品だとは知っていたが刃がレア物だとは知らなかった。


「その刃はハイパーダイヤモンドで出来てる。ホワイトだとは珍しいな。ハイパーダイヤモンドをナイフにする武器職人は一人しかいない…“ヤガミ”がお前の専属武器職人か?」

「え?いや…知らない…。あのナイフも貰い物なの」

「貰い物貰い物…ヤガミの作品だって知らずに持っているのか。宝の持ち腐れだな」


カロライの皮肉も右から左へとすり抜ける。あたしの頭の中には、ハイパーダイヤモンドという単語がぐるぐると回っていた。ハイパーダイヤモンド。ハイパーダイヤモンド。


「ヤガミは大昔から武器職人の腕の立つと有名な裏現実者の一族だ。顧客にしか作らないと聞いていたがお前誰から貰ったんだ?」

「ヤガミかぁ。ボクも名前しか知らないな、教えて教えて」

「ちょ、ちょっと…待って?これ……かなりの価値があるってこと?」


二人の質問なんて振り払い、猫が描かれた白い刃のナイフを出してあたしは確認する。


「当然だ。硬度も高い、デザインも評価が高く、何より作者が作者だからな。コレクターならば億をポンと出す」

「ヤガミだし、ハイパーダイヤモンドだしねぇ。かなりの値段だろうね、コレクターじゃなくても高い金をポンと出して欲しがる輩はいるはずさ」


高い金。ハイパーダイヤモンド。ヤガミ。億をポンと出す。

二人の口からずしずしとくる言葉がズバズバと吐き出された。

ぐ…。あたしはテーブルに片手をついたままその場にしゃがんだ。

武器だからいつもと大した差のない価値だろうと軽く思って貰ったのが悪かった。

あの白野郎が笑顔でポンポン買う奴だと知っていたのなに、あたしの失態だ。

思えば金が有り余った連中で、あたしの生活用品も躊躇いなく購入していた。万札の札束がポーンとなくなるくらいなんとも思っていない連中だ。

価値や価格ぐらい訊けばよかった。

きっと幸樹さんからクリスマスプレゼントに貰った椿の花のネックレスもかなりのお値段だったろうな。それは今、服の下だがちゃんとつけている。

嗚呼、あたしは億単位の貰い物を失くしてしまったのか。

重い。重い、罪悪感が、後悔が、価格が。

ナイフ、一つが重い。


「おい、どうした…。チッ、昨日から調子が狂う。なんで急に変わったんだコイツは」

「可愛いじゃん。年相応でよくない?」

「暴れるコイツを見たろ。あの殺戮者の眼をもう忘れたか、海馬から出してもう一度今のコイツと比べてみろ」

「…………。うん、ギャップ萌え」

「てめぇの頭をまず直せ。今すぐ直せ」

「これが黒猫なんだって。猫は気まぐれだ、じゃれたかと思えばそっぽ向いて、誘惑するみたいに色っぽく近付いたかと思えば尻尾振っていなくなる。それとおんなじっしょ。黒猫のデビュー知ってる?電車の人間を殺戮。皆殺しだけど、黒猫は唯一の生存者のフリして表に捕まんなかったって」

「…つまりは猫被りか?」

「黒猫だから!…じゃなくて、素がこれで殺戮者の面が在る少女に過ぎないってこと」


なんかカロライとナヤがあたしのことを話している。


「ナヤ…あたしの情報は流さない約束でしょ」

「うっ…身内はセーフでしょ!」

「あと生存者のフリはしてない。表の連中が勝手に被害者だと思い込んだのよ。あたしは一言も被害者だって言ってない」

「自分が犯人だとも言ってないんだろ」

「とーぜん、自白して精神病棟に閉じ込められるなんて御免だもの」


立ち上がり、さらりと答える。

今更自白しても、既に模倣犯が全ての罪を被ってくれているからややこしくなるだけだが。


「態度をコロコロ変えるな、対応に困る」

「別に変えてないけど…」

「ほら、意識的じゃないから猫被りとは違うんだよ」

「てめぇは黙ってろ、つか帰れ。仕事の邪魔だ」

「もう帰るわよ、ナヤ邪魔だって消えろだって消滅しろだって」

「そこまで言われてないよな!?ボクだけ聞こえなかったの!?」

「うるせぇ、まじ消滅しちまえ」

「何故!?」


本当に黙れよ。あたしは肩を竦めてナヤの口を塞いだ。疲労が溜まると彼のお喋りも頭にくるな。


「あ、それは置いとけ。昨日の礼に拝見させてもらう」

「そう…壊さないでちょうだい。メンテナンスに出すと日本に戻らなくちゃならないんだから」

「壊さねーよ」


カロライの希望でパグ・ナウは置いていくことになった。

軽く挨拶をしてからナヤと店を出て、ナヤともそこで別れてアパートに向かう。

 夜道で人気がない場所で白いナイフを投げて回してキャッチする。

これが億単位の価値か。

使うのが気が引ける。

買い揃えた武器だって億はいってないだろう。

…恐らく。

稼いだ金は数えていないため、わからない。実は億にいってたりして。あり得なくもない。


「…………」


アパートの前で足を止めて見回す。

見張られている気配はない。彼のトレードマークとも言えるバンもない。

藍さんの尾行も監視もないようだ。

勿論、部屋に盗聴器やカメラも仕掛けられてはいない。

藍さんの動きがまるきりないところを見ると、本当に……帰ってしまったのだろう。


「…ハンッ」


帰ってしまったのだろう、って。あたしが帰れと追い出したと言うのに。

我ながら自嘲して呆れてしまう。


「これでいいんだ」


この方がいい。

それでいい。

平穏で何よりだ。

ベッドに横たわる。

静寂の中、呼吸と鼓動しか聴こえなかった。

悪魔がまだ、沈黙してることは気にならなかった。






 翌朝。

カトリーナの元に向かった。

仕事が完了したことを報告。

これで遺産と安全が手に入った。


「あとは報酬の遺産だな、時間が掛かるんだろ。カトリーナはいつでも退院可能だ、でも命を狙われてた不安は大きいし、カトリーナの家は荒らされた。カトリーナの仮住まいが必要。俺が預かってもいいけど、男所帯だしなぁ…」

「あたしの部屋で構わないでしょ?カトリーナ」

「は、はいっ」

「おっ、決まりだな!よかったな、カトリーナ」


秀介が誘導したがそれは仕方ないことだ。報酬も欲しい。彼女が不安がるのもわかる。手続きが終わるまで自分の部屋に置いておくのがベストだろう。

それにしても。

秀介とカトリーナは仲が良くなったな。カトリーナは心を開いて話している。

始めより穏やかになって秀介と話しているカトリーナは純潔そうな娘に見える。パトスが唯一信頼して遺産を残した女なのだから純潔か。生前のパトスを知らないが。


「もう退院しちまう?」

「そうね、貴方をタダ働きさせるのも悪いし。今日あたしの部屋に行きましょうか」

「俺もついでに」

「却下よ」

「クスクス……」


あたしと秀介のやり取りを見てクスクス笑うカトリーナ。

秀介は医者に伝えると病室に出た。

狩人の鬼をタダ働きさせるのも、病院にくるのも嫌だったのでさっさとカトリーナを部屋に連れていこう。


「仲が良いですね」


カトリーナが言う。

否、こちらの台詞だ。


「ポセイドンさん、貴女の話ばかり。凄く愛されていますね」


穏やかに微笑んでカトリーナはあたしに言った。

愛されているというならカトリーナの方だ。と言ってもパトスは亡くなったのでそんなこと言えない。

そもそも愛されていても、秀介は恋人ではないのだから。とも言えない。


「あたしの話ばかりでしたか」

「はい…あの人に愛されて幸せですね、黒猫さん」

「……そうですね」


愛されるということは、本当に幸せなことなんだと思う。

でも。

あたし。

本当に愛されて、いいのかな?


「…………」


口を開きかけて、あたしは閉じる。

そんな馬鹿げた質問を。

あたしは、口にしようとしていた。

カトリーナに訊こうとしていた。

 あ……。

何故?と考えたら直ぐに答えが出てきた。

愛されているところが、その穏やかな微笑みが、彼女(、、)に似ていたからだ。

純潔な笑みを、あたしはいつの間にか彼女と重ねていた。

あーあ。

部屋に招いたことを、少し後悔。

 秀介の車で送ってもらい、カトリーナを部屋に上がらせた。

コクウがまた料理を用意して待っている可能性が過ったが、コクウはいなかったので胸を撫で下ろす。

秀介にバレて騒がれたくない。

あ、でも秀介はコクウに喧嘩を売られていると思って騒いでいただけだった。その誤解は黒の集団と話して解いただろう。

黒の集団に入ったと知っても大した反応はしないかも。

秀介に知られれば、篠塚さんや白瑠さんに知られるかもしれないから、隠しておきたい。


「自由に使って構わないから」

「はい。…ハクチュン!」


ベッドにカトリーナの数少ない荷物を置いておく。いじって欲しくない物は、ベッドの下にあるトランクぐらいだから大丈夫だ。

カトリーナがくしゃみをしたと思えば連続でくしゃみをした。何かのアレルギー反応?

アレルギーになるものが部屋にあったっけ?と首を傾げて探す。


「ね、猫アレルギーで……」

「にゃ」

「わっ?…なんでお前、いるの?」

「あー!猫だ!」


カトリーナが答えたあとに聴こえた鳴き声。足元を見れば、コクウの元にいるはずの黒猫がいた。

秀介は見付けるなり抱える。


「くしゅんっ」

「ごめんなさい、カトリーナ。勝手に入ってきたみたい…秀介、やめなさい」

「えー。椿のペットじゃねーのか」


すぐにじゃれた秀介から黒猫を奪い取り、カトリーナから離す。

秀介はこれからカトリーナを連れて家に向かうのだから触るな。


「換気しておくわね」

「はい…」

「じゃあカトリーナの家に行くか」


二人が言っている間に、あたしはこの猫を送るついでにパグ・ナウを取りに行こう。

二人と別れて、あたしはカロライの元に向かった。

差し入れに何か買って行こうかと思ったが、馴れ馴れしいとカロライが調子が狂うと文句いうのでやめておこう。

カトリーナと少しの間、同居するならば食事を用意するべきだろうか。めんどくさいな。

食事なら秀介が面倒見てくれるだろう。

遺産絡みに慣れているらしく、遺産の手続きも秀介が面倒見てくれるそうだ。

何かと便利。


「お前は何か食べる?」

「にゃ」

「コクウからちゃんともらってるの?食べ物」

「にゃ」


何も言わなくても後ろをついてくる黒猫と話しながら行く。

店に寄って餌を買ってやった。

カロライのとこで食べさせてやろう。


「ハロー」

「………………ハロー」


まだ地下の店にカロライはいた。

あたしの来店に、彼は変な視線を送ったが受け入れたのか挨拶を返してくれた。


「猫アレルギーじゃないわよね?」

「散らかすなよ」


許可をもらってあたしは黒猫に餌をやった。カロライはパグ・ナウを横に置いて、何かを作っている様子だ。


「パグ・ナウ?」

「まぁな」

「ふぅん」


あたしのパグ・ナウを見て、自分のパグ・ナウを作っているようだ。

カロライがどんなパグ・ナウを作るか、個人的に気になる。


「……………貴方、クラッチャーを知ってるのよね?」

「スカルクラッチャーか?知ってる」


カロライが初対面に言ったことを思い出してあたしは訊いてみた。


「彼の無茶な殺し、間近で見た口振りだったわね」

「黒の殺戮者とは黒の集団の中でディフォの次に付き合いが長い。クラッチャーとの対決も何回か見た」


成る程。コクウと付き合っている最中で白瑠さんとの対決を見たようだ。

あたしは一度も二人の対面を見たことがない。


「化け物だな、あの男。人間のくせに」


嘲笑うようにカロライは言った。


「……」


否定も肯定もしない。


「何をしたら片腕で人間の頭蓋骨を破壊することが出来るんだ?破壊というより粉砕。吸血鬼と素手でやり合う人間なんて歴史の中を探しても、あの男だけだろうな」

「……そうね」


きっと他にはいない。

彼のような人間はいないし、彼のような人間が今後現れないことを願う。現れてはいけない。

影さえも真っ白な彼。

化け物と呼ばれても笑いのける人。危うい白さの無邪気な人。


「…化け物でも、人間は人間よ」


猫を撫でてあたしは呟く。


「人間と言っていいものか迷うがな」

「人間だ。頭蓋骨を粉砕して撒き散らしても、あれは人間の力。悪魔の力を借りてないちゃんとした人間の力なんだから、人間と呼ぶべきよ」


そうだ。彼は、人間。

あたしよりも人間。

人間なんだよな。

人間でありながら、裏現実の化け物。


「ほらよ」


ぽんとパグ・ナウが目の前に投げられた。

意図がわからないがあたしはそれを手に取り、見てみる。

あたしのより軽い。コンパクトさは同じくらい。刃は四つ。短いわりには鋭い光を放っている。

一晩でここまでのクオリティーで出来るとは、流石黒の集団に誘われた武器職人だ。


「すごいわね、流石はコクウが仲間に入れるだけある」

「やる。こっちよりは便利なはずだ」

「それに自信家。どうかしら…使って見なきゃわからないし」

「フン、使ってみれば一目瞭然だ。火都もこっちに乗り換えた方が得策だぞ」


口元を吊り上げて少しだけ笑う。

なんだ、案外カロライとは打ち解けそうだ。

乗り換えることはないと思う。松平の武器は気に入っている。

とりあえず貰えるなら貰っておこう。


「そうだ、ポセイドンとこの前喋ってたわよね?何の話をしてたの?」

「お前に喧嘩を売るのかどうかを黒に問いただしてた」


ああ、やっぱり。

秀介が問いただす光景が安易に想像できた。怖いもの知らずだからコクウ相手でも怒鳴り付けただろう。

じゃあ誤解も解けたんだ。

だから黒の集団の話をしないのか。


「喧嘩は売らないと黒が答えた」

「うん、よかった。煩かったのよ」

「煩い登場だった。答えを訊くなり交友的になった」

「元から交友的なのよ」


だからカトリーナとも仲良しになったし。敵意さえ抱かなければ誰とも仲良くなれる。


「それから黒は、お前を仲間に入れたがっていると話した」


……………。


「…………え?」


あたしはひきつった笑顔で聞き返した。






「ハーイ」


秀介の車で送られたカトリーナを出迎える。家から持ってきた荷物も少ない。


「じゃあまた明日。椿、愛してる」


秀介は車から出ず、あたしに投げキッスしてから走り去った。秀介はオープンカー好き。

 黒の集団の勧誘を知っていて、秀介が何も言わないのは何故だろう。

答えは簡単だ。

秀介はあたしが断ると思っているから。

あたしの居場所が白瑠さん達だと、言った言葉を聴いたから、黒の殺戮者の仲間にならないと思っているのだろう。

だからこそ。訊かないんだとあたしは解釈しよう。

その予測を大いに裏切ったことに罪悪感が沸くが、白状したくないので黙っていようか。あちらが会話に出さない限りバレないだろう。


「ずいぶん、荷物が少ないのね」

「小さなアパートの部屋だったから…必要なものはこれくらいしかなくって…」


服の入ったトランクが一つと鞄が一つ。

カトリーナの仕事は夜のストリップバーでのウェートレスだった。生活ギリギリで決して裕福ではなかった故に少ない荷物。

最も、金さえあるなら小荷物で構わない。

自分が出ていった時を思い出す。

本当に必要な物は、あまりなかった。いざとなれば切り捨てる。


「食事は?」

「とってきました」


気が利くじゃないか。

どちらにせよ、いつかは食事を作らなくてはならないだろうから買い物をしておこう。

 カトリーナとの同居は五日続いた。

その間、秀介が付き添いカトリーナが弁護士と話し合い。


「飲もうぜ!!」


五日目の夜にカトリーナと一緒にお酒を抱えた秀介が訪問。

あたしは禁酒をしているからと断った。

酔う前に現状を聞けば、明日カトリーナの銀行に遺産が入るそうだ。

あとは引き出してあたしに払うだけ。

万事解決。

ふぅ、よかった。


「椿も飲もうぜ!」

「飲まないって言ってるでしょ」

「俺、明日からついていけねーから」

「そうなの?」

「おう、相棒が心配だし」


相棒。篠塚さんのことか。


「そうね、あの人を放っておくのは不味いわ。危険なことに首を突っ込むのが得意な人だから」

「ぷはっ!そうだっけ?まー相棒と仕事するから気を付けてな?明日は振り込まれたか確認するだけだから大丈夫だと思うけど」

「あ、はい…大丈夫です」


話をしながら二人は缶ビールを飲んでいく。もうカトリーナの頬は赤みが出ている。お酒に弱いようだ。


「君のことだからまた大仕事なの?」

「おう、大仕事。ブラジル行って、日本行って、ロシアに行くからまた椿に会えなくなるんだよ」


しゅんと眉毛を下げて答える秀介。

流石は狩人の鬼。引っ張りだこだ。あちこち飛び回るのか。


「日本、に行くんだ?」

「うん」

「………」

「多分会わねーよ。アイツは今、休業状態だから。会っても話さないから安心して」

「…ええ、お願い。篠塚さんにも話さないでね」

「まっかしぇなしゃい」


あたしの言いたいことを言い当てて秀介は約束してくれた。恐らく会わないだろう。仕事をしてないらしいし。

頭蓋破壊屋の白瑠さん。

 あたしは些細なおつまみを作ってやる。

二人はどんどんと飲み干し、空の缶が十近くになれば潰れた。


「早……」


テーブルに突っ伏したカトリーナと秀介を呆れてみる。

あたしはどうすればいいんだろうか。

秀介はソファに運び、カトリーナをベッドに運ぶ。…あたしの寝る場所がないぞ。


「秀介、泊まらせないわよ。酔いさまして帰ってちょーだい」

「んーう」

「椅子から突き落とすわよ」


日本語で秀介の耳元で囁けば、唇が塞がれた。

不意討ちにキスをされてしまった。

この酔っ払いめ。

グイッ。

ひきつった瞬間、首に腕が回されて引っ張られた。

重なる唇、アルコールの味が伝わる。


「ん、しゅ」


強引にされるキスを振り払おうと回された腕を外そうとしたが、彼は強く抱き締めて放さない。

ぐらり、椅子から落ちるかと思ったがこの酔っ払いは器用に椅子から降りて、あたしを抱き締めたまま後ろに歩く。

酔っているのか?わざとなのか?

カトリーナがいるのに。いてもいなくてもこの行為は怒る。

くしゃりと秀介の左手があたしの髪を握り締めた。右手はあたしの腰を握る。

どこに向かって歩いているかと思えば、あたしのベッドだった。

最近はカトリーナが使っているベッド。

そこにドサリと押し倒された。

う、そ…?

上に覆い被さるように乗る秀介の目は、マジだった。

酔ったトロンとした目だが真っ直ぐとあたしを見つめている。

あたしの顔の隣に手を置いて、ゆっくりと顔を近付けてくる秀介。


「しゅ…う?ん、ちょ」


声をかけたが返答はなく、代わりにキスされる。ついたり離れたりを繰り返す口付け。

それに戸惑う。

何度も秀介にキスをされたが、大抵は挨拶的なキスだった。

このキスには妙な違和感がわき、頬が熱くなる。

この感じ、前にも味わったことがある。

白瑠さんに初めてキスされた時だ。

本人は記憶がないが、白瑠さんも酔っていた。

く……くそ!酒なんて嫌いだ!敵だ!禁酒じゃ避けられない!


「はぁ、つばきっ…!」


秀介の行為がエスカレートした。

強引で深いキス。

これは。本当にまずい。

一線を越えてしまいそうだ。

いや、だめだめだめ。

あたしは酔ってないんだから一線を越えさせるなっ!


「椿…ああ、愛してる」

「…っ」

「愛してる」


熱のこもった吐息とともに囁かれる愛の言葉。

こんなときに云うのは、卑怯だ。


「っ……しゅう」

「…椿…」

「んっ…」


愛してくれる秀介と、一線を越えてしまったら。一体どうなるんだろう。

何度もあたしを愛していると云ってくれた秀介と一線を越えたら?

どうなってしまうんだろう。

白瑠さんと違って、困惑して気まずくはならないとは思う。多分、照れくさくなる。

それで、そこから。

うなじを撫でられ、髪を掻き上げられて声を洩らす。

そこ、から…──────────────────────。


「秀介」


目を合わせずに、秀介の名前を呼ぶ。

それは自分でも驚くほど、冷静な声だった。


「秀介」


もう一度呼べば、秀介は動きを止める。あたしの額の上。


「椿、愛してる」


秀介は言う。

懲りずに云う。

何度でも云う。


「椿だけを愛してる」


永遠に云うだろう。


「俺のものになって」


耳元で苦しそうに囁かれた。


「俺は椿を、誰よりも愛してる。愛してる。愛してるんだ、椿」


それは知っている。

そして答えも、知っているでしょ?

沈黙が、流れた。ほんの少しの間。


「黒の…殺戮者が、仲間に、欲しがってるんだって?」


秀介は、その話を持ち出した。

なんで、今なんだ?


「誰もかれもが、椿を欲する。虜にしちまう。俺、怖いよ。椿が盗られるのが」


自嘲を含んで吹き出して笑い出す秀介は白状する。


「クラッチャーの次は黒に……椿を盗られるかもしれねぇって」


酔った勢い、酔っているからこそ喋る秀介の言葉をあたしは黙って聴いた。


「それなら、また拐われるなら!俺が拐ってしまいたい!無理矢理でも椿を俺の物にして連れ去りたい!このまま椿を犯して、ここから連れ出して……白も黒とも離してっ」


しまいたい。

悲鳴みたいな、声だった。

見上げる秀介の顔は、辛そうで苦しそう。

そんな顔にしてるのは、あたし。あたしだ。


「でもっ、そんなんじゃ…俺は嫌なんだ。椿を愛したい…!永遠に!椿を愛して、愛されたいんだ!無理矢理でも強引じゃなくて…!恋して、好きあって、愛し合いたいんだ!だから、だからっ、だから!」


こんな風に苦しそうに言葉を紡ぐ人間を最近見たな、と頭の隅っこであの藍さんを思い出す。


「俺を見て、椿」


今にも泣いてしまいそうな、表情(かお)


「俺を好きになって、椿」


胸が苦しそうな、表情(かお)


「俺を愛して、椿」


愛しくて愛しくて、苦しくて仕方ない表情(かお)だ。


「誰のところにもいかないで」


それを最後に、秀介はあたしの胸の上に倒れて動かなくなった。

酔っ払いが落ちたようだ。

────嗚呼、今のが秀介の本音なのか。

云わない本音。

いや、あたしが落ち込んでいて言おうにも言えなかっただけかもしれない。

コクウが誘っていると知った。白瑠さん達と距離を置いていると知った。

でも自分の元には来ない。

椿は断るはずだ。今は距離を置いているだけで必ずクラッチャーの元に戻る。そんなの、嫌だが。

でも、でも、もしかしたら。椿は黒の集団の方に行ってしまうかもしれない。

クラッチャーに惹かれて行ってしまったように、黒の殺戮者の元に行くのかもしれない。

俺を選ばず、あの男の方を選ぶのかもしれない。

とそんなことをずっと考えていたかもしれない。胸の奥で思っていたのかも。

どうしてこんなにもあたしを愛してくれるのか、理解が出来ない。

そしてそれに応えられないあたし自身も、到底理解出来ない。

愛してほしいなんて望んでいないあたしに、どうして二人は愛しているなんて言うんだ?

否、本当は愛して欲しいんだろう。誰よりも愛を欲している。欠けた親の愛情を埋めるように求めているかもしれない。

だけど愛せないし愛される資格がないからと怯えているから。

応えられない。

愛せない。


「胸が、苦しいよ……秀介」


あたしの胸に耳を当てて眠っている秀介に言っても、意味はないんだけどね。

ドクン、ドクン。

ねぇ、秀介。

あたしの鼓動、聴こえる?

ドクン、ドクン。

聴こえるなら、あたしは生きてるよね。


「あの日からあたし────────────────生きてる感覚、失くしてるんだ」


 それはいきなり突き落とされたせいなのか、あの電話に出る前までが幸せすぎたせいなのか、或いは彼女の死があまりにもショックだったせいなのか。

地獄の電話に出た瞬間、血の気が引いて、生きている感覚がなくなった。

この一ヶ月。自分は死んでいるのではないかと、自傷行為をして何度も確かめた。

あたしは奇しくも、地獄に招待されたようだ。

地獄にいる。あたしは、死んでいるのかもしれない。

生きながら、死んでるみたいだ。

生きながら死んでるくせに、忘れられない。

忘れられなかった。

 例えばだ。朝目を覚ますとコーヒーの匂いが香る。その匂いで、幸樹さんがテーブルにいると思い見てみれば由亜さんがそこに座って──────。


「あ、おはようございます」

「………おはよう」


相当きているな。あたしはベッドから降りて、テーブルにいるカトリーナの元に歩む。


「貴女はお酒が弱いみたいですね」

「昨日は少し飲み過ぎちゃいました…」


眉間にシワを寄せ眉毛を下げて苦笑する顔が、彼女と似ている。嗚呼、本当にどうかしている。

秀介は朝陽が昇らない内に帰っていった。一緒にベッドにいたことに驚きを隠せず「え?何かした?」と訊いた様子からして記憶はないらしい。眠かったのでないと断言して追い出してやった。


「今日は入金の確認だけよね?あたしもついていくべき?」

「あ、いえ、大丈夫です。確認するだけですから」

「そう」


さっさと報酬を受け取って同居生活を解消したい。

 朝食を簡単に済ませ、カトリーナが外出したあとあたしは一人ベッドの上で写真を見た。

 家族写真みたいな一枚。

白瑠さん、幸樹さん、由亜さん、藍さん。

そこに映っている自分が、一体誰なのか疑問に思ってしまうくらい。今のあたしと違うように見えた。

この写真の少女は、一体何処?

この写真の少女は、死んだ。


「クハハハハハッ!」


そんなあたしの思考を聞き取って笑う悪魔が一匹。

あたしは写真をコートの裏ポケットにしまい、久しぶりに口を開いたヴァッサーゴに声をかける。


「最近やけに黙ってたわね。カトリーナがいて緊張でもしてたのかしら?」

「それはお前の方だろ」


…………チッ、この寄生虫。

喋ってやればいい気になりやがって。このカス。カス。カスカスカス。


「声に出して言えよ」

「チッ、この寄生虫。喋ってやればいい気になりやがって。このカス。カス。カスカスカス!」

「まじで言うな」

「口を開けば文句ばっかり!このカスカスカス!」

「るせーよ!お前もるせーよ!」


せっかくお喋りに付き合ってやってるのに失礼な奴だ。


「ヤればよかったじゃねーか、ポセイドンと」

「るせーよ、酔っ払いとなんて二度と御免だ」

「白野郎は酔ってなかったぞ」

「顔だけ出せ、首を切り落としてやる」

「クククッ!愛されればきっと愛せたんじゃねぇか?」

「それはない、白瑠さんと同じだ」


あたしは断言する。

あまりにもはっきりと断言したからなのか、ヴァッサーゴはその話を続けなかった。


「最近、白野郎に会いたがってるな。会いたいなら会いに行けばいいじゃねーか」

「お前の言う通り、あたしは拗ねてる。拗ねた餓鬼だ。拗ねて家出をした。んで帰らない」

「………」

「会わないよ」

「………」


思うようにあたしを逆撫でできなかったのか、ヴァッサーゴは沈黙した。


「開き直ったのか?」

「お前には筒抜けじゃないのか?」

「変態縁眼鏡野郎と会って死ぬ気満々だったくせに急に止めたのはビックリだったぜ」

「そう言えば、自殺を止めなかったわよね」

「黒野郎はお前を殺さねーってわかってたからな」

「ラトアさんの時と同じこと言ってる。あたしを殺さない吸血鬼はアンタの味方なわけ?」

「宿を壊さねーならな」


ヴァッサーゴが寄生虫ならあたしは宿か。言ってくれるな、この悪魔め。

フン、と鼻で笑い退けてから頬杖をつく。


「いつまで我慢大会を続ける気だ?ズルズル引きずってねぇでさっさと帰ったらどうだ」

「あら?変ね、帰る場所、ないんだけど」

「ククッ。いつまで続くかな?忘れられず、どうせお前は帰る。あの家にな。お前が出てきた場所だぜ、家出少女」

「賭ける?あたしは戻らない。忘れられなくても。戻ることなんてないわ」

「この調子なら直ぐにでも恋しくなって衝動的に会いにいくぜ、椿」


この調子?

それはどのことを指しているのだろうか。

カトリーナが由亜さんにダブって見えることか。あの写真を見ていることか。黒の集団に属したことか。白瑠さんを思い出しては沈んでいることか。

この疑問を聞いているくせに、ヴァッサーゴはただ喉で笑うだけで答えてはくれない。

腹立たしい寄生虫だ。

 二時間ぐらい経ってカトリーナは戻ってきた。慌ただしく入金されていたことを報告して、報酬を今から引き出すかと問われたが明日にしようと答える。

今日はカトリーナの住むアパートを探して荷物をまとめ、明日使う金を引き出そうと言うことに決めた。


「じゃあアパートを決めて、買い物をしましょう」

「あ、はいっ」


カトリーナは頷き、また慌ただしく支度を始めた。

バタバタすると由亜さんに見えて仕方ない。これは末期症状かもしれない。だからヴァッサーゴがあんなに自信たっぷりなんだ。

でも衝動的に帰るなんて、到底思えなかった。

有り得なくもない。

思い立ったら、いつの間にか行動してしまうことがある。

思い付きで、吹っ切れたように、まさに衝動的に帰るかもしれない。

そう思ったが、やっぱりそれはないなと否定をする。

胸に感じる重苦しさがそう思わせる。

この思考について、ヴァッサーゴの冷やかしはなかった。

絶対お前は衝動的に帰る。とか悪魔の囁きをしそうなのに、またカトリーナがいると黙る。本当に緊張でもしているのか?わけがわからない。


「この部屋にするの?」

「ええ、やっぱりここにします。…だめでしょうか?」

「いいえ。貴女の家よ、貴女の好きなようにするべきよ」


空室のアパートに訪問して中を覗く。

一昨日は別のアパートに決めて、秀介とそのアパートの良さについて語っていたのに。

気が変わったらしい。


「ポセイドンさんに連絡しないと。家に招く約束をしたんです…黒猫さん、伝えてもらえないでしょうか?」

「連絡先を教えてもらったでしょ?あたしは彼に連絡しないので」


頻繁に取り合う習慣を持ち合わせていない。まめに連絡を取るのは苦手だ。

そう言うとカトリーナは眉毛を下げて「とるべきですよ、きっと彼は喜びます」と助言する。

別に付き合っていないので連絡して喜ばす筋合いはないが、もう会わなくなるので今更誤解を解くなんて面倒だから適当に頷いておいた。

 管理人と契約を結び、明日支払えばあの部屋はカトリーナの物になって同居生活解消だ。

あたしの部屋に帰る前に食べ物の調達。

帰り道を歩き、あたしのアパートの部屋に来て、そこでヴァッサーゴが口を開いた。


「誰かいるぞ」


その一言を聞いてドアノブに手を置いて、耳をすませる。やけに静かだ。

気配を消しているが、血の匂いがする。

殺し屋だ。

吸血鬼の気配ではない。コクウじゃないのは確かだ。

この五日間、連絡のなかった黒の集団の誰かでもないだろう。

そうだろ?ヴァッサーゴ。

ヴァッサーゴは答えなかったが、それが肯定だ。

カトリーナを狙う残党か?

はたまた違う追手。名を馳せたくって紅色の黒猫を狙いにきた輩か。

ああ、最悪だ。武器をあまり所持していない。刃の短いナイフや短剣しか持ち合わせていない。

平然と入り、ベッドの下から抜き取って瞬殺。

否、侵入したならば武器を別の場所に移した可能性がある。期待はできない。

まてよ。と思い出す。

コートのポケットにカロライのパグ・ナウが入っていた。ナイス。

ぶっつけ本番。これが使えなかったらカロライの腕は最低決定だ。

そのカロライ作のパグ・ナウを左手につけて、心の準備をする。カルドがあれば助かるんだけどな。


「黒猫さん?」


いつまで経っても中に入らないあたしに疑問を抱いて首を傾げるカトリーナ。

彼女はどうしよう。

ここで待ってもらうよりあたしの側にいた方が守りやすい。

某次期大統領の美女の護衛をした時のように。

抱えていた買い物袋をカトリーナに持たせ、なるべく寄り添うように一緒に部屋に入る。

部屋の中は異様なまでに静かで、違和感がある空気に包まれていた。

四人、か。人数を読み取る。

それならば大丈夫だ。

 ガチャガチャ!

殺し屋は飛び出すのと同時に銃口を向けてきた。

リビングの方に一人、窓の前に一人、ベッドの方に二人。挟まれた。

しかし向けられた銃はマシンガンでもガトリングでもない。たった四人ならば、ヴァッサーゴに守られなくても弾丸を叩き落とせる。

あたしはカトリーナを床に押し付けてからパグ・ナウの爪を出し、ナイフを手にした。

その瞬間にも発砲されるが、身体をずらして避ける。あとから弾丸が飛ばされるがそれも無駄のない動きで爪とナイフで弾いていく。

全ての弾丸を見極めて、避けて叩き切る。

 その時だ。

身体に衝撃を喰らう。

バンという先程から聞こえた銃声とは違う銃声とほぼ同時だった。

銃弾の嵐が止む。あたしの身体も止まっている。

胸に熱を感じた。

──────鼓動は、感じない。

チャラ、と服の間から椿の花のモチーフのネックレスが垂れた。

胸から血が滲み、ボタボタと足元に落ちているのを目の当たりにする。

身体が今更、倒れ落ちる。

倒れて、見えた。

あたしの背後にカトリーナが立っていて、両手で握られた銃が。

カトリーナに背後から撃たれ、心臓を貫通したと理解した。


「ゴボッ」


喉から込み上げたものを吐き出す。血だ。肺も損傷したらしい。

咳き込む力は、どうやらないみたいだ。

ただカトリーナを見上げた。

笑っている。あまりにも似合わない不適な笑みだった。

…似合わない?いや違うな。

銃を持ったカトリーナには似合う。似合わないのは、似合わないのは、由亜さんだ。

バカだな。本当にバカだ。

多分パトスのことは愛していたはずだ。最後のプレゼントを必死に探してと頼んだのも、演技じゃないはず。

ただ、遺産に目が眩んだだけだろう。欲が出て、あたしへの報酬が惜しくなったんだろう。

秀介がアメリカを発ち、そしてあたし達が頻繁に連絡を取り合わないと知り、殺し屋を雇った。

カトリーナはしっかりと聞いていたんだ。秀介が長い間アメリカを発つと。そして引っ越し先は秀介の知らないアパートを選び、あたしを殺して姿を眩ます気だったんだろう。

秀介はいない。あたしさえ排除すればいい。

そう推測だが理解した。

リビングにいた男が近付いてあたしの頭を踏みつけたので、その足を引っ張り爪で喉を引き裂いてやる。

ふむ。中々の切れ味だ。

指を動かせば柔らかい素材なのか、爪も動く。本当の爪みたいだ。

 ガウンガウンガウン。

あたしが起き上がったことに動揺したが殺し屋の三人は発砲した。あたしは避けない。だが当たらない。

今度は悪魔のバリアーが作動したようだ。

爪だけで、窓際にいた殺し屋を切りつける。腹を切り、腕を切り、首を切り裂く。

次はカトリーナ、の後ろにいる殺し屋にナイフを投げ付ける。額に命中。

残りの殺し屋の腹に爪を突き刺し、心臓目掛けて食い込ませる。傷口を広げて爪を抜き取ってベッドに押し倒す。

バタリと死体はベッドの上に倒れる。


「…全く、騙された」


あたしは自分の血で濡れた口を開く。血の味が感じられない。

鼓動も感じられない。

カトリーナはさっきの不適な笑みはどこへやら、蒼白な顔になっていた。


「また笑顔を見破れなかった。いや、由亜さんがいい人過ぎたんだ。たっく。あの人と貴女を重ねていたなんて…幸樹さんに怒られちゃうな。はは、ヘドが出る」


反省してゴボッとまた血を吐き出す。どす黒い塊。

何やってんだよ、ヴァッサーゴ。

さっさと治せ。


「ば、化け物!」


カトリーナはまた両手で握った銃を向けてきた。

化け物、ねぇ。


「うん、銃じゃ死なない」


あたしは肯定して言う。


「バカヤロー!避けろっ!!」


震えていたカトリーナの手。

ヴァッサーゴが叫んだ直後に発砲された。反射的にあたしは避ける。

バカヤローじゃねぇし。避けろってなんだよ。今まで頼んでもないのに弾丸を弾いてたくせに。

フラりとよろめいたが、そのままよろめきに合わせてカトリーナに歩み寄って、左腕を振り上げた。

すぱん、とカトリーナの首は飛んだ。

これは松平からカロライに乗り換えることを考えてもいいかもしれない。至極いい作品だ。いい切れ味だった。

 フラリ。

後ろによろめいたが、なんとか踏みとどまる。

ゴフ、と喉からまた血を吐き出す。


「V……はやく、なおせ」

「うるせ!!喋るんじゃねぇ!!」


ヴァッサーゴは珍しく声を上げた。

頭の中に響いて煩い。

意識がぼやけてきた。

首を垂らしたまま立ち尽くす。

ポタリ。ポタリ。と唇から伝う赤い雫が落ちていく。

静かになったが、やはり鼓動は聴こえない。

おい、ヴァッサーゴ。


「うるせぇっ!!今やってるっ!」


焦った声。これは手間取っているらしい。

嗚呼、息苦しい。酸素がほしい。こんな血の匂いが混じった空気じゃなく、新鮮な空気がほしい。

片方の肺が損傷したせいで呼吸がままならないせいなのか、或いは心臓が止まって酸素が回らないせいなのかもしれない。

心臓って何分止まったらいけないんだっけ?

何気長くても平気だった気がする。ある時間を過ぎると、酸素のこなかった脳に障害が残るんだっけ。

そんなことを思いながら、フラフラと部屋を出て、階段を上がる。

新鮮な空気を求めて、屋上に向かった。

だけど肺が片方機能しないせいか、血が喉に詰まっているせいなのか。新鮮な空気なんて吸えない。


「V…」

「わかってる!!」


何分経った?

まだ焦っている声。これは手間取っているらしい。

骨折も傷跡も一瞬で治すくせに、どうして今回は手こずっている?


「うせっ!!黙ってろっ!!」

「V………ぶい…」

「治してやってんだから大人しくしてやがれっ!!」


これ以上ないくらい大人しいだろう。頭の中で騒ぐな。

何分経っただろう。

心臓に穴が開いても人間は立って喋るもんなんだろうか。

これは悪魔の力なのか、人間の力だろうか。その答えは出た。

あたしは仰向けに倒れる。

どうやら人間の力だったらしい。そして限界だ。

ゴフ、と喉から血が溢れ出るが口から出す力が、あたしにはなかった。

意識が徐々に遠ざかる。

落ちる感覚。身体が沈む。

これは何度も味わっている。

鼓動はない。

今、まさに死んでる。

何度も感じた死だ。


「ぶい…」

「黙ってろつてんたんだろ!」

「…っい…───」

「!?、おい!待て!待て待てっ!肺も心臓も…もう少しで治る!意識を手放すんじゃねぇ!!」


────寝てんじゃねぇ!!

────起きろ!起きろ!

────起きやがれ!椿!

────起きろ!

────おい!起きやがれ!

────椿!

────椿!椿!!

────起きろ!椿!

────バカヤロッ!

────目を開け!

────息をしろ!!椿!

────起きやがれ!

────死ぬんじゃねぇ!!

────てめぇっ椿!

────許さねぇぞ!!

────おい!椿!

────死ぬな!!椿!


頭の中で響いているはずの声は、どんどん遠くなり消えてなくなる。

とうとう、何も聴こえなくなった。

真っ暗だ。

真っ黒な闇の中。

静まり返った暗闇。

それが死。

これが死。

感覚はない。

鼓動もない。

暗闇の中の、無だ。

何も視えない。

何も感じない。

何も聴こえない。




死んだ。










由亜さん………



藍さん………




幸樹さん……





白瑠さん……





















「──────ゲホッッ!!ゴボッ、ゴホッゴホッ!!」


少し長い間暗闇の中にいたが、意識は戻り口に溜まっていた血を吐き出す。

少し長い、と言っても意識がなかった間がどれくらいだったかなんて正確にはわからない。

視界が回復する。

開くのがしんどい瞳で視えたのは、白く整った顔を黒髪が引き立てている吸血鬼のコクウの心底安心した笑顔だった。

そんなコクウはあたしの吐き出した血を受けて、顔を真っ赤に濡らしている。

どうして貴方がいるの?

口に出さなくてもコクウに伝わった。


「覚えのある血の匂いに誘われてみれば悪魔の喚き声が聴こえてさ。来てみれば椿が血塗れで心肺停止状態だったから心臓マッサージで生き返らせた」


微笑んで簡潔でわかりやすく答えてくれたおかけで大体わかった。傷は塞いだが、心臓は動かず呼吸まで停まったあたしを、コクウが間一髪助けたのか。

……生き返らせた。

左手で確認しようとすれば、パグ・ナウの爪が出っぱなしだと言うことに気付く。

するとコクウがボタンを押して爪を引っ込めてくれた。

あたしはその手を掴み、自分の胸の上に乗せる。

口元についたあたしの血を舌で舐めとってコクウは首を傾げた。

自分の指で触れて確認したら、血に濡れた服に穴だけ空いていて、肌には穴はない。ヴァッサーゴはちゃんと治した。


「心臓、動いてる?」


あたしはコクウに訊く。

胸に手を当てているコクウに問う。


「うん、動いてる」


コクウは微笑んで答えた。

ドクン。ドクン。

心臓の鼓動を感じる。

コクウの手の下にある心臓が動いていることがわかった。

ドクン、ドクン、ドクン。


「椿は生きているよ」


コクウは顔を近付けてそう言った。

その言葉は間違いではない。あたしは生存を確認している。自分の生存を、胸の鼓動で確かめていた。

ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。

また動き出す鼓動。

ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。

ゆっくりと一定のリズムを打つ。

ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。

あの人が止めないと言った鼓動。

ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。

 この鼓動。

 俺。

 止めるつもりなんて、

 ない。

ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。

誰にも止められない鼓動。

その鼓動は動き続ける。

何度でも、動き出す。

生きている証の鼓動。

ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。


「生きてる」


ドクン。ドクン。ドクン。

あたしは生きている。

ドクン。ドクン。ドクン。

生きている。

ドクン。ドクン。ドクン。

生きています。

ドクン。




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