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面倒事と仕事



 簡潔に言えば、黒の集団の初舞台は成功に終わった。

終わるなりチクリ屋は情報を広げるから、裏現実に知り渡ることになる。

きっと大騒ぎになるだろう。


「椿も打ち上げしようぜ!」

「あたしは何も……嗚呼、ハッキングしたんだっけ」

「ひぃっ」

「あんまバリューを苛めんなよー」


 帰ろうと思ったが遊太に手を引かれて部屋に入る。バリューが藍さんにチクらないように見張っておかないといけないし。

機嫌がいい黒の集団は酒とつまみを抱えてソファや椅子を集め、祝勝会を始めた。

 結局、目的はわからない。

教えてもくれなかった。

多分、レネメン達が一階で見張っている最中に別行動をしていたコクウと遊太が何かをしていたのだろう。

遊太だから、何かを盗んでたとか。

この行為自体、なんだか誰かに向けた挑発とも思える。

問題は誰か(、、)ってことだ。

やはり、戦争を目論んでいるのか。


「椿はワインでいい?」

「禁酒してるって言ったろ」

「はい、炭酸水」


 隣に座るコクウにワイングラスを差し出されたが叩いて押し返す。そうすれば向かい側から仕切る遊太が差し出してくれた。


「さて、諸君! 我等黒の集団の始動を祝して今宵は────宴だぁあっ!!」

「かんぱぁい!!」


 かなりノリノリの興奮した様子で乾杯。グラスがぶつかり音が響き、男達はその中に入っていた酒を一気に飲み干した。

「ぷはあっ!」といい声を出すのをただあたしは眺める。

 多いな。裏の仕事でこの人数は多すぎる。せいぜい五人が普通。

こんな景色は珍しいんだろう。

 ……なんだか、思い出すな。白瑠さんに、藍さんに、幸樹さんとの打ち上げ。


「いやぁ、めでてぇな。初仕事も終わったし、黒猫も仲間に入ってめでてーなぁ」

「は? 仲間に入ってねぇけど」


 記憶から意識を戻し、蠍爆弾の独り言に漏らしたそれに返事をする。

 しーん、と沈黙が降りた。

賑やかだった部屋が静かになったのは何故かな? 椿、わかんない。


「え? 仲間に入ってくれないの?」


 コクウはこれでもかと目を見開いてそう問う。ひねくれた策略家の予想外。


「はいんねーよ」

「は!? 今回の仕事が成功したら入るんじゃないのか?」

「んな約束はしてない。あたしはただ見学しただけ」

「そんなぁ……」


 黒の集団一同がそう思っていたらしが、バッサリと切り落とす。バリューの手前だし。黒のメンバーにははっきり言っておこう。

コクウは完全にモノにしたと思い込んでいたらしい。ハン、黒に勝ったぜ。


「じゃあなんでここに嫌がる? さっさと出てけ!」

「だって遊太に誘われたんだもん。帰るわよ」

「えぇ、やだぁー居てよぉー。帰らないでぇ、一晩で口説き落とすから」

「帰らせろ」


 カロライが不機嫌丸出しに怒鳴るからあたしは立ち上がったがコクウが掴み引っ張りソファに戻る。

一晩中策略の罠を目論む奴なんかと喋りたくなんかない。


「椿ぃ! いいじゃん! 今日楽しかったろ!? 仲間に入ろうぜ!」

「遊太、もう酔ったの? あたし、今日はハッキングして黒い画面見てただけなんだけど」

「じゃあ次は一緒にやろっか、椿」

「成り行きで仲間にする手には乗らん」

「椿ぃーんっ!!」

「んぅ、どうすれば仲間に入ってくれる? なんでもするよ、なんでも言って」


 コーヒーテーブルを乗り出して顔をぐいんと近付く遊太。その遊太よりも近付けてくるコクウが下から顔を覗く。

 なんでも。

この男はきっと。

文字通り、なんでもするだろう。

目的の為ならば、自分の身体だって売る男だ。


「本当に……なぁんでもするの?」


 少しだけ顔を近付ける。少しと言っても元から近いから、近距離だ。

あたしの前髪がコクウの顔にかかる。息だって触れていた。


「……なんでも、するよ」


 そっと、囁いてコクウは微笑む。


「……じゃあ……」

「ん……」


 またコクウが顔を近付ける。鼻が触れた。冷たい。

コクウはまた顔を動かし、そして────。


  パリンッ!


グラスが割れる音が聴こえ、あたしは顔を上げる。


「ひぃ……!」

「おっ、おっと……」

「おお……」

「は、ははは」


 身を乗り出す蠍爆弾とナヤと遊太が渇いた声を漏らす。グラスを落としたのは、バリューだった。


「お嬢さん、私もなんだってしよう。あんなことやこんなことまで、さ」

「アイスピックで刺し殺してもいいの?」

「あはは、それは無理さ」


 下心丸出しのアイスピックは一蹴。


「ちけーよ、退け。レネメン、おかわり頂戴」


 まだ目の前にいるコクウを押し退けて呆然としているレネメンにおかわりをねだる。

いそいそと一同はまた騒ぎ始めた。


「レネメンは何を飲んでるの?」

「カシスのカクテルだ」

「へぇ、いーな。あたし、カシス好きなんだ」

「飲むか? 一口」

「んー……。一口だけ、頂戴」


 隣のレネメンの持つ赤いカクテルに目を奪われて、誘惑に負けて一口だけもらうことにした。

レネメンの持つグラスから一口。

カシスの甘さと久しいアルコールが喉を通った。

「美味い……」とへにゃとして笑ってしまう。


「もう一口飲むか?」

「あと一口だけ」


 レネメンが笑ってもう一度勧めるから、もう一口。

そこに、かぷっ。膝の上にいた猫を撫でていた手を、噛まれた。


「にゃ!?」


 バッとみたら、噛んだのは猫じゃなくてコクウ。

いっせーのグーでパンチ。


「何すんだど阿呆!」

「間違えた。猫の耳を噛もうとしたの」

「てめぇ、何度噛む気だ?」


 短剣を出して突き刺したが刺さったのはコクウではなくソファ。華麗に避けられた。

「紅色の黒猫は猫だった」とポツリとナヤが呟く。


「これだけ流してもいい?」

「は? なにそれ。意味がわからないんだけど」

「紅色の黒猫は猫だった」

「……意味ワカメ」

「流していいんだな!?」

「あたしがいつ了承した言葉を発したんだ」


「くそぅ! これもだめなのかぁ! 畜生ぉ、紅色の黒猫のネタが流したいよー」


 情報が流せずナヤはまた項垂れた。やっぱり好きかも。彼のキャラは。

目隠しを外して初めてあたしを目視したナヤは大騒ぎした。

「超美人! 美人じゃん! 美人じゃん! 美人! 美人! 美人! 美人! 美人じゃん! 美人じゃん! 美人じぶんガブッゲフゴゴホゴホッ!! ……な、流していい!?」連呼しては噎せたのは至極面白かった。


「あたし帰るわね」

「ええ!? いーじゃん! 飲み明かそうよ!」

「それが嫌で禁酒したんだけど……」

「へ?」

「なんでもない。黒の集団だけで飲み明かしてちょうだい」


 あたしは立ち上がってスタスタと出口に向かう。


「あ、そうだ。チクリ屋(、、、、)」


 あたしは引き返して、そっとバリューの肩に手を乗せる。バリューは凍り付いたように固まった。


「あたしの情報は流さないでよ。もしも────白の殺戮者達(、)に黒の集団と接触したなんて情報が届いたなら、容赦しないわ」


 軽く、爪を立て、殺気を込めて言い放つ。


「白の殺戮者を怒らせるくらいなら、あたしは貴方達に喧嘩を売ってくたばる方を選ぶわ。その時、何人道連れに出来るかしら?」


 最後にバリューの耳元に言ってから、踵を返す。

さよならも言わずに、その家を去った。



 問題発生だ。

いや、コクウと出会してから問題ありまくりだが。

バリューの存在はまずい。

今ので脅したが、ちゃんと口止めをしなくてはならない。

藍さんにコクウと会っていることが伝われば、当然白瑠さんの耳にも届いて────大事になりかねない。

そんなの絶対避けないと。つうか恐い。何が怖いって。コクウ絡みで怒る白瑠さんが。

……白瑠さんが。


「つぅばき」

「ひゃあ!?」


 後ろから冷たい吐息を耳元にかけられて震え上がる。

後ろにはにっこり笑うコクウが立っていた。


「送るよ」

「……いらないわよ。リーダーがいないで打ち上げしてどうすんのよ」

「送ってからでも間に合う。椿は怪我してるし。ほら」


 ほら、と言ってコクウはあたしに背を向けてしゃがんだ。


「…………………………。何の真似? コクウ」

「何って……おんぶ」


 まじか。

散々イケメンにお姫様だっこされてきたあたしに、おんぶ。新しい発想、ありがとう。ごちそうさまでした。さようなら。

横を通り過ぎようとすれば、腕を引っ張られ、視界が横転したかと思えば。

あたしはもうコクウの背中だった。


「ふふ、屋上を行くのと道路を行くの。どっちがいい?」

「……屋上」


 脚はがっちりと捕まれている。これはまたもや脱出不可のようだ。

仕方なく答えれば、コクウは軽く飛んで建物の屋上に降り立った。

それから歩き出す。


「あれ、よく力入れなかったね、今の」

「高いとこは好きだし。吸血鬼に運ばれるのは初めてじゃないから」

「ふぅん、吸血鬼におんぶされたんだ」

「おんぶは貴方が初めてよ」

「くひゃひゃ」


 あたしを抱えて夜空を飛んだあの吸血鬼が今どうしてるのかも、あたしにはわからないことだ。

コクウはなんだか機嫌のいい笑い声を漏らして軽く屋上を飛び越え隣の建物に移る。


「吸血鬼と言えば、もう一人紹介してない奴がいるんだ」

「! あれで全員じゃないの?」

「うん、昼間だからパスしたんだ。吸血鬼だからね」

「……貴方は出たじゃない」

「リーダーだもん」


 リーダーなら打ち上げに参加してろよ。


「…………」


 少しの振動。大きな背中。

おんぶされるなんて、初めてに等しい。

多分、記憶にはない。

歩む度に揺れる。抱きつく背中。コクウの匂い。漆黒の髪。広い肩。

 なんだか。

 落ち着く。

抱えらるよりも、落ち着くのは顔を見られないからだろうか。なんでだろう。

 落ち着くな。


「ん? どうかしたの、椿」


 ホッと息を吐いてしまった。その息が彼の耳に振りかかった。それでコクウが振り返る。


「……別に」

「ふぅん。俺、耳弱いから息を吹き掛けないで」

「…………フー」

「ひゃあっ」


 耳が弱い。お前もか。

ちょっとした好奇心て息を吹き掛けたらコクウは震え上がった。笑いを堪える。

あたしを背負う大きな背中。

なんだか、眠くなってきた。

もう一度、ホッと息を吐く。


「……眠い」

「寝てもいいよ、ちゃんと運ぶから」

「寝ねーよ」


 起きてお前が隣にいたら世界の終わりだ。あたしは即座に自分の首を掻き切るだろう。


「……ねぇ、椿」

「嫌」

「まだ何も言ってない」

「何を言われても嫌」

(はく)のことだけどさぁ」

「アンタ、自分が背を向けてること知らないの?」

「ふむ……不機嫌になった」


 は? なんだよ。

首をはねるぞ。


「白瑠の奴と何かあったの? アイツ、一ヶ月前から仕事してないんだぜ。多分人っ子一人殺してない」


 ……知るかよ、そんなの。


「喧嘩して家出してるの?」


 …………。


「原因は知らないけど、もう仲直りしなよ」


 …………。


「アイツも探し回ってるみたいじゃん。許してあげなよ。さもないとアイツは────本格的に壊れる」


 振り返らず、コクウは背中にいるあたしに言う。


「世界で愛する人が突然消えてしまったら、アイツだってボロボロのぐちゃぐちゃになるぜ。アイツが今まで他人を庇うなんてなかったんだ。椿のこと、本気なんだよ。そんな椿が逃げ続けるなんて、酷い仕打ちだぜ。化物の殺戮者でも、愛する人間の前じゃあただの男。連絡、してあげなよ」


 理解しきった口振りでコクウはそう言った。

理解してるのだろう。

同類なのだから。そっくりな二人なのだから。

白と黒で対照的でも、似た者同士の殺戮者。

酷い仕打ち、か。

 あたしは鼻をコクウの髪に当てた。シャンプーの匂いがする。そっと鼻で首筋をなぞった。甘い匂いは肌から発しているようだ。

コクウが足を止めた。

あたしのアパートの屋上だから。それからあたしが首に息をかけたからだ。

 あたしは白い首に唇を這わせ────────かじっ!!

と、噛み付いた。


「っひゃう!?」


 震え上がったコクウはあたしを放して首を押さえる。あたしは転倒しまいと右足でしっかり着地。

あたしの唇には噛んだことで溢れ出た血がついた。ハンバーガーを食べるように容赦なく噛んだのだから当然か。


「……初めて噛まれたんだけど」

「だろうね。あたしは吸血鬼になるのが夢なの」

「叶わない夢だぜ」

「知ってる。貴方が教えてくれたもの」


 吸血鬼になって以来、噛まれるのは初めてだったらしくコクウは茫然とした顔をしている。

あたしはシレッとした態度で返して舌で血を舐めとった。

吸血鬼の血を飲んでも、吸血鬼にはならない。

あたしは背を向けて階段に向かう。


「椿、あの猫は今日も俺が預かる」

「預かるもなにも、あたしのペットじゃないわ。好きにしたら」

「じゃあまた明日」

「……ええ、また明日」


 また明日。と言われても会うつもりはなかったが、またあの家に行けるなら仕方ない。

ちょっとした用事があるし。


「ケッ。吸血鬼女か、お前は」


 部屋に帰るなり、ヴァッサーゴが口を開いた。


「アンタは吸血鬼が嫌いなの?」

「お前ほど好きにはなれないな。押し倒されキスされたり噛まれて血を吸われても尚好きなんてどうゆう神経してんだ」


 押し倒されキス。

嗚呼……ハウン君か。そう言えばあたしは小さな吸血鬼に押し倒されキスされたことがあったんだ。その時にはもう、ヴァッサーゴは頭の中にいた。


「あれはお礼よ」

「じゃあ噛んだのは何の為だ」

「………噛みたくなったから?」

「男を噛むのか」

「噛んだ仕返し。噛みたい肌だったの」

「そりゃあお前の方だろ!」

「うわぁ!?」


 ぶわっと周りに黒い煙が現れ、男が背中に抱きついてきた。あたしより大きな彼の体重は支えきれるわけもなく倒れる。

倒れたあたしから離れるどこらからそいつはあたしの首に噛み付いた。


「ぎゃあ!? なにするっ! てめっ(ヴイ)!!」

「おー、なんだ? 噛み返すか?」


 ニヤリ、あたしの背中に寝そべって笑いかけるのはヴァッサーゴ。

悪魔は姿を持たない。煙だから。

とり憑いた人間のイメージを元に姿を作り目の前に現れるそうだ。

つまり背中に寝そべっている切れ目の黒ずくめ男は、あたしのイメージ。

 なんでヴァッサーゴがイケメンなんだ。畜生。ぜってぇあたしがイケメンに弱いから顔を整えやがったに決まってる。


「ちげーよ。まんまお前のイメージだ」

「じゃあイメージ変える。よれよれのじじぃ」

「へっ。やだね」

「いつまであたしの背中にいる気だ」

「ん? そうだな………一発ヤってから」


 くびれを両手でなぞりながら、首筋をやけに長い舌で舐めるヴァッサーゴ。


「悪魔も欲求不満になるんだぁ?」

「お前こそ……うずいてるんだろ?」


 耳元で囁いて、ヴァッサーゴは右手をズボンの隙間にいれてくる。


「酒飲んで勢いであそこにいた誰かとヤっちまえばよかったじゃねぇか。蓮真の兄貴でも、火都でも、レネメンでも……クククッ……黒野郎でもいいだろ。白と黒と寝た女はいないだろーよ」


 ぐりんっ、と体勢を変える。ヴァッサーゴも巻き込み、今度はあたしがヴァッサーゴの上に乗った。

止まらずあたしは腕から短剣を取り出して首を目掛けて振り下ろす。

ヴァッサーゴは一瞬にして、煙になって消えてなくなる。

それからまた沈黙。

ふん。あたしは短剣を戻して立ち上がる。

 ん? と気付く。

左足が治されていた。

……まぁ、許してやるか。

白瑠さんの話もしなかったし。

浴室の鏡を見つめ、呟く。


「吸血鬼だったら、よかったのに」


 血だけを求め続ける冷血な吸血鬼。

鏡に映るのは、魂が抜けてしまった人形だった。




 翌日、朝はきっと飲み潰れた黒の集団がソファで寝てるだろうから昼過ぎにあたしは黒の集団のオフィスに向かった。

壁際の机に二人。そこにはナヤとバリューしかいなかった。


「黒っちなら、上だよ。呼ぶかい?」

「いいえ、寝てるならいいわ。貴方に話があるの、ちょっといいかしら? そこのファミレスに行きましょ」

「ヒュー! 黒猫のお誘い、有り難く受け取る」


 コクウもいなくてよかった。

先ずはナヤを引き離してから、バリューと話すか。

コクウの家はこのオフィスの上。起きないうちに早くすませないと。

ナヤは直ぐにバリューから離れて出口に向かう。

あたしも一緒に出ようとしたが、キーボードを叩く音を耳にして立ち止まる。

カチ、カチ、カチャン。

カチ、カチ、カチャン。

カチ、カチ、カチャン。

聞き覚えのあるリズム。

「先行ってて」とあたしはナヤに一言言ってから引き返す。ナヤが行ったあとにカルドを出し、バリューの背後に立つ。


「今、Iに連絡しようとしただろ?」

「!?」


 カルドを首に突き付け、短い髪を鷲掴みにする。バリューの顔は恐怖に凍り付いた。

藍さんがたまにそのリズムで叩いていたのを覚えている。多分バリューとの交信キーなのだろう。


「言ったろ。チクったらてめぇを真っ先に殺すって。このまま裂いてやろうか?」

「ち、チクってません!」

「チクってたらぶっ殺す。先ずはその舌と指を切って生きたまま腸を引きずり出して口の中に詰め込んでやる。わかったな?」

「はっ、はいっ!」

「アンタ。黒にスパイだってバレたくなきゃ、あたしをチクるなよ。仲間なら優しいが裏切り者なら……あの殺戮者はどう料理するかしらね?」

「…………っ!」


 氷柱のように冷たく囁いて、恐怖の支配で強引に約束させた。

他の黒の集団ならばこんな脅しは効かなかっただろう。ハッカーが小心者で助かった。

 そう言えば、あたしはコクウが殺戮する場面を一度も視ていない。

白瑠さん並みならばバリューが蒼白な顔になっても無理はない。

風船のように片手で人間の頭蓋骨が割れるなんて恐怖を覚えるだろう。まともな人間ならば。

コクウは血塗れにするんだっけ? 頸動脈を切って血飛沫? それとも腕を引きちぎって血飛沫?

どちらにせよ、散らかるんだろうな。

 あたしは頬を軽く切りつけてからその場をあとにして、待ち合わせのレストランに向かった。


「話ってなんだい? 情報流していいなら喜んで!」

「情報が欲しいの。今金欠で、仕事をちょうだい」

「仕事?」


 ナヤが座る向かい側の席に座り話す。店員を呼んで頼んだ。

トマトソースのチキン。サラダ。ライス。ステーキ。


「……チキンに、ステーキも食べるの? 黒猫は大食いなんだね」

「朝食は食べなかったの」

「ダイエット?」

「違う。単に摂る気がなかっただけなの。めんどくさいなら作らないし、買いにいかないし。不規則な生活だから」

「お肌に悪いじゃん! ……って、綺麗な肌してっか。でも顔色は良くないな。そのうち病気になっちまうよ? やめてくれよ、一年やそこらで消えるなんてさ」


 ナヤはやれやれといった風に首を振って笑う。


「流星の如く現れ、流星の如く消えるなんてダサいじゃん。ウルフって知ってる?」

「ショットガンの一匹狼?」

「それはウルフマン。彼が殺した方のウルフ」


 ん?

ウルフって、あのショットガンのおっさんだよな。

嗚呼、そう言えば最初に殺した奴の名前だって。……言っていたようなないような。


「ウルフは君と同じで流星の如く現れた期待の新人だった。もしかしたら、白や黒の殺戮者に匹敵する殺し屋だったかもしれない」


 ニヤニヤとしながらナヤはそう話し出す。

白瑠さんやコクウに匹敵する殺し屋。


「あの番犬から獲物を奪って生還したのはウルフぐらいさ」

「! 番犬から?」


 それは驚いた。事実らしい。

裏現実の番犬だと恐れられた史上最強の狩人。

彼から獲物を奪って逃げ切ったのか。

片っ端から名を馳せていた殺し屋を一掃していた最強の狩人から……。

それは白瑠さんやコクウに匹敵するとも噂されるだろう。


「だがしかし。ぶわーん、とウルフマンに殺られちゃったんだよね、これが。ウルフマンのデビューさ」


 あたしの反応に気をよくしたナヤは自分のこみかみに銃を真似た手を突き付け撃った。

ふぅん。

素人にあっさり殺されて流星の如く消えたってわけか。


「それが五年前。その後に番犬も消えちゃった。歴史に名前を刻むなら長生きしてほしいなぁ、黒っちみたいにさ。黒っちはいい。歴史におっもしろぉいもんを刻んでくれるから」


 ウルフが消え、番犬も消えた。

黒の殺戮者、コクウは長生きをしている。そして名を馳せている殺し屋。

今も歴史に名を刻んでいる。

昨日のビルジャックもまた、裏現実の歴史に残るだろう。


「だから黒の殺戮者の仲間に入ったの?」

「黒の殺戮者の情報がいち早くチクれる」


 チクリ中毒者。

裏現実は中毒者に溢れているのだろうか。


「コクウって昔も派手なことしてたの?」

「個人で派手にやってたよ。小さい国を一人で地図から消したことがあるってさ、ひゅー見てみたかったぁ」


 小さい国。どんなに小さくても国は国。それを一人でか。

成る程、名前を馳せるわけだ。

吸血鬼は目立つことを嫌って名前を伏せて闇の中を蠢くが、コクウは一人だけ目立っている吸血鬼。

吸血鬼の中では変わり者だろう。


「それで、黒猫。仕事紹介と引き換えにどんな情報をくれる?」


 明るいところじゃないと気付けない。

青い瞳と黄緑の瞳をしているナヤは身を乗り出して微笑んで問う。

あたしは金欠。金よりも情報を欲しがる情報屋。情報を買うなら情報で払えってことだ。


「日本で起きたレッドトレイン。あたしがやらかした最初の大量殺戮の唯一の生存者、山本椿はあたし。気付いたらデザインカッターで五十六人を殺してた」


 去年の秋。日本列島を恐怖で震わせた電車に乗った五十六人の人間を殺した。

カッターナイフ一つで殺戮。

生存者はあたし。犯人だが、そこに居合わせた白瑠さんの手により致命的を喰い、被害者の一人となった。

唯一の生存者があたしだってことはほとんどが知らないからいい情報だろう。

ナヤはあんぐりと口を開けた。


「な、ななななな、流してい!?」

「……これだけなら」

「黒猫大好きっ!!」


 告白された。

日本ではもうレッドトレインの犯人は捕まり、山本椿は死んだことになってる。

表に漏れても支障がないだろうからいいだろう。

ナヤは感激して今にも飛び跳ねそうだ。


「じゃあこの情報に見合う仕事を直ぐに探す!」

「ええ、お願い」


 話が終わった頃に料理が運ばれた。

チキンからナイフで切って食べていく。美味しい。

ナイフにフォークでご飯を乗せて食べる。それを見たナヤがきょとんと首を傾げた。


「……お上品だなぁ、黒猫」

「ん? 何が?」

「食べ方。お嬢様みたいにお上品。実はお嬢様?」

「普通の食べ方じゃない」

「えー、そんなお上品に食べる女なんてみたことないよ」


 そう言ってナヤは両手で頬杖をつく。それからまじまじと見つめられた。

食べにくいじゃないか。

じーとナヤはあたしの顔を見る。


「……なに?」

「美人だなぁと思って」

「それはありがとう」

「その眼って、カラコンだよな」


 指差したのはあたしの眼。

紅く揺らめく瞳。

長い睫であまり目立たないが、ナヤの目と同じで明るいところでは気付く。

カラコンではないと言えば、裏現実では────。

 ふと、あたしは顔を上げてガラスの向こうを見た。


「どうかした?」

「……誰かが死んだ」

「うぉーい、そんなの感じちゃうわけ?」

「違うわ、血に敏感なだけ」


 近くで、誰かが死んだ。

これは多分、あたしの眼を紅くしたヴァッサーゴの能力だろう。血に敏感になってる。

 近く。近くだ。

その方向は、黒の集団のオフィス。

あたしはステーキの半分を口に突っ込んでから金を置き、レストランから飛び出した。

「うぉーい! どうしたんだよ、黒猫!」とナヤは後を追う。

急発進する車を目撃。

迷わずに階段を駆け上がってオフィスに入った。

 血塗れだ。

血塗れのバリューが椅子の上で生き絶えている。周りに飛び散っているのは彼の血だ。

そして彼の血で、壁には文字が書かれていた。

 紅色の黒猫 殺す

狙いは────あたしか。


「あー、いてぇ」


 頭から血を流したコクウが奥の部屋から出てきた。コイツは殺しても死なない。

どうやら寝込みを襲われたらしい。頭を一突きナイフが刺さっていたみたいだ。


「あれ? バリュー殺られちゃった?」


 コクウはあっさりした反応でバリューを視てから壁を視た。

あたしはバリューを視る。獲物は恐らく刃物だ。

きっとあたしの居場所を問われ脅されたはず。しかし、これといった抵抗した痕がない。

それが少し、気になる。

抵抗できないほどに小心なわけがない。

藍さんだって銃を携帯してた。何らかしら身を守る武器を持っていたはずなのに、それを手にしていない。妙だな。


「ナヤ」

「紅色の黒猫を殺してくれって仕事の情報がある」

「心当たりは? 椿」

「依頼人の名前は、パトス・クライシス」


 パトス・クライシス。

生首を思い出す。

心当たりはある。


「未払いのクライアントの仕業だ」

「未払い? 払うまで待つなんて言ったのかい? 椿。そりゃあ殺されちゃうよ」

「そんな理由だけならいいけど……。火都は何処?」


 金が払えないから他の殺し屋を雇った、だけならまだいい。

パトスの愛人。

彼女の生存を確かめないと。


「火都なら見舞いに行ったよ。病院」

「病院ですって? 何処の?」

「そこまでは……」

「ああもうっ!」

「なに? 椿」


 何処の病院かはわからない。

あの愛人は火都に病院に連れていくよう頼んだ。きっとその愛人の見舞いに行ったんだろう。


「火都が危ない!」

「待って、椿。ナヤ、車を」

「いい! あたし一人で!」

「怪我してるんだから車で」


 直ぐに飛び出そうとしたが、コクウに腕を掴まれた。

怪我。言われて気付く。

足は怪我したことになっている。忘れていた。

下手をしたらヴァッサーゴが喚き散らす。


「あれ? さっき……」

「ナヤ、車を出して。早く病院に」


 足元を視るナヤを急かしてあたしは足を庇うように階段をゆっくり降りた。

 ちっ、めんどくせぇ。

パトス・クライシス。

依頼人はその息子。ドリップ・クライシスだ。

バカな行動に走ったな。父親を殺す為に殺し屋を雇った時点で大馬鹿か。

あたしを消し、約束の金はバリューを殺った奴にやるのかしら。その為には遺産を手にするため、あの愛人を殺すだろう。

さっさと遺族同士で殺しあえばいいのに。その方が手っ取り早いじゃないか。めんどくせぇな。


  キィン!


黄色のRX7が停まったのは、フェニック病院。

火都と会った現場から一番近い病院だ。ここにいるはず。

「コクウ、アンタを殺した奴はここにいる?」

「んー。血のにおいがいっぱいでわかんないなぁ」

「じゃあ火都のにおいを見付けなさい!」

「はぁい」


 コクウの鼻を頼りに、病院の中から火都を探し出す。直ぐに見付かった。


「……あれ? どうしたの」


 ベッドの隣に椅子を置いて座っていた火都が、何ともやる気のない声で出迎える。

そのベッドには、パトスの愛人が静かに眠っていた。

殺し屋は来ていないようだ。

ほっと息をついて髪を掻き上げる。


「何故彼女のお見舞いに?」

「椿に、任されたから」

「…………。もういいわ、あたしが引き継ぐ」


 責任持って面倒を見てくれていたらしい。こんなにも真面目な奴だとは思わなかった。

入院費まで出したらしいからあたしが返そう。……金欠なんだけど。


「来週、退院、だって」

「そう」


 今はただ眠っているというわけか。

起きたら何から話そう。

なんとか元が取れるように話を持って行こうか。そうしよう。

「こんにちわ」と看護師が一人入ってきた。ナイスバディなナースにナヤとコクウが目を向ける。

カッカッと踏み鳴らすヒールを穿く素足がセクシーだ。男なら誰もが釘付けだろう。

あたしもそれを視た。

セクシーなナースはあたしの向かい側で点滴を変えようとする。

 血のにおいがした。

廊下ですれ違った医者達とは違う。

裏現実者のにおい────殺し屋の臭いだ。


「!!」


 あたしは点滴の道具を振り払い、ベッドに乗り込んでナースの女の首を掴む。

そしてナイフを女の顎に突き付けた。


「誰に雇われた?」


 その質問をして首を握り締める。

女は答えるどころか、震え上がって助けを乞う。


「お、お願い命だけはっ! 乱暴しないで! 私が何したって言うの!? お願いやめてぇ」


 鬱陶しいと思ったから、急所を外して腹にナイフを突き刺す。

そして乗っているベッドに押し付ける。


「あたしが誰だか知ってるでしょ? この病院の人間、全員殺してから問おうか?」


 表で五十六人を殺して裏現実に入った殺人鬼。紅色の黒猫。

表の人間のフリしたって、助かると思うなよ。


「きゃあ!」


 悲鳴を上げたのは、目を覚ました愛人。えーと名前は……名前。


「カトリーナだっけ? あたしのこと覚えてる?」

「……え、えぇ……」

「彼女、貴女を殺しに来たの」

「えっ!?」


 名前はカトリーナだ。

家族に財産目当てで命を狙われたパトスの愛人。


「依頼人の名前は?」


 とりあえず確認をしよう。

髪を握り締めて問うとナースの殺し屋はドリップの名前を口にした。やっぱり。


「コクウ、こいつはやる」


 用が済んであたしは女をコクウに向けて蹴り飛ばす。女は逃げる素振りも出来ずにコクウに捕まった。吸血鬼に口を押さえ付けられ、羽交い締めにされるナース。……駄作のC級映画みたいだ。


「カトリーナ。話を聞いてくれる? 何故命が狙われたのか、わかる?」


 あたしは静かにカトリーナに問う。カトリーナは首を横に振った。


「パトスが貴女に遺産を残すと思って彼の遺族が命を狙ったの。パトスは遺族の雇った殺し屋に殺された。あたしもその殺し屋の一人。でも貴女を助けたことで遺族の一人であるドリップに命を狙われた」


 あたしはそう説明をする。簡潔に、戸惑い震えるカトリーナに言った。


「そこで提案。カトリーナ、あたしを雇わない? 貴女を殺そうと狙う殺し屋を排除してやるわ」

「え……」

「勿論、これはただの提案。雇う雇わないは貴女が決めて構わない。だけど貴女がパトスの遺族達に目の敵にされているのは事実よ、遺書に貴女の名前が記してあるかどうかは定かじゃないけれど。この殺し屋が来たなら狙われてる。あたしは雇わないと言われたらドリップを殺しにいくだけ。あたしはドリップにしか狙われてないけど、貴女は遺族達全員。パトスの身内の数はご存知?」


 ペラペラと話す内容は結局は雇うように勧めている。雇ってもらいたい。金欠だし、金で雇ってほしい。大体パトスの仕事の金は彼女を助けたことでパーになったのだから。


「金なら心配要らないはず、遺産がなきゃあたしがドリップから奪うわ。あ、ナヤ。仕事の話はなしね」

「流すなって言うのか!?」

「代わりにパトスの遺産についてを調べて、あげた情報は流していいから」

「大好き!黒猫!」


 イエイ、ナヤを手なづけたぜい。


「どうする? カトリーナ」

「………………雇う、わ……」


 カトリーナに顔を向けてもう一度問う。カトリーナは火都に救いを求めるかのように眼を向けたが彼は何も答えない。

カトリーナは雇うことにした。

一度は命を救ったあたしを信じるようだ。


「交渉成立ね。あたしは紅色の黒猫。退院次第……いつまでそこにいるの? 早く出ていってよ」

「え? ああ、うん」


 ぼけぇとしていたコクウに出てけと言う。つうかさっさと羽交い締めにしてるナースを始末しろよ。


「火都もいこう、探りにいくからちょっと護衛を頼む」

「……うん」


 ナヤが先に立ち上がって、火都の肩を叩く。そして病室を後にした。

続いてコクウもナースを連れて歩き出す。


「ねぇ、コクウ。バリューのこと、寄越したハッカーに知らせるの?」

「ん、そりゃあ……借りたものを壊したって言わないと」

「バリューは借り物程度だったの?」

「本人がそのつもりだったからね」


 バリューが殺られたことに対した感情を抱いていないようだ。

派遣ハッカーは実はスパイだったなんて知ってもそんな薄い反応しかしないだろう。仲間だと思ってないから。

火都が危険と知って飛び出したのとは大違いだ。


「くれぐれも、あたしのことは話さないでちょうだい」

「話したら俺に喧嘩売るの?」


 にや、と面白そうにコクウは訳を訊いた。


「霧のように消えてやる」


 あたしは冷たく答えてやった。ドリップのとこに強盗しにいけば金ができて夜逃げができるもの。

バリューが消えたことだし、ちゃっちゃと逃げてやる。

コクウは顔色一つ変えずに「わかった」と病室を出ていった。


「カトリーナ。退院次第、あたしの家に匿うわ。貴女の住所を教えてくれる?もう荒らされてるかもしれないけど、必要なものをとってくる」

「あ……あの日、パトスがくれたジュエリー……。レストランで落としたの」

「ジュエリー? ……あぁ」


 そばにジュエリーが入っていそうな箱が落ちていたのをみた。あれか。


「でもあれは……」

「お願い……彼からの最後のプレゼントなの……」


 すがるようにカトリーナはそうあたしに頼み込んだ。

頼まれても、掃除屋が片付けてしまったんだ。ある可能性は低すぎる。


「最後とは限らないわ」

「愛人に遺産を残すわけないじゃないっ! 彼とは二年も付き合ってないのよ!」


 本当に最後のプレゼントとして、遺産がある。かもしれない。確かではないが、あたしは可能性は高いと思っている。


「パトスを知らないけど……カトリーナ。彼は命を狙われているにも関わらず、貴女の誕生日を祝いに来たのよ? 彼にはもう、貴女しかいなかった。血が繋がってても命を狙うような身内より、危険な最中に誕生日を祝いに会う愛人に残すはずよ。レストランで会った彼はどうだったの?」


 あたしがそう問えば、カトリーナの目に涙が浮かんだ。ポロリと、透明な雫が落ちていった。

涙なんて、久しい。


「世界の誰よりも、彼は貴女を愛していた。そうでしょう?」


 ポロポロと涙が次から次へと落ち、カトリーナは嗚咽を堪えるように口を両手で押さえた。

そしてカトリーナも、彼を愛していた。目を覚ました時に、真っ先にパトスの無事を確認していた。愛している証拠。


「探しにいってくるわ。病室を変えてもらって? 知った顔のドクターとナース以外は信用しちゃだめ。殺し屋と思って。念のために」


 だからこそ、最後のプレゼントを。

あたしは腰から銃を抜いてカトリーナの小さな手に握らせる。


「すぐ戻るから。肌身離さず持つのよ? 襲い掛かったら迷わず撃ちなさい」


 銃を持って怯えていたがカトリーナは頷いた。暴発しないといいが。

病院に裏現実者の気配はしないから今のところは大丈夫だと思う。

あたしは病院を出た。

それから掃除屋に電話をかける。


「あーワリィ、仕事中だ。他を当たってくれィ」

「掃除した物は処分した? レストランでジュエリーを見なかったかしら? 必要なのよ」

「ああ、あの殺し屋の死体と首なし死体のレストランねェ。それならまだあるけど」

「今どこ? アメリカにいるんでしょ」


 かったるそうな声音はいつものこと。一度も会ったことはないが、アメリカに来てから彼に掃除を頼んでいる。

後始末。日本では掃除屋は頼まなかったが、あたしの殺し方だけでバレてしまうから始末しないといけない。足がつくんだ。


「……あ?」


 顔がひきつる。目の前には車が停まった。真っ黒のフェラーリの中から、コクウがにっこりと笑いかける。


「乗る?」

「……今からそこにいく」


 あたしは電話を切って助手席に乗った。後部座席には横たわったナース。首の傷からして食事を終えたようだ。

今電話した掃除屋は黒の集団のオフィスに来て、バリューを始末しているとのこと。

ちっ、めんどくせぇな。


「あの娘を守るんだ? それって狩人のやることでしょ、火都に任せればぁ? そうすれば椿と俺は殺しに専念できるだろ」

「何故アンタとやることになるんだよ。意味わかんねー。あたしの仕事に首を突っ込むな」

「えー、でもぉ」


 スピードをかなり出してるのに、コクウは懐に片手を入れた。顔まで逸らしやがってる。事故った暁にはお前を閉じ込めてやるぞ。

スッと、コクウが出したのはパスポート。

あたしのパスポートだった。

奪い取ろうとしたがひょいっとコクウが避けて空回り。


「返そうと思ったけど……必要ないみたいだねぇ」


 そう言って窓から捨てようとした。

まさか。捨てない。交渉道具を……。


  パッ。


コクウの手からパスポートが消えた。


「ちょっと!?」

「くひゃひゃ!」


 慌てて飛び出し、運転席に乗り込んだらコクウが哄笑。そしてあたしを羽交い締めにした。

片腕で拘束される。暴れたら、視界にあたしのパスポートが現れた。

コクウが加えている。

奪い返そうとしたが両腕が出せない。


「わからないなぁ、椿が仲間に入らない理由」

「……明白だろうが」

(はく)が怒るからなんて言い訳だろ。今、怒らせて逃げちゃったんでしょ?」

「……」

「何が怖いの? 何が嫌なんだ?」


 唇であたしの髪を弄びながら問う。

怒らせるのが怖いんじゃない。

怖いのは。

怖いのは──────。


  ガツンッ!!


「ぐあっ」とあたしの頭突きで悲鳴を上げるコクウはハンドルを誤り、車がキィィイッと揺れ動く。


「運転中に、危ないじゃないか」

「事故ればよかったのに」


 事故る前に急ブレーキで停まった。運転中にあたしを捕まえるのが悪い。

あたしはパスポートを奪い返し、窓から車を降りた。

オフィスはもう目の前だ。

コクウはナースの死体を担いであとからオフィスに入った。

オフィスの中の血の匂いは、完全に消されている。きれいさっぱり掃除されたようだ。血文字も跡形なく掃除されている。


「これも始末、お願い」

「ひゅー、こりゃまたべっぴんな死体じゃねェか。血が全くない……黒の殺戮者らしい」


 掃除道具を片付けていた男にコクウはナースを渡した。抱えただけで男はそう洩らしてにやつく。

黒い髪を一つに束ねた髭面の男は、首を傾けてあたしを視た。


「さっき電話したキャットよ」

「お前さん……もしや紅色の黒猫かい?」


 ナースの死体を抱えたまま掃除屋はあたしの顔をまじまじと見つめ、それからあたしの名前を当てた。二つ名を使うと広まるからキャットと名乗っていたのに、何故顔を視ただけでわかったんだ。


「……そうだけど、何故わかったの?」

「あーやっぱり! メイクしてなかったが顔付きとその眼でわかった。秀介にゴスロリの姿を見せられたんだ」

「……秀……介……?」


 彼の口から出た名前に、あたしは目を丸める。メイク……? ゴスロリ……?

思い当たるのは、無理矢理撮らされたあの日。

そう言えば、写真、撮ったんだ。


「なぁ? 秀介」


 掃除屋は振り返ってそう呼び掛ける。

そこに立っていたのは、目を丸めて立ち尽くす秋川秀介。狩人の鬼。ポセイドン。あたしに愛してると言った最初の男。


「っ椿ぃぃい!!!!」

「わっ、秀介!?」


 人前であろうと黒の集団の前であろうと、秀介は再会の抱擁をしてきた。あたしに言わせればボディタックルだ。


「うわ!? つばきゃん、痩せた! 髪伸びて色っぽさが増して……カラコンも妖艶で綺麗だ!」

「ちょっ……どこ触って……」


 直ぐに解放されたかと思えば髪の毛先から足の爪先まで眺められ、内腿を鷲掴みにされて痩せたことを確認される。


「嗚呼! 椿! 会いたかった! 一ヶ月と三週間ぶり!」


 ギュウと秀介はあたしをもう一度抱き締めた。

一ヶ月と三週間。最後に会ってからの正確な時間だろう。

まだ、それしか経っていないのか。

あの日からまだ────一ヶ月と三週間。


「……久しぶり、秀介。篠塚さんは?」

「久しぶり! 相棒なら一人で仕事中さ」


 ニッと笑う整った顔の青年。

篠塚健太楼(しのずかけんたろう)。記憶を無くした裏現実者。表では刑事。

記憶を取り戻す為に、秀介と仕事をやって度々噂を耳にしていた。

秀介とコンビを組んでいるから、ゼウスと言う通り名がつけられている。

秀介がポセイドンだから、ゼウス。雷鳴のような銃声を轟かせるからゼウス。

もう一人で仕事をやるくらい裏現実に慣れたってことか。


「それで貴方は……何してるの?」

「ドミーと暇潰してたら黒の集団だったから遊びに来た」


 ドミー。掃除屋の名前だ。

仕事ではなく狩人としてではなく、単に興味本意で遊びに来ただけのよう。

相変わらず怖いもの知らずだな。

オフィスにはカロライと蠍爆弾とアイスピックの三人が戻っていた。多分喋っていたんだろうな。


「ん? つばきゃんはなんでここに……?」


 秀介が首を傾げて訊いた。

この様子からして、秀介は白瑠さんにも会ってないみたいだ。

白瑠さんの元を離れたなんて言ったら、めんどくさい事になりかねない。

何か気を逸らすことを言わないと。


「…………しゅーすけ」


 あたしは甘えた声で彼を上目遣いで見上げた。


「頼みたいことがあるんだけど……聞いてくれる?」

「も、勿論っ!」


 手を握れば秀介は内容を聞くよりも前に目を輝かせて頷く。惚れた弱味に漬け込むのは愛された本人の特権だ。


「あたし、今命を狙われてるの。それで」

「なんだと!? どこのどいつだ!? 俺が潰してやるっ!!」

「そ、れ、は、あたしがやるから! 貴方はとある女性を守って欲しいの。生憎お金がないんだけど……タダでやってくれる?」

「愛の為に喜んでっ!!」


 かなり簡単な奴だ。

喜んで引き受けてくれた。これで守りと攻めを同時にやらずに済む。しかもタダで、やったね。


「ありがとう、秀介。とりあえずドミーが持ってるジュエリーを取りに行って。あたしは病院で待ってるわ」

「病院? なんで? ……椿、病気!? そう言えば顔色よくねぇ!」

「違うわ……病院に守ってほしい人がいるのよ。あたしは元気だから」


 身体が悪いのか!? と本気で心配するから落ち着くよう宥める。

顔色……悪いのかしら。

ちょっと気にして顔に触れてみる。

それに気づいた秀介はその手を取って微笑む。


「椿は可愛いよ、病的な今も」


 久しぶりに触れる秀介の温もりが頬から伝わる。物凄く、懐かしく感じた。

長年会ってなかったみたいに、何か沢山話さなきゃいけない気がする。

だけど口にしたくないと、あたしは唇を閉じた。

その唇に、秀介は迷いなく口付けをする。

これはまた懐かしい感触。

懐かし過ぎて、目を丸めてしまう。


「? どうかした? 椿」

「……いや、別に」


 今や挨拶となったキス。

それに戸惑った反応をしたから首を傾げられる。あたしは顔を逸らして別の事を考えた。

最後に会ったときにきっぱりと断ったのに、何故またこう接するのだろうか。

何度傷付けても、変わらないのだろう。

彼は変わらない。

いつまでも一途。

あたしには勿体ないのに。


「おー二人さん。行くなら行こうぜ」


 ドミーが咳払いして急かした。


「そうだな、行くか。椿、何処の病院に行けばいいんだ?」

「フェニック病院」

「オッケー。じゃあそこで」

「あっ、秀介! 篠塚さんには言わないで!」

「え? ああ、うん。わかった」


 ドミーを連れて行こうとした彼を慌てて呼び止め言う。篠塚さんは白瑠さんの連絡先を知っている。連絡されては困るんだ。

それに、離れていることは知られたくない。

秀介は深く考えずに頷いてから、投げキッスをして行った。

ちょっと危険な選択をしてしまったかも。白瑠さんと繋がりがある裏現実者と関われば彼に居場所がバレかねない。

これもみんな、コクウに見付かったからだ。

あー、やんなっちゃう。

 一息ついてから、カトリーナが心配だから病院に行こうとすれば、腕を掴まれ引き留められた。

振り返れば、元凶であるコクウが。


「なによ?」

「今のなぁに?」

「何が?」

「てめえ、ポセイドンとはデキてねぇって言ったじゃねーか」

「デキてないわよ、そう言ったじゃない」


 にこーと問うコクウのあとに離れた机に座ったカロライが言った。そう言えば昨日堂々と交際否定したなぁ。


「じゃあ今のあっつい抱擁とフレンチキスは何なんだ?」


 手振り素振りで蠍爆弾が続けて発言。アイスピックは「お嬢さんのその脚を鷲掴みに出来るなんて羨ましい」と洩らしている。


「再会の抱擁と、挨拶のキスじゃない。妬いてんの?」

「うん」

「……あっそ」


 悪戯に言ってみたらコクウが頷いた。カロライが何か叫んでるが聞かなくてもいいだろう。


「じゃあ質問に答えたし、失礼しましたぁ」


 と行こうとしたが、未だにコクウの手はあたしの腕を握っている。

顔を見れば、物欲しそうな顔をしていた。

じーと黒曜石の瞳で見られる。


「なに?」

「…………」

「……この件には関わらないで頂戴。邪魔しないで」

「……椿。何言ってんの?」


 何も言わないのが不気味だから、断りを言えばコクウは首を傾け猫みたいに目を細めた。


「バリューが死んだんだ。椿のせ・い・で」

「……」

「これは椿だけの問題じゃないよねぇ?」

「…………」


 あたしは睨み上げる。

邪魔する気満々なのか、コイツ。


「くひゃひゃ……手が足りないだろ? 貸してやる。黒の集団を無料で」


 右腕を広げて、後ろにいる三人を指す。

これであたしが借りれば、あたしを仲間に入れる罠に入れられてしまう。借りるかよ。

あたしはコクウの胸ぐらを掴み引き寄せた。まだ血で濡れている。


「勝手にほざけ。二回目の活動にするにはダサすぎ。仲間の敵討ちならお前らだけでやってろよ」

「!」


 冷酷に睨み、吐き捨てる。

コクウは目を丸めた。


「あたしの邪魔すんなら、全力でアンタを殺してやる」


 殺気を放ち、コクウから手を放して背を向ける。


「…………」

「ケッ! ポセイドンとずいぶん態度がちげーじゃねぇか」

「怖い怖い、すごくお怒りだ」

「黒、今回はやめとけ」


 コクウは何も言わず、凄んでも後ろにいる二人は軽く笑う。あたしは気にせず扉を開く。


「いやぁだ」


 扉を閉じる前に、聴こえたのはコクウの声だった。

だだっ子みたいな口振りは誰かさんみたい。全く、腹立たしい。

どうせコクウが病院の駐車場で盗んだ車だから、あたしはフェラーリを拝借して病院に向かった。


「カトリーナは何処?」

「クククッ」


 病院の独特のにおいを嗅いでうんざりしながらヴァッサーゴに問うと彼は珍しく人前に姿を現した。

あたしの隣を黒を纏った姿で歩く。コクウ達の尾行がないってことだな。

病院の大嫌いな雰囲気の中にいるのに、この笑い声は絶対にあたしを怒らせる気だ。


「あの小僧と再会してよかったなぁ、椿」


 ほら、きやがった。


「久しぶりの熱い抱擁に口付けの感想は?」

「…………」

「お前のだーいすきな温もりとあまーい感触。キスされてなんでお前戸惑ったと思う? もっとして欲しいって思った自分に驚いたんだろ」


 ビュッ。患者とナースが通る廊下で人の眼を盗んでナイフをヴァッサーゴに振るったが避けられた。


「あの小僧と、寝ちまえよ」

「アンタ、欲求不満ならその辺のナースを誘ってこい。そしてそのナースの中に住んでろ」

「告白の返事もしてやらねーとなぁ、あんな一途な野郎は椿にぴったりだろ? 尻尾が向くままにどっかほっつき歩く黒猫の尻をいつまでも追ってくる野郎じゃねぇと、黒猫はたった一匹ぼっちになる。……まぁ、歩く度にコケティッシュに振る舞っては野郎を釣るから野郎には不足しねぇか」

「あ? 一人言なら他所でやれよ。おら出てけっ!」


 ヴァッサーゴの背中に向けて蹴りをお見舞いしようとしたが、しゃがんで避けられる。ちっ!

「愛人女はここだ」とヴァッサーゴはしゃがんだまま親指で横の病室を指差した。

それから黒い煙になって消えてなくなる。

結局出ていかねーのかよ。出てけよまじで。


「次は白野郎と再会できることを祈ってやるよ」


 ……次出てきたらその舌を切り落としてやる。

呆れて溜め息をつきながら、病室に入ればカトリーナがいた。

秀介が持ってくることを話して待つことにする。カトリーナがおどおどしながらこれからどうするかを問われた為、今考えている予定を答えた。

 先ずはドリップ側の始末。パトスの遺族がカトリーナを狙うなら殺す。

その可能性は高いだろう。パトスに殺し屋を送るのだから、あり得る。

あたしがいない時には秀介が護衛をすることも伝えた。腕は確かだから心配は無用だとも言う。

頭蓋破壊屋には負けるが、守りの強い狩人だ。あたしも心置きなく殺しにいける。

 んー。ヴァッサーゴを殺せなかった分、血が見たくなってきた。

秀介が来たら直ぐにこの前足を運んだドリップの家に行こう。

秀介、早く来てくれないかな。


「病院は嫌ぁい。何故かって? 雰囲気が嫌い、色が嫌い、においが嫌い──────死のにおいがプンプンするからだろう?」


 足から伸びた影が歪み、笑う悪魔の形を作り上げた。


「ここはいつ来ても死臭がする。それが嫌いなんだろう? そこにいるだけで自分が病気になったみたいで気持ちわりぃんだろ」


 その声はカトリーナには聴こえない。


「死が怖い。死が怖いんだろ。自分で屍の山を作るより、病院の方が死を感じて怖いんだろ。クククッ、怖がりな殺戮者だな」


 ブーツから影が上り詰めてきた。

ズズッと素足に届く前に足を退けて避ける。しかしこの影は決して離れない。

あたしに住み着いた悪魔だから。


「心配するなよ、オレがいる限りお前は死とは無縁だ。クククッ!」


  ザクッ!


ナイフを床に突き刺したが、影は二つに裂けて消える。

お前がいる限り楽には死ねない。そうゆうことだろ。

吸血鬼と同じ。長生きできる代わりに楽には死ねない。

悪魔は死ぬことを許さない。


「許さないのはオレじゃねぇだろ。どいつもこいつも……おら、来たぞ。一途な海小僧がよ」


 いつまでも聴こえるヴァッサーゴの声。

丁度よく病室のドアを開けて秀介が入ってきた。

何故この病室がわかったんだろう。

そんな疑問はさておき、あたしはパイプ椅子から腰をあげて秀介に抱き付く。


「待ってた、来てくれて嬉しい」

「え……椿」


 腰を上げた時は秀介に抱き付くつもりだったが、この甘えた声を出すつもりはなかった。もう恋人がやっと迎いに来てくれた時みたいなとろとろに溶けた甘い声。

「いい例えじゃねぇか」とヴァッサーゴが喉を鳴らす。ヴァッサーゴの仕業だ。ぶっ殺す。


「ジュエリーは彼女に渡して。紹介しておく、カトリーナ、ポセイドンよ。秀介、カトリーナ。彼女は任せたわ」


 さらっと平然に淡々と紹介。

そしてさっさと病室を出ようとした。


「え? 椿、一人で乗り込むつもりなの? つかどうゆう事情? てか、クラッチャーは?」


 最後一番嫌な質問をしてきやがった秀介。

「さぁ、なんて誤魔化す?」とヴァッサーゴがケラケラと笑い声を上げる。


「一人の仕事の問題だから、彼と会えないわ。今度こそ潰そうとか考えてたの?残念だったわね」


 あたしは振り返って笑って答えた。


「──────椿、何かあった?」


 秀介が真顔でそう訊いた。

その刹那に、心臓が停まる。

日本の病室でのことを思い出す。

────嗚呼、あの時と同じだ。

さよならをすると決めて、目一杯笑ったのにそれが仇になって気付かれたあの時。

下手な笑みで、バレちゃう。

嘘を見抜かれる。作り笑いが見抜かれる。強がってると見抜かれる。


「……疲れてるの。この件が片付いたら、食事しましょう?」


 あたしは薄く笑ってから、一歩踏み出して病室を出た。ゆっくり閉まるスライドドア。

お互い目を合わせていたが何も口にせず、パタンとドアは閉まった。

 銀色の指輪を嵌めて、盗んだ車でドリップの元に向かう。突き進む風を受けながらなにも考えないようにした。

そう、一ヶ月と三週間前からやってきたのと同じ。

そうしてドリップの屋敷に来た。

なにも考えず、仕事しに来たら──────────屋敷の使用人は血塗れに飾られ、あたしを派手に出迎えた。

身体中の致命的な頸動脈は切られ、身体中の血液は廊下を濡らす。水浸しじゃなくて血浸し。

それをぺちゃぺちゃと歩いて、ドリップの書斎に向かった。

 扉を開けば、そこには殺し屋が五人。情報屋が一人。武器屋が一人。


「くひゃひゃ────────遅かったね、椿」


 ソファでしゃがむ殺し屋の一人、黒の殺戮者が機嫌良さそうに笑う。

返り血を浴びた吸血鬼。


「ん? これは椿の邪魔なんかじゃないぜ。バリューの復讐さ」


 ドリップは書斎の机の上で、一匹の吸血鬼に血を吸われていた。黒の集団、最後の一人だろう。

少し目を移せば、レネメンが気持ち悪そうに口を押さえていた。二日酔いなんだろう。

蠍爆弾の方が酷そうだ。しゃがんで呻いている。そんな彼の背中を擦りながらアイスピックはあたしに手を振った。

ナヤとカロライは物色中。情報収集しているのか。

くそっ。やりやがったな。この血塗れ殺戮者。


「あたしの見せ場を潰すつもりか、てめーら──────切り裂いてやろうか?」


 パグ・ナウの爪を出してカルドを握る。

あたしの手で、殺させろ。




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