前編
蒼ミク番外編です。
蒼くんの休日。実家に帰省中のひとコマ。
まあ、夏休み特別編みたいな感じ。
イチゴシロップの追憶・前編
8月9日、月曜日。
今日からバイトは1週間の盆休みに入る。
夏休みに入っても、貧乏暇無しで、相変わらず忙しい生活を送っている俺には久々の休日だ。
こんなときこそ、美紅の可愛い笑顔を見ながらゆっくりとくつろぎたいところなんだけど、美紅は今日から3日間、お母さんの実家に帰るとかで不在なのだった。
3日間も一人でアパートに篭っているのも侘しいので、俺も久しぶりに実家に戻ることにした。
新幹線から在来線に乗り換えて30分。
駅から実家への道を歩くのは正月以来だ。
15分ほどで、同じような家が立ち並ぶ住宅地にたどり着いた。ここの一角に、俺の生まれ育った家がある。
4LDKのごく平均的な住宅は美紅の家の壮麗さとは比べるべくもないが、俺にとっては懐かしい我が家である。
ドアフォンのボタンを押すとすぐにドアが開いた。
「おかえり!」
出迎えてくれたのは橘ゆかり、俺の母親だ。
今年43歳、年齢のわりには若いと思う。
でも、正月に帰ったとき、褒めたつもりでそう言ったら、「年齢のわりに」は余計だと怒られた。なんだかいろいろと面倒くさいよな、女って。
「ただいま」
「外、暑かったでしょ」
「うん。このところ猛暑が当たり前みたいになってるよな。何か冷たいもの欲しい」
言いながらリビングに向かう。こじんまりとしているけど、落ち着く。
正直、帰るまではおっくうだと思っていたけど、ソファに座るとほっとした。
ここもまた自分の家なんだと感じる。
「座る前に手を洗いなさい、まったく毎回同じこと言わせないで頂戴」
「はいはい、わかりました」
「はい、は一回!」
こういう面倒な会話も久しぶりだとちょっと新鮮だったりするから不思議だ。
洗面所で手を洗ってリビングに戻ると、母がダイニングテーブルの前で手招きしている。何の用だろう。
「ねえねえ、これ見て」
「へえ、懐かしいな、これ、まだあったんだ」
母が指差したもの、それはアニメのキャラクターをかたどった、かき氷器だった。
「でしょー。昨日キッチンを整理してて見つけたの、まだしっかりしたものよ。きれいに削れたわよ、氷」
「ふうん」
「でね」
「うん」
「イチゴとメロン、どっちがいい?」
「はあ?」
美紅ちゃんの家族を出したので、蒼くんも。
とりあえずお母さん出してみましたw