聖女さまはご多忙です
ハルミリアの聖女はいつでも明るい笑顔を振りまいていた。
「神様のご加護がありますように」
子供たちにそう微笑みかける。
「神様のご加護がありますように」
大人たちにそう微笑みかける。
「神様のご加護がありますように」
動物たちにもそう微笑みかける。
実にあたたかな女性だ。
多くの人々が彼女を愛していた。
優しく、誠実で、誰にでも優しい理想的な女性。
それがハルミリアの聖女だった。
*
そんな聖女の住む屋敷には一人の召使いが住んでいた。
腰の曲がった老婆でフードをしっかり被っており、喋る声も聞き取りづらい。
「何の御用ですか。休日ですよ」
聞くところによれば聖女が唯一心を許す者だともいう。
しかし、その召使いときたら聖女とは似ても似つかない。
「聖女様はご多忙です」
休日に聖女へ会いに来た客に召使いはいつだってそう言う。
子供が来ても。
「聖女様はご多忙です」
大人が来ても。
「聖女様はご多忙です」
動物がきても。
「聖女様はご多忙です」
そう言ってあらゆるものを追い払う。
そのおかげで聖女が休日に何をしているかは全く分からない。
誰が訪ねてきても召使いに追い返されてしまうのだから。
聖女に人々が休日は何をしていたのか? と問えば聖女は普段と同じように微笑み答えるのだ。
「神様にお祈りをしていました。世界が平和でありますように、と」
このような女性だからこそ、人々から聖女と呼ばれる。
このような聖女だからこそ、あのような召使いも雇っているのだろう。
*
「聖女様はご多忙です」
今日も今日とて客人を追い返す。
女性はドアをピシャリと閉めた後、これ見よがしに曲げていた背をピシッと伸ばす。
深く被っていたフードを脱ぎ去り、人々が『聖女』と呼ぶ顔のままうんざりとした表情で呟いた。
「休日くらい素で居させてよ、本当に……」
ハルミリアの聖女。
聖女の前にただの人間。
休日くらいはゆっくり休みたい。
だから、別人になって追い返す。
彼女が一日のんびり出来る日はほとんどない。




