第82話:新春の残響、仮面を脱いだ二人
サトエン正月ライブ、そのフィナーレは圧巻の一言だった。 SSランクの悠真、優美那、紫苑による共演。そしてSSS宵闇堂魔による「魔王の降臨」。熱狂の渦が去った後の、静まり返った深夜のステージ。
「……はぁ、……出し切った。みんな、本当にかっこよかったよ」
悠真は一人、誰もいない客席を眺めていた。そこへ、足音もなく近づく影が一つ。
「……ねえ、お兄ちゃん。一人で何浸ってるの?」
振り返ると、そこには代表としての正装を脱ぎ、昔のような格好をした瑠々が立っていた。
「瑠々……。あはは、なんだか照れ臭いね。僕たちがSSランクになって、こんな大きなライブを成功させるなんて、昔の僕らじゃ信じられないよ」
「本当よ。……でも、今日のお兄ちゃんの歌、一番近くで見てたけど……まだまだね。私の隣で歌ってた頃のほうが、もっと自由に声が出てたんじゃない?」
瑠々はいたずらっぽく笑い、悠真の腕をぐいと引いた。
「代表命令、兼、妹からのお願い。……最後の一曲、私と一緒に歌いなさい。配信も録画もなし。世界で私だけが、お兄ちゃんの歌を独占するの」
「……えっ、いいの? 瑠々がそう言うなら、喜んで」
「エイト、やりなさい」 瑠々の鋭い指示に、影からエイトが応える。 「……了解しました。……外部接続完全遮断。記録は一切残しません。……お二人だけの、家族の時間をどうぞ」
ピアノの静かなイントロが流れ出す。 二人の声が重なった瞬間、それは「SSランク」や「代表」といった肩書きをすべて脱ぎ捨てた、ただの兄と妹の響き合いになった。悠真の温かな光を、瑠々の歌声が優しく、かつてのように包み込んでいく。
その様子を、物陰から見ていた優美那は、今夜ばかりは「婦女子」の顔を封印していた。 (……書けませんわ。……これは、他人が踏み込んでいい領域ではありません。悠真さんと瑠々さん……。この『家族』の絆こそが、サトエンの真の心臓なのですから……)
歌い終え、二人は顔を見合わせて笑った。
「……よし。これで2026年も、最高のスタートね、お兄ちゃん!」 瑠々が満足げに頷く。 「さあ、早く戻りなさい。紫苑さんが『私の許可なくエースを連れ出すとは何事だ!』って、今にもスタジオを壊しそうな勢いで探しているわよ」
「あはは、紫苑さんらしいや。……行こう、瑠々。みんなのところへ!」
悠真は、自らの光をより一層強く輝かせながら、大切な仲間と「家族」が待つ場所へ、力強く一歩を踏み出した。




