第80話:聖夜の静寂、女王へ捧ぐ感謝
祭りの後の静寂。ドームの屋上庭園には、冷たい風だけが吹き抜けていた。 紫苑は手すりに手をかけ、眼下に広がる街の光を、支配者として見下ろしている。
「……何をしている。祝勝会の主役が、許可なく私の前から姿を消すなと教えなかったか?」
振り返った紫苑の瞳は、SSランクの威厳を纏い、鋭く悠真を射抜いた。悠真はその圧力に気圧されそうになりながらも、一歩前へ踏み出す。
「……ごめん、紫苑さん。でも、これだけは伝えたくて。今夜の成功は、紫苑さんが僕らを徹底的に叩き直してくれたおかげだよ。これ……感謝のしるし」
悠真が差し出した小さな包みを、紫苑は一瞥した。
「感謝? 貴方の成長はサトエンの利益であり、私の支配が及ぶ範疇だ。礼を言われる筋合いなどない。……だが、その差し出した手をいつまで待たせるつもりだ。早く渡しなさい」
ぶっきらぼうに奪い取るように受け取ると、彼女は包みを解くこともせず、悠真の胸元を扇子で小さく突いた。
「勘違いするな、悠真。今夜の貴方の歌は、私の基準からすれば辛うじて合格点というだけだ。……だが、世界中にサトエンの、そしてこの私の所有物としての価値を示したことだけは評価してやる」
彼女はフッと口角を上げ、月光を浴びて冷たく、しかし美しく微笑んだ。
「今後も私の視界から外れることは許さない。貴方がどこまで高く飛ぼうとも、その翼を管理するのは私だ。……理解したなら、さっさと会場へ戻りなさい。私の隣を空けておくのは、退屈で仕方がない」
「……あはは、そうだね。一生ついていくよ、紫苑さん!」
植え込みの影。エイトが仮面を直し、静かに呟く。 「……紫苑さんの棘は、悠真さんを傷つけるためではなく、外敵から守るためのものなんですね。……占うまでもない、鉄壁の守護です」
そして、暗闇で執念深くペンを走らせる影。 「(シュッ! シュシュッ!!)」 優美那が、極限まで研ぎ澄まされた集中力で「女王と騎士」の構図を脳内に叩き込んでいた。 (……これよ! この『跪きなさい』と言わんばかりの圧倒的支配欲! それに応える悠さんの従順な光! メリークリスマス……人類、メリークリスマス!!)
サトエンの絆は、この聖夜、誰にも壊せぬ絶対的な契約へと昇華されたのである。




