第71話:封印の誓約、劇薬は箱の中へ
事務所の会議室。重苦しい沈黙の中、テーブルの上には一枚の書面が置かれていた。
「……いい、エイトくん。これはあなたの才能を否定するものではないわ。でも、あなたの歌は『エンタメ』という枠を超えて、人の尊厳を物理的に破壊する。……これは立派な兵器よ」
瑠々が珍しく、代表としての冷徹な顔で告げた。 その隣では、精神的ダメージから立ち直れない優美那が、ブランケットに包まりながら「うぅ……もうお嫁に行けない……」と小さく震えている。
「……申し訳ありません」 エイトは深々と頭を下げた。「歌おうとすると、どうしても……相手が一番触れられたくない『運命の澱』が、言葉になって溢れてしまうんです」
「シュウさん。あなたの弟子、これほどとは聞いていませんでしたよ」 阿久津マネージャーが画面越しのシュウを睨む。
「ははは、すまないね。エイトは『純粋』すぎるんだ。世界が隠している真実を、そのまま鏡のように映し出してしまう。……彼をCランクに留めていた運営の判断は、ある意味で正しかったというわけだ」
シュウの言葉を受け、瑠々は厳粛に「誓約書」をエイトの前に差し出した。
【サトエン緊急特別協定:霧島エイトに関する誓約】
歌唱配信の無期限禁止:エイトはサトエン所属中、いかなる場合も歌声を公開してはならない。
占いの使用制限:一日の限界20回を遵守し、さらに「個人のプライバシーを著しく侵害する占い」は、緊急時を除き原則禁止。
使用許可制:特殊な状況下での占いは、代表(瑠々)または現場責任者の許可を必須とする。
「……分かったよ。ごめんね、エイトくん。僕が安易に『歌おう』なんて言ったから……」 悠真がエイトの肩を沈んだ面持ちで叩く。
「……いえ。悠真さんのおかげで、自分の力の危うさが分かりました。……僕は、この力を『誰かを攻撃するため』には使いたくない。……誓います」
エイトはペンを取り、静かに署名した。 こうして、Link-V界隈を震撼させかけた「暴露の預言者」は、その力を厳重な管理下に置かれることとなった。
「……さて。誓約も済んだことだし、エイトくん」 瑠々が不敵な笑みを浮かべる。 「これからは、その『20回』をどうビジネスに繋げるか……徹底的に管理させてもらうわよ? まずは、一期生たちの『アンチの特定』と『炎上回避の予言』から始めてもらおうかしら」
「……あ、あの。……いきなり世知辛い使い道ですね」
サトエンに加わった最強の劇薬は、こうして「裏の守護神」としての道を歩み始めたのである。




