第70話:ブーメランの旋律、貴腐人の沈黙
「行きます……! 悠真さん、受け止めてください……!」
エイトが絞り出すように声を放った。それは歌というにはあまりに鋭く、空気を切り裂く衝撃波となってスタジオ中に、そして扉の隙間へと漏れ出した。
「――♪」
その瞬間、エイトの占いの力が歌声に乗り、周囲の「真実」を強制的に言語化し始める。悠真が衝撃に備えて身構えたが、エイトの口から飛び出したのは、悠真の秘密ではなかった。
『――廊下の影に潜みし 青き女王の熱き息……♪』
「え?」悠真が呆然とする。
『――端末に刻むは 妄想のカップリング(羅列)…… 悠真を右に固定し 新たな獲物を左に据える…… 昨夜の検索履歴は 「男同士 合宿 ハプニング」……♪』
「………………は?」
悠真の思考が停止する。 一方、扉の向こう側では、カシャン、というスマホが床に落ちる乾いた音が響いた。
「…………なっ、……えっ、あ、……えええええええええ!!?」
廊下から響き渡る、優美那の絶叫。 エイトの歌声は止まらない。さらに残酷な「真実」をメロディに乗せて加速させる。
『――表の顔は清楚な聖女……裏の顔は重度の腐…… 自室の隠し棚には 自作の「悠真×宵闇」薄い本……♪』
「優美那さん、待って!! 落ち着いてエイトくん、一旦止まろう!?」 悠真が慌ててエイトを止めようとするが、覚醒したエイトの瞳は虚空を見つめ、神託を吐き出し続ける。
バタン!! と勢いよく扉が開いた。 そこには、顔を真っ赤というよりは「真っ紫」にして、髪を振り乱した優美那が立っていた。
「やめてええええええ!! エイトくん、それ以上は死んじゃう! 私の社会的地位と尊厳が塵になっちゃうから!!」
「あ、優美那さん。……やっぱりそこにいたんですね」 エイトがふっと正気に戻り、マイクを置く。 「……すみません、占いが『一番隠しておきたいこと』を勝手に選んじゃうみたいで。……あの、僕のせいじゃないです。僕の喉が勝手に……」
「嘘よ! 悪魔よ! 預言者の皮を被ったサキュバスだわ……!!」
優美那はその場に泣き崩れた。 悠真は、呆然としたまま、足元に落ちている優美那のスマホ画面をチラリと見てしまった。そこには確かに、『悠エイ:救済の夜に芽生える……』という書きかけの小説タイトルが表示されていた。
「……優美那さん。……後で、ゆっくり話そうか。……色々、と」
悠真の「仏のような笑顔」が、優美那には何よりも恐ろしい死刑宣告に見えた。 エイトの初歌唱特訓。それは悠真ではなく、不届きな観測者を社会的に抹殺するという、凄まじい「暴露の洗礼」で幕を閉じた。




