第7話:最推しへの「最悪」な認知
昨夜の放送事故から一夜明け。 SNSでは僕の名前と、瑠々の「死ねば」という罵声が切り抜かれ、面白おかしく拡散され続けている。
当然、同接3人だった僕の『Link-V』のチャンネルは、野次馬たちで溢れかえった。ランクは月の区切りまで上がらない仕様だが、フォロワー数だけはSSSランク並みに急増するという、異常事態が起きていた。
(……死にたい。いや、死ぬ前に紫苑様に謝りたい……)
僕が全力でギフトを投げようとして、あろうことか実妹の配信にその音声を乗せてしまった件。紫苑様からすれば、自分の名前を「炎上のネタ」に使われたようなものだ。
僕は吸い寄せられるように、いつもの本屋へ向かった。 せめて、あの「似ている声」の店員さんの顔を見て、心を落ち着かせたかった。
「……あ。……いらっしゃいませ」
レジにいたのは、やはり彼女だった。 黒髪の美少女店員。名札には『白雪』と書かれている。
彼女は僕の顔を見るなり、ほんの一瞬だけ、眉をピクリと動かした。 その反応だけで、心臓が口から飛び出しそうになる。
「……あの、新刊……あ、いえ、やっぱりなんでもないです」
「……お客様」
彼女が、僕を呼び止めた。 いつもの事務的なトーンだが、心なしか昨日の配信での「紫苑様」と同じ、少しだけ呆れたようなニュアンスが混じっている。
「……『悠』さん、でしたか」
「!?!?!?!?!?!?!?!?」
僕は店内で飛び上がった。 本名ではなく、配信名の『悠』。それを、彼女が口にした。 つまり、彼女は昨夜の騒動を知っている。そして、僕が彼女の熱烈なリスナーであることを……。
「……あ、あの、ええと、あれは……!」
「……騒がしいのね。お隣も、貴方も。……配信に、私の声を乗せるのはやめて頂戴。不本意だわ」
彼女は視線を落とし、バーコードを読み取る作業に戻った。 だが、その頬は、ほんのりと赤らんでいるようにも見えた。
「……不本意、です、よね。……本当に、申し訳ありませんでした……! あ、あの! 嫌いにならないでください! 応援してるのは本当なんです!」
「……声が大きいです。……次からは、ミュート。忘れないで」
「はいっ!!」
僕は天を仰いだ。 これは間違いなく、本物の、現実の「紫苑様」だ。 僕の推しは、近所の本屋でバイトしている大学生(?)だった。
家に帰ると、案の定、瑠々がソファーでふんぞり返ってスマホを弄っていた。
「あ、クズ兄貴。おかえり。……何よ、そのニヤついた顔。炎上して頭おかしくなった?」
「……フフ。……フフフ」
「キモッ!! 近寄らないでよ! ……あ、運営から連絡。今回の炎上でアンタの注目度が上がったから、来月の『公式インタビュー枠』、アンタも強制参加だって。……良かったじゃない、Eランクの分際で」
瑠々はゴミを見るような目で僕を刺したが、今の僕にはそれすら心地よいBGMだった。
推しに認知された。 最悪の形ではあったが、彼女は僕を「悠」と呼んでくれた。
僕の爆音な日常は、ここからさらに加速しそうな予感がした。




