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『妹はミュート。推しは爆音。』  作者: 沼口ちるの


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7/82

第7話:最推しへの「最悪」な認知

昨夜の放送事故から一夜明け。 SNSでは僕の名前と、瑠々の「死ねば」という罵声が切り抜かれ、面白おかしく拡散され続けている。


当然、同接3人だった僕の『Link-V』のチャンネルは、野次馬たちで溢れかえった。ランクは月の区切りまで上がらない仕様だが、フォロワー数だけはSSSランク並みに急増するという、異常事態が起きていた。


(……死にたい。いや、死ぬ前に紫苑様に謝りたい……)


僕が全力でギフトを投げようとして、あろうことか実妹の配信にその音声を乗せてしまった件。紫苑様からすれば、自分の名前を「炎上のネタ」に使われたようなものだ。


僕は吸い寄せられるように、いつもの本屋へ向かった。 せめて、あの「似ている声」の店員さんの顔を見て、心を落ち着かせたかった。


「……あ。……いらっしゃいませ」


レジにいたのは、やはり彼女だった。 黒髪の美少女店員。名札には『白雪しらゆき』と書かれている。


彼女は僕の顔を見るなり、ほんの一瞬だけ、眉をピクリと動かした。 その反応だけで、心臓が口から飛び出しそうになる。


「……あの、新刊……あ、いえ、やっぱりなんでもないです」


「……お客様」


彼女が、僕を呼び止めた。 いつもの事務的なトーンだが、心なしか昨日の配信での「紫苑様」と同じ、少しだけ呆れたようなニュアンスが混じっている。


「……『悠』さん、でしたか」


「!?!?!?!?!?!?!?!?」


僕は店内で飛び上がった。 本名ではなく、配信名の『悠』。それを、彼女が口にした。 つまり、彼女は昨夜の騒動を知っている。そして、僕が彼女の熱烈なリスナーであることを……。


「……あ、あの、ええと、あれは……!」


「……騒がしいのね。お隣も、貴方も。……配信に、私の声を乗せるのはやめて頂戴。不本意だわ」


彼女は視線を落とし、バーコードを読み取る作業に戻った。 だが、その頬は、ほんのりと赤らんでいるようにも見えた。


「……不本意、です、よね。……本当に、申し訳ありませんでした……! あ、あの! 嫌いにならないでください! 応援してるのは本当なんです!」


「……声が大きいです。……次からは、ミュート。忘れないで」


「はいっ!!」


僕は天を仰いだ。 これは間違いなく、本物の、現実の「紫苑様」だ。 僕の推しは、近所の本屋でバイトしている大学生(?)だった。


家に帰ると、案の定、瑠々がソファーでふんぞり返ってスマホを弄っていた。


「あ、クズ兄貴。おかえり。……何よ、そのニヤついた顔。炎上して頭おかしくなった?」


「……フフ。……フフフ」


「キモッ!! 近寄らないでよ! ……あ、運営から連絡。今回の炎上でアンタの注目度が上がったから、来月の『公式インタビュー枠』、アンタも強制参加だって。……良かったじゃない、Eランクの分際で」


瑠々はゴミを見るような目で僕を刺したが、今の僕にはそれすら心地よいBGMだった。


推しに認知された。 最悪の形ではあったが、彼女は僕を「悠」と呼んでくれた。


僕の爆音な日常は、ここからさらに加速しそうな予感がした。

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