第68話:沈黙のCランク、預言者が歌えない理由
サトエンの防音スタジオ。特訓を前に、悠真は手元の資料にあるエイトのランク表示を指でなぞった。
「……ねえ、エイトくん。前から気になってたんだけど。これだけの占い能力があって、シュウさんの弟子で……なんでランクが『C』で止まってるの?」
一期生たちが爆速でAランクへ駆け上がる中、エイトのランクはピクリとも動かない。
エイトは、重いマイクを両手で握りしめたまま、ポツリと漏らした。
「……これでも、上がった方なんです。シュウ様に拾われる前、僕は『Gランク』……つまり、ライバーとして存在を否定されていました。今のCランクは、シュウ様が運営に『僕の占いは国家機密級の価値がある』って脅し……いえ、交渉して無理やり認めさせた特例なんです」
「Gランクから特例でCに……。でも、なんでそんなに評価が低かったの?」
「……僕の占いは、当たりすぎるんです。当たりすぎて……リスナーから『明日を夢見る自由』を奪ってしまう。僕が何かを言うたびに、配信の熱狂は消え、ただの『事務的な確認作業』に変わる。Link-Vのシステムは、そんな僕を『エンタメへの害悪』だと判断し続けているんです」
エイトが自嘲気味に、震える声で続ける。
「おまけに……僕が歌おうとすると、占いの力が暴走して、聴いている人の『一番隠しておきたい醜い真実』を歌詞に乗せて叫んでしまう。……無意識に」
「……えっ」
「歌は心を救うものなのに、僕が歌えば、それは相手の心を切り刻むナイフになる。……だから前の事務所ではマイクを持つことすら禁じられていました。……今の僕は、歌えないからこそ、このCランクという檻に閉じ込められているんです」
悠真は言葉を失った。 当たるからこそ疎まれ、救うほどに評価を下げられる。それは、歌うことで人々を繋いできた悠真にとって、最も孤独で残酷な「才能の檻」だった。
「……そっか。エイトくんは、正解を出すために歌いたかったんじゃないんだね」 悠真がエイトの肩を強く掴み、その濁った瞳を真っ直ぐに見つめる。
「よし、決めた! 今日の特訓は『正解を出さない練習』だ! 当たる当たらないなんてどうでもいい、エイトくんが今、何を叫びたいか……その『ノイズ』を音に乗せよう。……ランクなんて関係ない。僕が、君の歌を『感情』に変えてやる!」
「悠真さん……。……分かりました。……行きます。……あ、耳を塞いでおいてください。……一発目、真実を飛ばします!」
エイトが大きく息を吸い込み、魂を振り絞るように口を開いた。 運命を視る少年が、初めて「自分のための音」を放とうとした瞬間、スタジオ内の観測機がエラー音と共に激しく点滅を始めた。




