第65話:運命のポインター、霧島エイトの神託配信
サトエンの第4配信スタジオ。 今日はいつもの華やかなライブ機材ではなく、神田シュウから譲り受けたという古めかしいタロットカードと、瑠々が面白がって特注した「運命のホログラム」が空間を彩っていた。
「……あ、あの。霧島エイトです。……歌えなくて、すみません」
エイトの初単独配信。開始早々、画面には「歌わないライバー」への好奇心と懐疑心が入り混じったコメントが流れる。
『サトエンなのに歌わないの?』 『SSS神田シュウの弟子ってマジ?』 『占いなんて、どうせ誰にでも当てはまるようなこと言うんだろ?』
「……。……。……じゃあ、今コメントした『匿名希望A』さん。……あなた、昨日、大事な鍵を失くして……今、ソファの裏を必死に探してますね?」
一瞬、チャット欄が止まった。 数秒後、そのリスナーが絶叫に近いコメントを連打する。 『え、待って!? 今まさに探してたんだけど!! なんで分かったの!?』
「……次、そこの『ペンギン3号』さん。……今日、告白しようとしてますね。……やめたほうがいいです。相手、もう別の人と付き合い始めてます」 『……えっ』 『……嘘だろ、リアタイでフラれた……』
エイトの占いは、抽象的な「アドバイス」ではない。 具体的な「事実」を言い当てる、回避不能の精密射撃だった。
「……悠真さん、見ててください」 エイトはスタジオの防音ガラス越しに、見学していた悠真に少しだけ誇らしげな視線を送る。
「……次は、リスナー参加型の『運命ガチャ』をやります。……今から僕が指定する時間に、特定の行動をした人。……あなたたちには、一時間以内に『幸運』が訪れます。……信じない人は、やらなくていいです」
エイトが指定したのは、およそ占いの結果とは思えない奇妙な行動だった。 「一分間だけ、部屋の窓を開けて深呼吸する」
『なんだそれw』と笑うリスナーたち。しかし、実行した者たちから次々と「奇跡」の報告が舞い込んだ。 『懸賞の当選通知が今来た!!』 『疎遠だった親から「遺産が入った」って電話が来たんだけど!?』 『ずっと欲しかった限定フィギュアの再販予約が通った!!』
同時視聴者数は、歌枠でもないのに10万、20万と垂直上昇していく。
「……代表、これ、ヤバいわ」 鉄マネージャーがタブレットの数字を見て冷や汗を流す。 「彼が『この株を買え』なんて言ったら、市場が崩壊しますよ。歌で心を揺さぶる悠真様とは逆に、彼は現実を物理的に動かしている……!」
配信の最後、エイトは画面を見据えて静かに告げた。
「……僕の占いは、未来を変えるためのものです。……サトエンに来たのは、僕自身の運命も、ここでなら変えられると思ったから。……悠真さん、明日、僕に『歌』を教えてください。……運命では、僕は歌えないことになってる。……でも、それを壊したいんです」
その瞬間、チャット欄はエイトへの応援と驚愕で埋め尽くされた。 運命を視る少年が、運命に抗おうとする姿。それは、サトエンが持つ「熱量」が、ついに占いという静かな世界をも侵食し始めた瞬間だった。




