第61話:宵闇の招待状、男たちの共鳴
「……お兄ちゃん、これ見て。ちょっと面白いことになってるわよ」
瑠々がニヤニヤしながら差し出したタブレットには、あの大手『ノワール・レコード』の至宝、SSランク・宵闇堂魔からの直接のコラボ申請が映し出されていました。
「……宵闇さんから? 『先日の敗北を経て、貴殿の咆哮に興味を持った。一度、男同士でしか出せない音を追求してみないか』って……」
「あの『共感の破壊者』が、自分からコラボを申し込むなんて前代未聞よ。……お兄ちゃん、どうする?」
悠真に迷いはありませんでした。紫苑や優美那、そして瑠々といった「最強の女性陣」に囲まれ、華やかなステージに立ってきた悠真にとって、宵闇堂魔という「孤高の魔王」は、自分に足りない何かを持っている気がしたからです。
数日後、サトエンの第2スタジオ。 そこには、いつもの華やかな雰囲気とは無縁の、重苦しくも熱い空気が流れていました。
「……来たか。佐藤悠真」 宵闇堂魔が、影を纏ったような鋭い視線で悠真を迎えます。
「よろしくお願いします、宵闇さん。……今日は、僕も本気でぶつからせてもらいます」
「フン……。貴様の歌は、女たちに守られ、育まれてきた『光』だ。だが、男の喉には、それだけでは届かない『奈落』がある。……俺がそれを引きずり出してやる」
配信が開始されると、Link-Vのリスナーたちはその異様な光景に騒然となりました。
『え、悠真くんと宵闇堂魔!? 接点なさすぎてビビる』 『光のエースと闇の魔王……これ、混ぜるな危険だろ』 『女子禁制の熱い空間が始まる予感……!』
二人が選んだ曲は、重厚なメタルサウンドが唸る、魂の削り合いのような楽曲。 宵闇堂魔の、腹の底に響くようなSSランクのバリトンボイスが、スタジオを「闇」で塗りつぶしていきます。
悠真は、その圧倒的な圧力に圧されそうになりながらも、紫苑との特訓で培った「咆哮」で対抗します。しかし、何かが違う。
(……もっと深く……! 守られるんじゃなくて、一人で立って、相手を殴り倒すような……!)
悠真の歌声が、変化しました。 優美那の優しさも、紫苑の華麗さも脱ぎ捨てた、一人の「男」としての剥き出しの執念。
「――おおおおおおお!!」
その歪んだ、けれど力強い絶叫が、宵闇の闇を真っ向から突き破ります。
「……ハッ、そうだ! それだ、悠真!!」 宵闇堂魔が、配信中にも関わらず狂おしげに笑いました。
二人の声が重なった瞬間、コメント欄は女子リスナーの悲鳴と、男子リスナーの熱狂で爆発しました。 『何これ、いつもの悠真くんじゃない……!』 『宵闇様とバチバチにやり合ってる!?』 『サトエンに足りなかったのは、この「猛々しさ」だったのか……!』
配信終了後、汗だくの二人は無言で拳を合わせました。
「……認めてやろう、悠真。貴様はもう、女たちの『楽器』ではない。一人の、恐るべき歌い手だ」
「……ありがとうございます。……でも、次は僕が、宵闇さんを闇から引きずり出してみせますよ」
初の男同士のコラボは、悠真の中に眠っていた「野生」を呼び醒ます、運命の一夜となったのでした。




