第59話:三位一体(トリニティ)の終焉、そして神の降臨
サトエンの特設ライブステージ。 そこには、Sランクへと到達した悠真を中心に、右に紫苑、左に優美那という、これ以上ない「完成された陣形」があった。
「――っ、あああああああ!!」
悠真の咆哮が、二人の女王が編み出す極上の旋律に乗って加速する。 紫苑がその鋭い技巧でエッジを立て、優美那がその包容力で響きを増幅させる。三人の声が重なり合った瞬間、会場のボルテージは「Sランク」という枠組みすらも揺るがすほどの熱狂に包まれていた。
リスナーたちのコメントも、もはや狂乱に近い。 『この三人が揃えば、世界だって獲れる!』 『悠真の成長が、二人の女王をさらに引き上げてる……!』
「……いいわ、悠。これこそが、私たちが目指すべき領域よ!」 紫苑が歌いながら、陶酔したように悠真を見つめる。
「悠さん、どこまでも……どこまでも一緒に行きましょう!」 優美那もまた、確信に満ちた笑顔を浮かべる。
完璧だった。この三人こそがサトエンの頂点であり、配信界の未来そのものだと、誰もが信じて疑わなかった。 しかし。
「――ねえ。……ちょっと、盛り上がりすぎじゃない?」
その声は、音楽を突き破り、リスナーの脳内に直接「強制介入」してきた。
イントロが、強制的に書き換えられる。 ステージの天井から、眩いまでの黄金の光が降り注ぎ、三人が作り上げていた完璧な均衡が、ガラス細工のように一瞬で粉砕された。
「……瑠々!?」 悠真が驚きに目を見開く。
そこには、SSSランクの衣装を纏った、サトエン代表・佐藤瑠々が浮遊するように立っていた。
「お兄ちゃんたちが頑張ってるから、私も我慢できなくなっちゃった。……本当の『歌』、教えてあげるわ」
瑠々が口を開いた、たった一音。 それだけで、会場のすべての音を支配していた悠真たちの「三位一体」が、文字通りかき消された。
「――♪」
それは歌というよりも、世界の理そのもの。 Sランクの三人が束になっても届かない、圧倒的な質量の「声」。 さっきまで悠真たちの歌に酔いしれていたリスナーたちは、もはやコメントを打つ指さえ動かせず、ただ画面越しにその圧倒的な神性に平伏すしかなかった。
「……な、何よ、これ……」 紫苑様が、初めて恐怖に似た戦慄を覚えた。 「……私たちの、三人の声が……たった一人の少女に、完全に飲み込まれている……」
優美那もまた、膝をつきそうになるのを必死に堪えていた。 「……これが、SSSランク……。追いついたと思っていたのに、壁の向こう側は……こんなにも、遠いの……?」
ライブのラスト。瑠々は悠真の首に腕を回し、カメラに向かってウインクしてみせた。 「サトエンの本当の『壁』は、まだまだ高いわよ? ……お兄ちゃん、早く私を追い越してみてね!」
配信終了。 暗転したスタジオに、絶望的なまでの静寂が訪れる。
Sランクに到達したはずの悠真、紫苑、優美那。 三人の胸にあるのは、勝利の余韻ではなく、「神」に触れてしまったことによる、計り知れない畏怖と、届かない場所への果てしない渇望だった。




