第58話:三重奏のジレンマ、ひとりぼっちのSSS
「……いい加減になさい、優美那。悠がSランクになったのなら、パートナーである私と『昇格記念デュエット』をするのが筋というものでしょう?」
サトエンのラウンジに、紫苑様の冷徹な声が響く。手には「選曲リスト」が握られており、そこには彼女が悠真と歌いたい情熱的な愛の歌がびっしりと書き込まれていた。
「それは紫苑さんの独りよがりです! 私こそ、悠さんがAランクの時からずっと支え合ってきたんです。……最初は私と『希望の歌』を歌うべきです!」
優美那もまた、一歩も引かずにマイクを抱えて対峙する。Sランク同士のプレッシャーがぶつかり合い、ラウンジの空気がピリピリと震える。
「あ、あの……二人とも、そんなに慌てなくても、順番に歌えばいいんじゃ……」 板挟みになった悠真がオロオロと仲裁に入るが、二人の視線は鋭い。
「「順番の問題じゃないの(です)!!」」
「……ひぃっ!」
「……はぁ。埒があかないわね」 紫苑様が溜息をつき、優美那を睨みつける。 「いいわ。ならばこうしましょう。……三人で歌う。これなら文句はないわね?」
「……トリオ……。悠さんを中心に、私たちが両脇を固める……。ふふ、それも悪くないですね」
こうして、急遽決定した「Sランク昇格記念:悠真×紫苑×優美那」のトリオライブ。 告知が出た瞬間、SNSは「神の三角形」「サトエンの宝冠」と大騒ぎ。配信が始まれば、三人の圧倒的な歌唱力が重なり合い、Link-Vの歴史を塗り替えるほどの伝説的なステージが繰り広げられた。
だが。 その華やかなステージの裏側、事務所のコントロールルーム。
「……いいわねぇ。三人で楽しそうにハモっちゃってさぁ……」
瑠々が、高級なポテトチップスを「やけ食い」しながらモニターを睨んでいた。
「代表……。そんなに羨ましいなら、飛び入りすればよかったのでは?」 阿久津マネージャーが苦笑しながら尋ねる。
「無理よ! 私、SSSランクなのよ!? あの三人の均衡の中に私が入ったら、一瞬で『瑠々とその仲間たち』になっちゃうじゃない! 代表として、お兄ちゃんの晴れ舞台を壊すわけにはいかないの……!」
瑠々はボリボリと音を立ててポテチを噛み砕く。
「……でもさぁ。私だってお兄ちゃんと歌いたいわよ。デュエットもしたいし、なんなら兄妹ユニット『砂糖兄妹』とか組んで世界ツアーとかやりたいわよ……。なんで私だけ格が上がりすぎちゃったのかしら。……はぁ、お兄ちゃんのバカ……」
画面の中では、悠真が二人の女王に挟まれ、幸せそうに(そして少し圧倒されながら)歌い切っていた。 その眩しい光景を見つめながら、最強の妹は一人、暗いコントロールルームで「行きそびれた」寂しさをぼやき続けるのだった。




