第54話:終焉の光、SSSランクの真実
「……そこまでよ、二人とも」
その声は、マイクを通しているはずなのに、リスナー全員の鼓膜を直接撫でるような不可解な振動を伴っていた。
スタジオの中央。今まで悠真たちの背中を見守っていた瑠々が、ゆっくりとヘッドセットを直した。 彼女がただ一歩、前に出る。 それだけで、暴風のように荒れ狂っていた星野ルミの光と宵闇堂魔の闇が、まるで時間が止まったかのように静止した。
「……瑠々!?」 星野ルミの驚愕の声が響く。
「……ルミさん。大手の看板を背負って戦うのは立派だけど……私の『家族』を傷つけるなら、話は別よ」
瑠々が歌い出したのは、メロディですらない「ハミング」だった。 けれど、その瞬間。100万人を超えていた視聴者の画面が、一斉にサトエンのロゴカラーに固定された。
これがSSSランク――いや、その中でも頂点に君臨する『佐藤瑠々』の権能。 【絶対支配】。
彼女が声を重ねた瞬間、優美那の光はより輝きを増し、紫苑の闇はより深く研ぎ澄まされ、そして悠真の咆哮は、宇宙を突き抜けるほどの「柱」となった。
「――お兄ちゃん、優美那ちゃん、紫苑さん! サトエンの『音』を、あいつらの脳髄に直接刻んでやりなさい!!」
瑠々のSSSランク特有の超広帯域なコーラスが、三人の声を束ね、増幅し、一撃の槍へと変える。 それはもはや「歌枠」という概念を超えた、精神の奔流だった。
「……あ、あああああ!!」 星野ルミの光が、粉々に砕け散る。 「……馬鹿な、SSSランク同士のはずなのに……この熱量は何だ……!」
「……クソッ、これが……本物の『頂点』か……!」 宵闇堂魔が、その圧倒的な実力差に初めてマイクを離した。
スコアボードが、測定不能(ERROR)の表示と共にカンストする。 沈黙。 やがて、画面いっぱいに表示されたのは、サトエン側の「VICTORY」の文字だった。
星野ルミと宵闇堂魔は、ただただ呆然としていた。 大手の看板を背負い、負けるはずのない戦いに挑んだはずが、蓋を開けてみれば、一人の男を巡る三人の女王の絆と、その中心にいる「兄」という存在に、完膚なきまでに叩きのめされたのだ。
『……負けたわ。……完璧に、負けた』 星野ルミの、どこかスッキリとした声。
『……サトウ・エンターテインメント。……覚えておこう。この「闇」よりも深い絆があることを』
配信が終了した瞬間、悠真はその場に崩れ落ちた。 「……終わった、のか……?」
「お疲れ様、お兄ちゃん。……サトエンの初陣、大勝利ね!」 瑠々がいつもの無邪気な笑顔で、悠真の頭を撫でる。 その横には、共に戦い抜いた優美那と紫苑が、誇らしげに、そして熱烈な視線を悠真に注いでいた。
この日、サトエンは単なる「新設事務所」から、配信界のすべてのパワーバランスを破壊する「聖域」へと昇華した。




