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『妹はミュート。推しは爆音。』  作者: 沼口ちるの


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第52話:衝突のプレリュード、誇り高き刺客たち

サトエンの事務所は、かつてない静寂と熱気の中にあった。 モニターに映るのは、同時視聴者数120万人という異常な数字。これは大手『スターダスト・V』と『ノワール・レコード』が、自社の威信をかけて総力を挙げてプロモーションした「制裁」の舞台だった。


「悠様、瑠々代表。……相手は本気です」 鉄マネージャーがタブレットを叩き、分析データを展開する。 「SSSランク、星野ルミ。彼女の強みは圧倒的な『多幸感』の共有。彼女が歌えば、リスナー全員が『主役』になった錯覚に陥り、ギフトの連打が止まらなくなる。……そしてSSランク、宵闇堂魔。彼は『共感の破壊者』。聴く者のトラウマや孤独に直接訴えかけ、熱狂的な信者を生み出す」


「……つまり、王道と覇道のツートップってわけね」 瑠々が珍しく、真剣な表情でヘッドセットを装着した。


その時、画面が切り替わり、星野ルミの煌びやかなアバターが登場した。 「ハロー、サトエンの皆さん。……優美那、聞こえてる? 貴方が選んだ『自由』って、この程度の安っぽい事務所で、格下の男と一緒に歌うことだったの? ガッカリだわ」


続いて、宵闇堂魔の影を纏ったような声が響く。 「紫苑……。貴様という最強の駒を失ったノワールの損失、その喉を差し出すことで埋めてもらおうか。……サトエンごと、僕の闇に沈めてやる」


スタジオの隅で、優美那が拳を握りしめ、紫苑様は冷徹なまでに静かに目を閉じていた。


「……瑠々、僕に行かせて。……二人の移籍が間違いじゃなかったって、僕の歌で証明しなきゃいけないんだ」 僕は震える足を一歩前に出した。


「……わかってるわよ。お兄ちゃん。……でも、アンタ一人じゃあいつらの『格』に飲み込まれる。……私が、配信の『主導権ドミナンス』を握るわ。アンタは、その隙間を全力で駆け抜けなさい!」


配信開始のブザーが鳴る。 先制は星野ルミだった。彼女の第一声が放たれた瞬間、サトエン側のチャット欄までが彼女のイメージカラーである「スター・イエロー」に染まり始める。 SSSランクが持つ、リスナーの意識を強制的に塗り替えるほどの圧倒的な『華』。


「――っ、なんて光だ……。耳が、意識が持ってかれる……!」


「悠様、耐えてください! 今、阿久津が法務ルートでサーバーの不当な帯域占有を牽制し、結城がサトエン・リスナーの結束を煽っています!」


裏方の必死のサポート。そして、瑠々が歌い出した。 「――私のリスナーを、勝手に連れて行かないでくれる?」 瑠々の歌声は、星野ルミの「拡散する光」とは対極の、「一点に集約する重力」だった。 SSSランク同士の激突。二つの太陽がぶつかり合うような衝撃が、Link-Vのシステム全体を軋ませる。


その均衡を破ったのは、宵闇堂魔の低音だった。 「……隙だらけだ。消えろ」 瑠々の重力を切り裂くように放たれた、SSランクの鋭い旋律。


サトエン側のスコアが急落し、敗北の二文字が僕の脳裏をよぎったその時。


「……悠、何を迷っているの」 紫苑様が、僕の肩にそっと手を置いた。 「……貴方の歌は、あんな綺麗な星や、冷たい闇には収まらないはずよ。……泥を啜り、血を吐いてでも届けたい『言葉』があるのでしょう?」


「悠さん、信じています。私たちの、最高のエースを」 優美那の祈るような声。


「――っ、あああああああ!!」


僕は、マイクが壊れんばかりの声で咆哮した。 それは、星野ルミのような完成された美しさでも、宵闇のような洗練された闇でもない。 ただ、必死に、泥臭く、今この場所に立っている自分の存在を叫ぶだけの歌。


だが、その「不完全な熱」が、SSSランクたちの完璧な均衡を崩した。 リスナーたちが、完成された「作品」としてのルミの歌ではなく、目の前で命を削って歌う悠真の「生き様」に心を動かされ始めたのだ。


『……何だ、このAランクの男。……声が、胸に刺さって抜けない』 『ルミ様の歌は素晴らしい。……でも、この男の歌は、放っておけない!』


コメント欄に、サトエンを応援する「青い炎」が灯り始める。 それは小さな火種から、やがて大手を飲み込むほどの大火災へと広がっていった。

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