第45話:牙を隠さぬ後輩たち、サトエン親睦会
事務所近くのキッチンスタジオ。 瑠々の「最初は顔を突き合わせて飯を食うのが一番よ」という鶴の一声で、一期生10名と僕たちの親睦会が開催された。
だが、会場の空気は「親睦」とは程遠い、ピリついた緊張感に包まれていた。
「――十九条アリア、Bランクです。悠さん、今日は『先輩』としてじゃなく、次期エース候補として挨拶しに来ました」
真っ先に僕の前に立ったのは、やはりアリアだった。 Bランク上位。同接数も安定しており、本来ならどこでも即戦力になれる彼女は、僕を射抜くような視線で見つめていた。
「……よろしく、アリアさん。君の歌はオーディションで聴かせてもらったよ。……凄かった」
「お世辞はいいです。……私がここを選んだのは、悠さんのあの『叫び』が、私の計算にはないものだったから。……盗めるものは、全部盗ませてもらいます」
彼女に続くように、次々と自己紹介が始まる。 男子3人のうち、元劇団員の「瀬名」は爽やかな笑顔の裏で僕の挙動を観察し、ギター少年の「律」は一言も発さず僕の喉元を凝視している。
「……あ、あの、お兄ちゃ……げふん。悠先輩、ちょっと圧倒されすぎじゃない?」 給仕に回っていた瑠々が耳元で囁く。
それもそのはず。この10人のうち、アリアを含めた3人はすでにBランク。他のメンバーもCランク上位や、別ジャンルで数万人のフォロワーを持つ「ベテラン」揃いなのだ。
「……えー、皆さん。改めて、サトウ・エンターテインメントへようこそ」
僕は意を決して、グラスを掲げた。
「僕もAランクに上がったばかりで、皆さんに教えられることは少ないかもしれません。……でも、一つだけ言えることがあります。この事務所には、紫苑様や瑠々、そして有能なマネージャーたちが揃っています。……皆さんが『自分だけの声』を見つけるための準備は、僕が命懸けで守ります」
その言葉に、少しだけ会場の空気が和らいだ。 だが、その時。
「……口先だけなら、誰でも言えるわよね」
冷ややかな声と共に、スタジオのドアが開いた。 現れたのは、仕事終わり(?)の白雪さん……いや、紫苑様だった。
「……紫苑様!? どうしてここに」
「近所で用事があっただけよ。……ついでに、新しい『家畜』たちの顔でも拝もうと思ってね」
彼女が部屋に入った瞬間、Bランクのアリアでさえも直立不動になった。本物の「Aランク・トップ」が放つ威圧感は、それほどまでに絶対的だった。
「……悠。この子たちに『先輩』として認められたいなら、言葉ではなく……背中で見せなさい。……一曲、歌ってあげたらどうかしら? この子たちが、自分の未熟さを知るために」
紫苑様の無茶振り。けれど、10人の後輩たちの目は「それが見たかった」と言わんばかりに輝き、僕を逃さないように囲んでいた。




