第42話:サトエンの心臓、三人の守護神
「……お兄ちゃん、もう限界。私の指、DMの返しすぎで腱鞘炎になりそう」
瑠々がリビングのソファで力尽きていた。3000人の応募、10人の一期生選抜、さらに僕たちの配信スケジュール管理。個人事務所のキャパシティは、とっくに限界を超えていた。
「わかった、瑠々。まずは『中の人』を固めよう。……ライバーの審査の前に、僕たちの右腕になるスタッフを3人選んだよ」
僕が書類を差し出すと、瑠々は「どれどれ……」と死んだ魚の目でチェックし始めたが、その経歴を見るなり飛び起きた。
1. 統括マネージャー:鉄
元・外資系コンサル出身の30代男性。 「趣味は効率化です」と言い切る彼は、3000人の応募データを一晩で整理し、独自の「スター性算出アルゴリズム」を作成。 「佐藤代表(瑠々)、あなたの時間は一分あたり○万円の価値があります。無駄な返信はすべて私が自動化し、精査します」と、瑠々の仕事を一瞬で奪い取った。
2. 制作・タスク管理:結城
業界最大手の芸能事務所で現場マネージャーをしていた20代女性。 「紫苑様の気難しさは存じております。彼女の機嫌を損ねず、かつ悠様のスケジュールをねじ込むのは、私にしかできません」 修羅場を潜り抜けてきた彼女は、紫苑様や優美那の事務所との調整、イベント設営などを秒速でこなしていく「現場の鬼」。
3. 法務・財務・トラブル対策:阿久津
常に無表情な、眼鏡の弁護士資格保持者。 「配信界の契約は穴だらけです。一期生が炎上した際の法的防壁、および佐藤兄妹の資産運用は私にお任せを。……ちなみに、事務所名の『サトエン』については、商標登録を済ませておきました」
「……お、お兄ちゃん。この人たち、スペック高すぎて怖いわよ」 「その代わり、給料もしっかり払わなきゃいけないからね。頑張って稼がないと」
三人のプロが加わった瞬間、サトエンの空気は「趣味の延長」から「プロの戦闘集団」へと一変した。 鉄さんがスケジュールを管理し、結城さんが現場を回し、阿久津さんが背後を固める。
「――悠様、準備を。紫苑様との打ち合わせまであと5分です。無駄な会話は3分以内に切り上げてください」 鉄さんの無機質な指示が飛ぶ。
「……う、うん。行ってきます、社長!」 「行ってらっしゃい! ……なんか、本当の『事務所』っぽくなってきたわね……」
裏方が整い、サトエンの歯車が高速で回り出す。 いよいよ、3000人から選ばれる「10人の一期生」の選別が、冷徹なまでの精度で始まった。




