第41話:サトエン狂騒曲、3000人の挑戦状
「……お兄ちゃん、これ見て。笑えないわよ」
事務所設立の翌朝。リビングで瑠々が差し出してきたタブレットには、天文学的な数字の通知が並んでいた。
「……DM、1500件? 公式メールフォームにさらに1500件? 合計3000通……!?」
新事務所『サトウ・エンターテインメント』。 「佐藤さんの砂糖問屋」「ダサい」とあれほどリスナーに叩かれたはずなのに、蓋を開けてみれば、所属を希望するライバー志望者からの応募が殺到していたのだ。
「……アンタのあの『ありがとう配信』と、紫苑さんを振り切って独立したっていうストーリーが、野心のある新人たちに火をつけたみたいね。……『ここなら本当の個性を磨ける』なんて、熱いメッセージばっかり」
「3000人の中から……僕たちが選ぶの?」
「当たり前でしょ、社長は私なんだから。でも、今の私たちのキャパじゃ、面倒見切れるのはせいぜい10人が限界。……よし、やるわよ。『サトエン第一期生・地獄のオーディション』!!」
倍率300倍。 Link-V史上、最も狭き門と言われるオーディションの開催が発表されると、ネット上はさらなるお祭り騒ぎとなった。
『サトエン、10枠に3000人ってマジかよ』 『SSSランクの瑠々様にプロデュースされて、Aランクの悠真にボイトレしてもらえるんだろ? 宝くじより当たらんわw』 『紫苑様が審査員席にいたら、緊張で泡吹いて倒れる自信ある』
そしてオーディション当日。 特設のスタジオ(という名の、瑠々が借りてきた本格的な会議室)には、全国から集まった個性豊かな候補者たちが、殺気立つほどの熱量を放っていた。
「……紫苑様、わざわざ審査員を引き受けてくださって、ありがとうございます」
審査員席の中央。冷徹な美しさを纏った白雪さんは、3000人の書類が詰まったタブレットを一瞥し、不敵に微笑んだ。
「……勘違いしないで。私は、貴方の隣に立つにふさわしい『予備軍』がいるかどうか、確かめに来ただけよ。……つまらない歌を歌う子が来たら、その場で不合格の『喝』を叩き込んであげるわ」
「ひ、ひえぇ……」
悠真(ボイトレ・実技担当)、瑠々(ビジュアル・収益性担当)、そして白雪(魂・芸術性担当)。 この「地獄の審査員席」の前に、ついに最初の一人が足を踏み入れる。
「……失礼します! サトエン一期生志望、十九条アリアです! 私の歌で、紫苑様を黙らせに来ました!」
現れたのは、悠真の「絶叫配信」に憧れて配信を始めたという、生意気で、けれど圧倒的な光を放つ少女だった。
サトエンの、そして悠真の「先輩」としての新たな物語が、波乱と共に幕を開ける。




