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『妹はミュート。推しは爆音。』  作者: 沼口ちるの


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第38話:おかえり、僕の始まりの人たち

告知なしのゲリラ配信。『ありがとう』というタイトルのその枠は、10万人を超えた最新のリスナーたちに混じって、どこか懐かしい空気が流れていた。


僕がEランク時代のエピソードを話し、当時の曲を歌い上げたその時。 怒涛のように流れる最新のコメントを切り裂いて、一つの名前が目に飛び込んできた。


『……久しぶりに聴いたけど、やっぱり悠くんの歌は落ち着くなぁ』


そのユーザー名は、僕がBランクに上がる直前、パタリと見かけなくなった「たなか」さんだった。


「……! たなかさん! 来てくれたんですか?」


思わず叫んだ僕の声に、初見のリスナーたちがざわつく。 『誰? 有名人?』『いや、古参の人っぽいぞ』


たなかさんは、照れくさそうにコメントを続けた。 『ごめんね、最近仕事が忙しくて。それに、悠くんがどんどん有名になって、僕みたいな地味なリスナーはもう必要ないかなって思っちゃって……。でも、今の歌を聴いて確信したよ。悠くんは、あの頃と何も変わってないんだね』


続いて、もう一人。かつて僕の「噛みまくり雑談」を誰よりも面白がってくれた「猫パンチ」さんの名前も現れた。


『私もずっと影で見てたよ。Aランク昇格、本当におめでとう。たまにしか来られないけど、疲れた時はまたここに戻ってきてもいいかな?』


胸の奥が、熱いもので満たされていく。 ランクが上がれば、毎日会うことは難しくなる。生活環境も変わる。 けれど、「毎日来なきゃいけない」という義務感ではなく、「ふと思い出した時に帰りたくなる場所」に僕の配信がなっていたこと。それが何よりも嬉しかった。


「……もちろんです。毎日じゃなくていい。一ヶ月に一回でも、一年に一回でも。……皆さんが戻ってきた時に、あの日よりも成長した僕でいられるように、僕はここで歌い続けます」


画面の向こうで、瑠々が少しだけ鼻をすすっている音が聞こえたような気がした。 彼女もまた、自分の初期リスナーたちの名前を、そっと心の中で呼んでいるのかもしれない。


そして、その様子を静かに見守っていた紫苑(白雪さん)が、僕の枠にだけ見える「シークレット・ギフト」を投げた。 エフェクトは派手ではない。けれど、そこには一言、メッセージが添えられていた。


紫苑:『……帰る場所があるから、鳥は高く飛べるのよ。……今夜は、その温もりに浸りなさい』


新しいファンが僕を押し上げ、古いファンが僕を支えてくれる。 Aランクという孤独な高みに立つための、本当の強さを手に入れた夜だった。



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