第31話:三ヶ月の執念、優美那が描いた「最強」の舞台
「――悠さん。やっと、この日が来ましたね」
ライブ会場の袖。華やかなドレスに身を包んだ優美那が、震える手でマイクを握りしめていた。
彼女がAランクに昇格してから今日まで、ちょうど三ヶ月。 その間、彼女はAランクという激戦区で、古参リスナーとの別れやアンチの攻撃に晒され、孤独に摩耗していた。その停滞感を打ち破ったのが、つい数日前、悠真が放ったあの「成長の放送事故(絶叫配信)」だった。
「……悠さん、知っていますか? 私はAランクに上がってからずっと、自分の歌を見失っていたんです。でも、数日前の悠さんのあの叫びを聴いて、目が覚めました。……今の悠さんとなら、私が三ヶ月間ずっと準備してきた『本当の理想』を形にできるって、確信したんです」
優美那の瞳には、かつての弱気な少女の面影はない。 悠真の進化を目の当たりにし、一人の配信者として、そして悠真の「歌」に惚れ込んだ一人のファンとしての熱が、彼女を突き動かしていた。
『――お待たせしました。……私のAランクを、今日、完成させるために呼びました。スペシャルゲスト、悠!!』
優美那の呼び込みと共に、ステージの幕が上がる。 同時に鳴り響くのは、彼女がこの日のために三ヶ月間、密かに事務所と交渉し、個人予算を投じて手配していた一流ジャズバンドによる生演奏だ。
「――♪」
イントロが流れた瞬間、観客は息を呑んだ。 彼女がこの三ヶ月、誰にも見せずに温めてきたのは、悠真のあの「剥き出しの熱量」を最大限に引き立て、かつ自分の「洗練」と調和させるための、究極のセッション。
「……凄い。優美那ちゃん、君……こんなことのために、一人で準備を……」
僕も負けてはいられない。数日前のあの感覚を、今度は「技術」としてコントロールし、彼女が用意してくれた最高のキャンバスに叩きつけた。 優美那の澄んだ高音が、僕の魂を揺さぶる低音を掬い上げ、空高く昇華させていく。
コメント欄は、数日前の「放送事故」を伝説へと昇格させる絶賛で埋め尽くされた。 『不仲説とか言った奴、土下座しろ』『数日前のあの叫びが、ここで完成するのか……!』
関係者席でそれを見つめていた白雪さんは、深く椅子に身を沈めた。
「……あの子(優美那)、私を出し抜くつもりね」
「……あら、嫉妬? 紫苑さん」
隣で瑠々が不敵に笑う。 白雪さんは否定しなかった。三ヶ月間、悠真の「師匠」として彼を育ててきたはずの自分が、その「一番美味しい結実の瞬間」を、親友に完璧な形でプロデュースされてしまったのだから。
ライブが終わった後の静寂。 拍手の渦の中で、優美那は僕にだけ聞こえる声で囁いた。
「……悠さん。これで、もう誰も『格下』なんて言わせません。……今の悠さんは、私にとっても最高の『推し』ですから」
彼女はファンであり、ライバル。 三ヶ月の孤独を耐えた彼女の執念が、数日前に覚醒した僕の声を、最高の形で世界に知らしめた。




