第3話:一方、底辺の月末日はというと
「えー……今月も、あと一時間で終わりですね……。皆さん、お疲れ様です……」
配信アプリ『Link-V』、月末の23時。 僕、悠真のスマホ画面に表示されている「現在のランク順位」は、見るも無惨な圏外に近いEランクだ。 今月も、時給3万円すら届かない「ただの趣味」以下の結果が確定しようとしていた。
画面を流れるコメントは、常連の二人だけ。 『悠くん、今月も残念だったね』 『無理しないでね、お疲れ様』 そんな同情が、今の僕には何よりも痛い。
だが、僕の本番は自分の配信ではない。
「あ、ちょっと……休憩します。マイクオフにしますね」
僕は自分の配信を「無音・静止画」状態にするという、配信者としてあるまじき挙動に出た。 そして、即座にサブ端末のスマホを手に取り、慣れた手つきで「彼女」の枠へ潜り込む。
「……最後の一時間ね。最後まで付き合ってくれる物好きは、どれくらいいるのかしら」
画面に映るのは、僕の魂の救済、紫苑様だ。 現在Aランク。 SSSランクを目指すイベントの真っ最中だが、現在の順位は6位。 SSSに昇格できるのは上位3人のみ。この一時間のギフト量で、彼女の来月の人生が決まるのだ。
「紫苑様……! 今、僕が、僕だけが貴方を支えます……!」
僕は、自分の過疎配信をバックグラウンドで走らせたまま、バイトで血を吐く思いで稼いだ今月の給料のすべて――「10万ポイント」のギフトボタンに指をかけた。
(ポチッ、ポチポチポチポチッ!)
画面に乱舞するギフトのエフェクト。 僕の銀行残高と引き換えに、紫苑様の背後にデジタルな花火が打ち上がる。
「……あら、『ユウ』。貴方、またこんなに投げて。……馬鹿ね。でも、嫌いじゃないわ。貴方のその執着だけは、認めてあげる」
「あああああ! 認知された! 罵倒混じりの感謝、助かる……っ!!」
自分の配信のリスナー(2人)を放置して、推しの配信で叫びながら金を溶かす。 冷静に考えれば、意味がわからない。いや、もはや狂気の沙汰だ。
その時、壁の向こうから地鳴りのような咆哮が聞こえてきた。
「よっしゃあああ! 1位確定! チョロすぎ!!」
……妹、瑠々の歓喜の雄叫びだ。 マイクが切れているのをいいことに、彼女は本性を剥き出しにしている。 数千万のギフトを掠め取ったSSSランクの勝ち鬨。
対して僕は、財布を空にして、自分の過疎配信のカメラに向かってボソリと呟く。
「……すみません。戻りました。……えっと、今月も、応援ありがとうございました……」
同接は、ついに1人になった。 紫苑様の順位は……結局、一歩及ばず5位。 救えなかった。僕の10万円では、彼女を頂点に連れて行くにはあまりに無力だった。
静まり返った自室。 スマホから聞こえるのは、配信を終えて「ふぅ」と毒を吐く紫苑様の吐息と。 壁の向こうで「お兄ちゃん! 肉! 早く焼いてよ!」と叫ぶ、現実の怪物の声だけだった。
ここから成りあがるストーリーどうすれば!
乞うご期待!




