第27話:足踏みのBランク、見えない「A」の境界線
Bランクに昇格して三ヶ月。 僕の勢いは、目に見えて鈍化していた。
「……本日も、ありがとうございました。また次回の配信で」
配信終了のボタンを押す。同接数は8,000人。 数ヶ月前なら「大成功」と喜んでいた数字だが、今は違う。一時は1万5,000人を超えていた数字が、じわじわと右肩下がりに削られている。
(……上がらない。スコアが、全く伸びない)
Bランク(月収13万)からAランク(月収20万)へ上がるには、今の数倍の「熱量」が必要だ。だが、今の僕の配信は、かつての「底辺からの下克上」という物語を失い、単なる「歌の上手いBランク」に成り下がっていた。
さらに追い打ちをかけるように、コメント欄には冷ややかな声が混じり始める。
『最近、歌枠ばっかりで飽きてきたわ』 『紫苑様とのコラボがないと、悠くんって普通だよね』 『優美那ちゃんはもうAランクで新曲出してるのに……』
「……くそっ」
僕はスマホを投げ出した。 先にAランクへ上がった優美那は、新しいリスナー層を完璧に掴み、Aランクという激戦区でも堂々と順位を上げている。彼女の「積み上げてきた地力」と、僕の「一時のバズ」の差が、ここに来て残酷なほど明確に現れていた。
リビングへ出ると、瑠々が自身のSSSランクの維持に余念がなく、真剣な表情で海外のトレンドを分析していた。
「……兄貴。数字、落ちてるわね」
「……分かってるよ。何がいけないんだ? 歌の練習は毎日してるし、配信頻度も落としてない」
瑠々は、僕の活動履歴をタブレットで一瞥して鼻で笑った。
「アンタ、自分が『プロ』になったと勘違いしてない? 綺麗に歌うだけなら、その辺のAIでもできるわよ。リスナーがアンタに求めてたのは、必死に紫苑さんに食らいつく『泥臭さ』でしょ。今はただ、上手い歌を並べて満足してるだけ。……そんなの、Aランクの住人たちは数年前からやってることよ」
「……!」
翌日、バイト先でのボイトレ。 白雪さんは、僕の顔を見るなりピアノの蓋を閉めた。
「……今日はレッスンなしよ。帰りなさい」
「えっ……!? なんでですか、紫苑様!」
「今の貴方の歌には、魂が乗っていない。……『Aランクに上がりたい』という欲求だけで歌っている。そんな汚れた声、私の耳に入れないで」
白雪さんの冷徹な言葉が、胸に突き刺さる。 彼女はAランクで「安定」しているのではない。「最高」を維持するために、日々自分を削り続けているのだ。今の僕のように、数字に怯えて小手先のテクニックで誤魔化している人間とは、立っているステージが違う。
「……このままじゃ、私は貴方を『家畜』として飼うことさえ、止めるわよ」
突き放すような言葉。 僕は独り、閉店後の暗い店内に立ち尽くした。 Bランクというぬるま湯。そこからAランクという「神々の住む階層」を見上げた時、そこには数字だけでは測れない、絶望的なまでの「覚悟の差」が横たわっていた。




