表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『妹はミュート。推しは爆音。』  作者: 沼口ちるの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/82

『第26話:卒業と、新しい場所への切符』

Bランク昇格の祝祭が終わった数日後。 僕の配信画面には、少しだけ寂しい光景が広がっていた。


「……あれ、今日も『たなか』さん、来てないな」


かつてEランクのどん底で、僕がどんなに滑っても「面白いよ」とコメントをくれていた常連たち。その名前が、少しずつ、でも確実に見当たらなくなっていた。


代わりにコメント欄を埋めるのは、Bランクになった僕に興味を持った新しいリスナーや、「おすすめ」から流れてきた初見の人たちだ。 同接数は安定して1万人を超えている。けれど、僕の胸には、ぽっかりと穴が開いたような感覚があった。


『悠くん、有名になりすぎて遠くなっちゃったな』 『昔の、あの放送事故ばっかりしてた頃が懐かしいわ』


そんなDMが届くこともある。 彼らにとって、僕は「自分たちだけが知っている面白い兄ちゃん」ではなく、立派な「Bランクの人気配信者」になってしまったのだ。


「……兄貴、何しけた顔してんのよ」


リビングで、瑠々が自身のSSSランク(月収100万円)の管理画面をチェックしながら声をかけてきた。


「……リスナーが、入れ替わってるんだ。ランクが上がるにつれて、昔から応援してくれた人たちが離れていっちゃって」


「……当然でしょ。ランクが上がるってことは、コンテンツの質が変わるってことよ。アンタの『成長』を喜べる人だけが残って、昔の『身内感』を求めてた人は去る。……それが、私たちが選んだ道の『卒業式』よ」


瑠々の言葉は、冷たいけれど真実だった。 彼女もまた、SSSランクへ上がる過程で、数えきれないほどの別れを繰り返してきたのだ。


翌日。バイト先でのボイトレ。 白雪さんは、僕の少し精彩を欠いた歌を聴いて、即座にピアノの手を止めた。


「……今の歌、誰に届けるつもりで歌ったの?」


「……。……昔から応援してくれた人たちが、いなくなっちゃって。……なんだか、申し訳なくて。……紫苑様は、Aランクで長く安定されていますけど、そういう寂しさは感じないんですか?」


白雪さんは僕に歩み寄り、冷たい指先で僕の喉元を軽く突いた。


「……傲慢ね、悠。私はAランク(月収20万)として、常に最高の結果を出す責任がある。去った人を追いかけるのは、今の私に期待してくれている人たちへの冒涜よ」


彼女は、自分を信じてくれる今のリスナーを裏切らないために、あえてAランクという激戦区で「プロ」として戦い続けている。


「……貴方はもう、Eランクの『おもちゃ』じゃない。Bランクの『歌手』なの。……寂しがるのは、私のいるAランク、そしてその先の頂点に立ってからにしなさい。今はただ、その喉を新しい1万人のために使いなさい。……いいわね?」


「……はい、紫苑様!」


ランクアップは、古い自分との決別でもある。 僕は機材の前に座り直し、新しいリスナーたちに向けてマイクを握った。


「こんばんは、悠です。……今日初めて来てくれた人も、ずっと見てくれている人も。……Bランクになった僕の『今』を、聴いてください」


去っていった人たちへの感謝を胸に、僕は新しい「戦場」への第一歩を踏み出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ