『第24話:神々の領域、届かぬ星の距離』
予選終了後の静寂。 暗くなったモニターに映る自分の顔は、想像以上に情けなかった。
「……なぁ、瑠々」
リビングで、ランキング表を無表情に眺めていた妹に声をかける。
「優美那さんとの差は、数万ポイントだった。……でも、もしこれが紫苑様……Aランクのトップ層相手だったら、どうなってた?」
瑠々はポテトチップスを噛み砕き、冷淡に言った。
「……話にならないわよ。紫苑さんは今、あえてAランクに留まっているけど、彼女の本気の固定ファンは優美那さんの比じゃない。アンタが今日投げられたギフトの総数、紫苑さんなら『挨拶代わり』の10分で集めるわよ」
「……10分……」
「そして、私のSSSランク(月収100万円)。……アンタが今日必死にかき集めた一週間のスコア、私なら一回の『おやすみ配信』で超えるわ。……それが、ランクの本当の意味。アンタが今まで見ていたのは、ただの数字じゃない。『命の削り合い』の結果なのよ」
僕は言葉を失った。 隣で一緒にご飯を食べ、生意気な口を叩く妹。 バイト先で不器用な僕を叱ってくれる白雪さん。 彼女たちが立っている場所は、僕が「バズった」程度で手が届くような丘ではなく、雲を突き抜けたエベレストの頂上だったのだ。
「……僕、勘違いしてた。紫苑様と同じ歌を歌えたから、いつか追いつけるなんて……傲慢だった」
翌日。いつもの本屋のバックヤード。 白雪さんは、僕が持参した「敗北の分析ノート」に目を通すこともなく、ただ一言、こう告げた。
「……自分の小ささが分かったようね」
「……はい。紫苑様の凄さを、本当の意味で理解していませんでした。……僕は、まだ何者でもありません」
白雪さんは、棚の本を整理しながら、珍しく柔らかな声で続けた。
「……私は、この場所(Aランク)から動くつもりはないわ。……貴方が、本気で私を引きずり上げに来るまでは。……優美那に負けた程度で絶望している暇があるなら、その喉を、もっと私に捧げなさい」
彼女は、僕が彼女の高さを知るのを待っていた。 恐怖して立ち止まるためではなく、その絶望を燃料にして、より高く跳ぶために。
「……次は、負けません。優美那さんにも、この自分の甘さにも」
「いい返事よ、家畜(Dランクの顔色をしたCランク)くん。……さあ、レッスンの続きを始めるわよ」
時給7万円のCランク。 時給100万円のSSSランク。 その差は圧倒的だ。けれど、数字では測れない「執念」が、僕の胸の中で静かに、しかし激しく燃え始めていた。




