『第23話:届かなかった数センチ、Bランクの矜持』
「……予選終了まで、あと10分」
モニターに表示されたギフトスコアのグラフ。 僕のバーは、一時は優美那のそれを抜き去る勢いだった。同接も僕の方が上だ。 けれど、残り数分というところで、優美那のスコアが「静かに、けれど圧倒的に」伸び始めた。
『優美那、Aランク目指すんだろ! ここは通さねえぞ!』 『古参の意地見せようぜ、みんな!』
画面の向こうで、優美那が涙を堪えながら歌っているのが分かる。 彼女のリスナーは、僕のような「一時の熱狂」で集まった野次馬ではない。彼女がBランクで苦しみ、Aランクを夢見てきた月日を共に歩んできた「ガチ勢」たちだ。
彼らが投げるギフトは、一つひとつに重みがあった。 数千人が数千円ずつ、呼吸を合わせるように積み上げていく「盤石の城壁」。
「……っ。強い……。これが、Bランク上位の……底力……!」
僕の枠でも、家畜兵団たちが必死にギフトを投げてくれている。 「悠を勝たせろ!」「Cランクの奇跡を見せてやる!」 けれど、優美那の「絆の総量」には、あと一歩、届かない。
【予選終了! 1位:優美那 2位:悠】
画面に無情なリザルトが表示された。 わずか数万ポイントの差。僕にとっては、絶望的なほど遠い数センチだった。
「……負け、ました。……優美那さん、おめでとうございます」
配信を切った直後、全身から力が抜けて椅子に沈み込んだ。 悔しくて、喉の奥が熱い。紫苑様に、あんなに特訓してもらったのに。
すると、スマホが震えた。優美那からのメッセージだ。
【優美那:悠さん、ありがとうございました。……最後、本当に怖かったです。悠さんの勢いがあったから、私も、リスナーさんも本気になれました】
「……。……。……完敗だな」
自嘲気味に笑っていると、リビングのドアが勢いよく開いた。
「……何よ、その情けない顔。SSSランクの私の兄が、Bランクに負けてシケてんじゃないわよ」
瑠々が、食べかけのポテチの袋を机に置いた。 「アンタに足りなかったのは『声』じゃない。『時間』よ。あの子が積み上げてきた時間を、アンタはたった一ヶ月のバズりで超えようとした。……それがどれだけ傲慢か、分かった?」
「……ああ。痛いくらいにな」
「分かったなら、さっさと準備しなさい。……ほら、紫苑さんから連絡」
瑠々が指差したスマホの画面には、白雪さんからの短い一言があった。
【白雪:……明日。いつもの場所で。……一から、やり直しよ】
「……はい、師匠」
敗北の味は苦い。けれど、この苦さが僕を「ただのラッキーなCランク」から、本物の「ランカー」へと変えていくのだ。




